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第4章ー⑬ 作戦は、奇を以て良しとすべし

前回の続きです。ここまで読んでいただいてありがとうございます。


 準備は、驚くほど静かに始まった。

 前回の遺跡討伐で得たものは、素材でも経験値でもない

 **「機械獣は、こちらの“賢さ”を学ぶ」**という確信だった。


「……つまりさ」

 リンが、地図とメモを並べながら言う。

「罠も連携も、うまくやりすぎると“覚えられる”ってことだよね」


「うん」

 ミレイアが頷く。

「誘導、挟撃、死角。全部、前回で“最適解”として記録された可能性が高い」


 セリカは、作業台の上に並べた部品を見下ろしながら、ぽつりと言った。

「……だったら、最適解をやらなければいい」


 その一言で、空気が変わった。


 ロゼッタは、ふっと息を吐き、昔の記憶――ドクの言葉を思い出していた。

『考えるなとは言わねえ。でもな、考えすぎると“機械と同じになる”。

 機械を裏切る一番の方法は――()()()()()になることだ』


「シンプルに行こう」

 ロゼッタが言う。

「罠は使う。でも、配置は読ませない。

 連携はする。でも、美しくやらない」


「大雑把に?」

 セリカが首を傾げる。


「大雑把に」

 ロゼッタは頷いた。

「予測できない方向から、予測できない威力で、予測できないタイミング」


 作戦は、驚くほど単純だった。


 ――入口から正面突破。

 回り道も、誘導もない。

 隠さない。逃げない。

 ただし、全力で“うるさく”行く。


 遺跡に入った瞬間、リンが引き金を引く。

 精密射撃ではない。

 対装甲弾を、壁、床、天井にばら撒く。

 跳弾、粉塵、破片。

 センサーが拾う情報量を、意図的に飽和させる。


 機械獣が反応する前に、セリカが投げたのは――威力を調整していない爆発物だった。

 狙いは関節でも装甲でもない。

 「近くにあれば全部吹き飛ぶ」場所。


 爆炎が広がり、遺跡が悲鳴を上げる。


「……反応、遅い!」

 ミレイアが叫ぶ。


 当然だ。

 前回学習したのは、精密な誘導、段階的な罠、最短距離の攻撃。

 だが今回は違う。

 情報が多すぎる。

 無駄が多すぎる。

 効率が悪すぎる。


 ――機械獣は、処理しきれなかった。


 ロゼッタは、天井の梁を見上げ、ワイヤーフックを撃ち込む。

 狙いは計算された最適点ではない。

 「引っかかりそうな場所」。


 そして、落ちる。


 ウォーハンマーを両手で構え、

 重力と勢いだけを味方につけて叩き込む。


 グワァン

 

 轟音。

 火花。

 装甲が歪み、内部フレームが悲鳴を上げる。


 機械獣が後退する。

 ――逃げる、という選択肢を取った。


「学習が、裏目に出てる……」

 リンが呟く。


「ええ」

 ミレイアが短く答える。

「 ”賢い敵” が急に “賢くない敵” となった、処理できてない」


 セリカは、息を整えながら笑った。

「なんか、ひどい戦い方だね」


「私たちはハンター、美しさはいらない」

 ロゼッタは、ウォーハンマーをしまう。


「機械獣に勝つ方法は、機械にならないこと」


 遺跡の奥で、金属音が遠ざかっていく。

 完全な撃破ではない。

 だが、確実に――主導権は奪った。


 ロゼッタたちは、互いの顔を見て頷く。

 洗練されていない。

 美しくもない。

 けれど、生き残るための、人間らしい戦い方だった。



 しかし――その雑さが、通じない相手もいる。


 遺跡の奥、崩れた柱の影から姿を現した個体を見た瞬間、

 ロゼッタの背筋に冷たいものが走った。

 重装甲。左右非対称のセンサー。

 そして、こちらの動きを一拍遅れてなぞるような挙動。


「……学習、継続型」

 ミレイアが低く言う。

「さっきの戦い、もう見られてる」


 雑に殴る。

 情報を飽和させる。

 それすらも、“想定外”として処理され始めている。


 その瞬間、ロゼッタの脳裏に、ひとつの名前が浮かんだ。


 ――バルカ。


 私にとっての恩人、そして凄腕の戦略家。

 あの(ひと)は、決して派手なことをしなかった。

 だが、戦場を盤面として見ていた。


『勢いで勝てるのは、相手がこっちの勢いを知らない時だけだ』


『学ぶ敵にはな、答えを与えちゃいけねえ。常に判断させろ』


『戦略家が一番嫌がるのは、盤面ごとひっくり返されることだ』


「……例の作戦を」

 ロゼッタが言った。


 声のトーンが変わったのを、三人はすぐに察した。

 いつもの“前に出るロゼッタ”ではない。

 判断するロゼッタだ。


「リン、当てないで。見せるだけでいい」

「了解」


「ミレイア、罠は一個でいい。逃げ道を一つだけ残して」

「……誘導じゃなく、限定ね」


「セリカ」

 ロゼッタは一瞬、言葉を選んだ。

「一番硬いところを作って。壊れないと判断させて」


 セリカは驚いたが、すぐに頷いた。

「本領発揮だよ」


 戦いは、始まらなかった。


 彼らは動かない。

 撃たない。

 逃げない。


 機械獣が一歩踏み出す。

 センサーが唸り、状況を計算する。


 ――敵は四。

 ――距離は中。

 ――火力は未知。

 ――退路は一。


 それだけの情報しか、与えない。


 リンが、あえて外した弾を一発撃つ。

 柱に当たり、火花が散る。

 「ここから撃てる」という事実だけを提示する。


 機械獣が退路へ動く。

 逃げ道だと“判断した”方向へ。


 そこに、ミレイアの罠がある。

 爆発しない。

 拘束もしない。

 ただ、動きを鈍らせるだけ。


 セリカが前に出る。

 重装備を活かし、真正面から受け止める。

 攻撃を防ぎ、押し返す。

 削らない。

 壊さない。

 時間を使わせる。


 機械獣の演算が、歪み始める。


 ロゼッタは、その“遅れ”を見逃さなかった。


 天井。

 梁。

 位置。

 角度。


 ――ここだ。


 今度の一撃は、必殺の一撃じゃない。次につなげる一撃。

 狙いは一か所。

 演算が最も遅れる、関節基部。


 落下。

 衝撃。

 一点集中。


 装甲が割れ、内部ユニットが露出する。


「ミレイア」


 短い合図。

 今度は、外さない。


 対装甲弾が、露出した内部を正確に撃ち抜く。

 爆発は起きない。

 停止だけが、起きた。


 機械獣は、前のめりに崩れ落ちる。


 静寂。


 ロゼッタは、深く息を吐いた。


「作戦は、奇を以て良しとすべし」

 バルカの戦闘後の葉巻を咥えた笑顔が思い出された。


「バルカの言ってた言葉の意味が、少しわかったかもしれない」

 小さく、誰にも聞こえない声で。


 雑に勝つ戦い。

 賢く勝つ戦い。

 どちらも必要だ。


 ”臨機応変” に切り替えられること。

 それこそが、人間の強さなのだと。


 脳まで機械化された完全機械化剣闘士が、勝てなかった理由と同じである

 ――最適解しか選ばない存在の限界

 

 四人は、何も言わずに頷き合った。

 次に進むための、確かな手応えを胸に抱きながら。



 続く

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