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第4章ー⑮ オフもハンターの仕事のうち

久々の日常回です


前回の続きです。ここまで読んでいただいてありがとうございます。


  連日の依頼と濃密な戦闘のあと、

 さすがに張りつめ続けた空気を一度ほどこう、

 という話になったのはごく自然な流れだった。

 

  ロゼッタが「今日は……戦わない日、というのも大事だと、言われました」

 と少し不慣れな言い方で切り出し、リンとミレイアが顔を見合わせて笑い、

 セリカが「賛成! 腹減ったし!」と即答したことで、

 四人は久しぶりに“仕事ではない時間”をギルドの酒場で過ごすことになった。


  夕刻のギルド酒場はいつも通り騒がしく、

 討伐帰りのハンターたちの笑い声や、食器がぶつかる音、

 酒の匂いが入り混じっているはずだった。

 ――だが、その空気が、四人が扉をくぐった瞬間、わずかに揺れた。


  まず目を引いたのは、装備を脱いだ彼女たちの姿だった。

 戦闘用の重たい防具も、武器もない。

 代わりに、動きやすさを重視した簡素な服装だが、

 それが逆にそれぞれの個性を際立たせていた。


 ロゼッタは淡い色合いのワンピースに近い服で、

 普段より柔らかく見える表情をしており、

 無意識に背筋が伸びているのがいかにも彼女らしい。

 

 リンは軽装ながらも線の美しさが際立つ服で、

 どこか無防備に見える微笑みが戦場との落差を強調している。


 ミレイアは落ち着いた色合いでまとめつつ、

 凛とした雰囲気はそのまま、むしろ普段より近寄りがたい美しさを放っていた。


 そしてセリカは、動きやすさ全振りの服装ながら、

 健康的で明るい存在感が前面に出ていて、ぱっと見ただけで「元気な姉御肌」とわかる。


 酒場のあちこちで、ひそひそと声が立つ。


「……あれ、最近噂の四人じゃねえか?」

「武装してないと、こんな感じなのかよ……」

「タイプ違いすぎだろ、反則だろ……」


 若いハンターが顔を赤らめ、ベテランが面白そうに顎を撫でる。

 誰が好みか、なんて話題が自然と生まれ、

 しかしそれが下卑たものにならないのは、

 彼女たちが“強い”と知れ渡っているからでもあった。


「戦場じゃ鬼みたいな動きするのにな」

「だからいいんだろ。オンとオフが分かれてる奴は、長生きする」


 そんな会話が、彼女たちの耳にもかすかに届く。


 四人は空いている卓に腰を下ろし、料理を頼み、

 久しぶりに戦術でも依頼でもない話題で笑い合った。


 セリカが料理を頬張りながら「やっぱ肉は正義!」と満足そうに言い、

 リンが甘い菓子を少しずつ味わい、

 ミレイアは酒を控えめにしつつも表情を緩めている。

 ロゼッタは果実酒を一口飲んで、少しだけ目を丸くし、

 「……甘いですね」と正直な感想を漏らして、周囲の空気を和ませた。


 その様子を、少し離れた席から静かに見ていたベテランハンターが、

 グラスを片手に立ち上がり、何気ない調子で近づいてくる。


「邪魔する気はねえが……いい顔してるな」


 四人が視線を向けると、彼はにやりと笑った。


「戦ってる時の顔も悪くねえが、

 こういう時間をちゃんと取ってる奴は――長く生き残る」


 説教じみた言い方ではなかった。

 ただの経験談として、ぽつりと落とすような言葉だった。


「オフを舐めるな。休むのも、笑うのも、飯をうまいと思うのも、

 全部 “ハンターの仕事のうち” だ」


 そう言って、彼は自分の席に戻っていった。


 ロゼッタはその背中を見送りながら、胸の奥に小さく何かが落ちるのを感じた。

 戦うことだけが、ハンターじゃない。

 生きて、戻って、また笑える場所があること――それ自体が、次の戦いを支える。


 酒場の喧騒の中、四人はしばらくの間、

 ただの“女の子”として、穏やかな時間を過ごしていた。


 料理と酒が一通り並び、酒場の喧騒が少しだけ心地よい背景音に変わった頃、

 話題は自然と“戦い以外の時間”へと流れていった。

 剣も銃も置いた、卓を囲む四人の空気は驚くほど柔らかい。


「でさ、休みの日ってみんな何してんの?」

 セリカが肉の皿を片手で押さえながら、何でもない調子で切り出した。


「俺は……まあ、寝る!」と笑うような声を出しつつ、

「あと工具いじったり、師匠の手伝いをしてると一日終わってるな」と続ける。

 戦場での豪快さと同じで、オフも実に分かりやすい。


「私は本を読むことが多いわ」

 ミレイアはグラスを軽く回しながら答える。

「依頼の記録や、地形の資料。あと、古いハンターの手記とか

 ……落ち着くのよ、ああいうの」


「相変わらず真面目だなあ」

 リンがくすっと笑いながら、

「私は街をぶらつくかな。武器屋とか、甘味屋とか、あと服屋も」と続ける。

「戦場じゃボロボロになるから、せめてオフくらいはちゃんとした格好したいし」


 視線が自然とロゼッタに集まる。


「ロゼッタは?」

 リンが促すように尋ねると、

 ロゼッタは一瞬だけ言葉を探し、少し照れたように視線を下げた。


「私は……特別なことは」

 果実酒の杯を両手で持ったまま、律儀に答える。

「依頼がない日は、体の調整をして、訓練して、

 あとは……下宿に戻って休みます」


「下宿?」

 セリカが眉を上げる。


「ええ。ギルドの裏通りにある、安いところです。

 音はうるさいですが……寝るだけなら、問題ありません」


 その言い方があまりに真面目で、三人は顔を見合わせた。


「……それ、問題あるやつじゃない?」

 リンが率直に言う。


「そうね」

 ミレイアも頷いた。

「ロゼッタ、あなた今はもう“安宿で寝るだけの新人”じゃないわ」


 セリカが肘をついて、ぐっと身を乗り出す。


「ねえねえ、それさ、引っ越した方がよくない?」

「え……?」

「だってさ、拠点って大事だろ。ちゃんと休めて、

 装備置けて、飯もまともに食える場所」

 

 セリカはハンターらしい実感のこもった声で言った。

「戦闘力って、休息の質で結構変わるんだぜ?」


 ロゼッタは少し戸惑ったように瞬きをする。


「……考えたことが、ありませんでした」

 正直なその答えに、リンが小さく笑った。


「ほらね」

「昔の癖が抜けてないんだと思うわ」

 ミレイアは柔らかく言葉を添える。

「安全で、落ち着ける場所を持つのも、生き方の選択よ」


 ロゼッタは杯の中の果実酒を見つめ、しばらく考え込んだあと、ゆっくりとうなずいた。


「……はい。

 引っ越し、検討します」


 その素直すぎる返事に、セリカが満足そうに笑う。


「よし決まり! 今度、みんなで物件見に行こうぜ!」

「家具とかも見たいわね」

「それ、楽しそうだな」


 四人の卓から、また小さな笑い声がこぼれる。

 戦場では背中を預け合う仲間が、こうして日常の話を共有していく

 ――その時間そのものが、次の戦いへの静かな力になっていくのだと、

 ロゼッタはまだ言葉にできないまま、胸の奥で感じていた。


 続く

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