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第4章ー⑭ 全部を取らない勇気

明けましておめでとうございます。今年度もぼちぼち更新していきます

 ロゼッタたちが部屋を出ていくと、扉が閉まる音がやけに重く響いた。

 残されたのは、グレンと数名の上層職員、そして記録官だけだった。


 グレンはしばらく何も言わず、

 机の上に広げられた簡易地図と討伐報告書に目を落としていた。

 指でなぞる線は、遺跡の通路、罠の位置、撤退経路――

 すべて「一度失敗した前提」で組み直された痕跡だった。


「……前回の失敗を、ちゃんと血肉にしてる」


 ぽつりと、誰に向けるでもなく漏らす。


「無理に押さない。

 倒せるかどうかじゃなく、帰れるかどうかで判断した。

 一度引いて、情報を整理して、準備をし直して――それで討伐成功だ」


 記録官が静かに頷く。

「撤退を“失敗”と誤認しない判断力ですね」


「ああ」

 グレンは苦笑した。

「そこが一番難しい。

 若いハンターほど “勝てそう” に見える瞬間で突っ込む」


 だが、次の瞬間、その表情は引き締まった。


「……ただし」


 視線が、報告書の“パーティ構成”の欄に落ちる。


「数の問題は、やっぱり厳しい」


 四人。

 近接、射撃、罠、工作、連携。

 完成度が高すぎる。


「誰かが欠けたら、一気に成立しなくなる。

 安全マージンを積んでるようで、実は薄い」


 別の職員が言葉を挟む。

「合同依頼で組んだ、ハウゼル隊からも報告が上がっています」


 グレンは顔を上げた。


「同じ評価です」

「 “連携が完成しすぎている” と」


 その言葉に、グレンは鼻で短く息を吐いた。


「……やっぱりか」


 彼の脳裏に、ロゼッタ達の光景が浮かぶ。

 ロゼッタたち四人は、言葉を交わさずとも動きが噛み合い、

 他のパーティが介入する余地がほとんどなかった。


「強みであり、弱点でもあるな」

「外から入りづらい」


 記録官が言う。

「合同依頼でも、役割の割り振りが難しい。

 下手に混ぜると、動線を壊しかねないと」


「だろうな」

 グレンは背もたれに体を預け、天井を見上げた。


「四人で完結しすぎてる。

 だからこそ、他と組みにくくなっている」


 それは、かつて何度も見てきた兆候だった。

 優秀な少数精鋭が陥りやすい罠。


「このまま行けば、いずれ“選ばないといけなくなる”」

「四人でできる仕事だけを選ぶか、

 それとも――人数を増やすか」


 しばしの沈黙。


「……急がせるつもりはない」

 グレンは、誰にともなく言った。

「だが、あいつらはもう、Dランクの入り口じゃない」


 記録官がペンを止める。


「伸びすぎている、と?」


「違う」

 グレンは静かに首を振った。

「伸び方が早すぎる」


 彼は、閉じた扉の向こうを一度だけ見た。


「強くなるのはいい。

 だが “強すぎる四人” は――扱いが難しい」


 評価は高い。

 信頼もある。

 それでも、ギルドとして考えなければならない未来が、確実に見え始めていた。


「……もう一つ、付け加えるなら」


 若いギルド職員が、声を落として切り出した。

 彼は言葉を選びながら、しかし逃げずに続ける。


「彼女たち、素直すぎます。

 良くも悪くも」


 グレンは、椅子の背に深く体を預けたまま、視線を報告書から外さない。

 反論はしない。

 むしろ、その指摘を待っていたかのようだった。


「状況を正面から受け止める。

 与えられた条件の中で、最善を探す。

 無茶はしないし、勝算がなければ引く」


 それはハンターとして理想的だ。

 だからこそ、彼は静かに続けた。


「だが――狡さが足りない」


 グレンの指が、机の上の報告書をとん、と叩く。

 その音が、やけに大きく響いた。


「探索もやりたい。

 討伐もやりたい。

 素材も持ち帰りたい。

 全部“やれるならやる”という考え方だ」


 別の職員が小さく頷く。

「危険性を理解していないわけでは……」


「理解してる」

 グレンは即座に言った。

「だから撤退した。

 それは今回、はっきり評価している」


 声は低く、しかし確かだった。


「一度失敗を経験し、

 次は“勝てないなら引く”という判断ができた。

 それはDランクとして重要な成長だ」


 だが、と一拍置く。


「それでもなお、まだ真っ直ぐすぎる」


 若い職員が、ふと疑問を口にする。


「……グレンさんなら、どう()()します?

 今回のような、遺跡全体を使い、学習する機械獣を相手に」


 室内の空気が一段と静まる。

 全員の視線が、グレンに集まった。


 彼は一瞬だけ考え――すぐに答えを出した。


「考えさせない」


「考えさせない……?」


「相手が学習型なら、

 学習そのものが成立しない状況を作る」


 淡々とした声で、しかし内容は過激だった。


「罠を読む?

 連携を解析する?

 立ち回りを最適化する?」


 グレンは鼻で笑う。


「そんなことをさせる前に、

 どうにもならない火力で破壊する」


 職員たちが息を呑む。


「遺跡ごと壊す。

 通路も、遮蔽物も、逃げ場も、全部だ。

 ()()()()()()()()


 それは極論であり、同時に――

 高ランクハンターにとっては、現実的な解決策だった。


「ロゼッタたちも、よく考えている」

 グレンは少しだけ声音を和らげる。

「準備、連携、安全確保。

 Dランクとしては出来すぎだ」


 しかし、指を一本立てる。


「だが、飛躍が足りない」


「もっと乱暴でいい。

 もっと身勝手でいい。

 “正解”に縛られなくていい」


 探索も討伐も、すべてをこなそうとする姿勢。

 それは誠実さであり、同時に危うさでもある。


「危ないと感じたら、

 探索だけして帰り、討伐は任せる」



「あるいは――人数、火力を以て

 討伐だけに絞る」


 成果が減ってもいい。

 評価が伸びなくてもいい。


「ハンターは、生きて帰れば次がある」


 グレンは椅子から立ち上がり、報告書を閉じた。

 その動作は静かだが、決意を含んでいる。


「四人は優秀だ。

 だが、優秀なままじゃ――死ぬ」


 必要なのは、

 狡さ。

 割り切り。

 そして “全部を取らない勇気”


「そこに気づけるかどうかが、

 次の壁だな」



 続く

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