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第4章ー⑩ 得意分野

前回の続きです。ここまで読んでいただいてありがとうございます。

 翌日、ハンターギルドの掲示板はいつも通りの喧騒に包まれていた。

 遠距離護衛、車両同行、集団掃討、輸送路確保――紙片が幾重にも重なり、誰もが条件より先に報酬額へ目を走らせている中で、ロゼッタたちは掲示板の端、やや影になる位置に固まって立っていた。


「……これ、どう思う?」


 リンが指差したのは、報酬も期限も控えめな一枚の依頼書だった。

《旧第七採掘遺跡・内部調査および機械獣討伐/車両搬入不可》


 その一文を見た瞬間、四人の間に妙な沈黙が落ちる。


「車両不可、ってことは……」


「重火器も制限されるね」

ミレイアが自然に続ける。


「逃げ道も少なそうだな」

セリカが腕を組み、地形を頭の中で描くように天井を見上げる。


 ロゼッタは何も言わず、その紙をじっと見つめていた。

 鉱山跡、プルータス、天井、落下、近接、判断――

 これまでの戦いが一本の線になって、今、目の前の依頼に重なっていく。


(……ここだ)


 オラクルの声は控えめだったが、確信を帯びていた。

《環境制限:高。近接戦闘適性:最大化。現在の編成との相性、非常に良好》


「討伐数は多くないけど、内部構造は複雑そうだ」

リンが言う。


「逆に、数で押されることはない」

ミレイアが補足する。


「重装の前衛が生きる」

セリカが短くまとめる。


 ロゼッタは顔を上げ、三人を見回し、はっきりと言った。


「――これを受けよう」


 一瞬の迷いも、強がりもなかった。


「全部をやらなくていいって、昨日言われた。

 だったら、今の私たちが“確実に勝てる場所”を選ぶ」


 リンが少し笑い、

「派手な依頼は、後でいくらでもあるしね」と肩をすくめる。


「生きて帰る前提なら、賢い」

ミレイアは淡々と、だが納得した声で言った。


 セリカは依頼書をひったくるように掲示板から剥がし、

「よし、遺跡専門ってやつだな!」と快活に笑った。


 受付で依頼を提出すると、職員が一瞬だけ顔を上げ、

「……最近、地下ばかりですね?」と不思議そうに尋ねた。


 ロゼッタは礼儀正しく一礼し、静かに答える。


「はい。今は、そこが一番、私たちに合っています」


 その言葉は控えめだったが、

“自分たちの戦場を選ぶ”という覚悟が、確かに込められていた。


 ギルドの片隅でその様子を見ていたベテランが、別のベテランに小声で言う。


「……あの四人、派手さはないが、いい選び方をするようになったな」


「生き残るやつの選び方だ」


 ロゼッタたちはまだ知らない。

 この日からギルド内で、彼女たちがこう呼ばれ始めることを。


――「遺跡専門チーム」。



 旧第七採掘遺跡の入口は、岩盤と金属が無理やり縫い合わされたような

歪な構造をしており、かつて車両が通れたであろう広さは崩落によって半分以下に削られ、

今は人が横一列で歩くのがやっとという細さにまで狭まっていた。


「まず、戻り道の確保から」


 ロゼッタの声は低く、しかし確信があった。突入前に武器を抜くことはない。

代わりに視線が走り、足元、天井、壁面の支柱、錆びたレールの残骸、

すべてを“逃げ道として使えるか”“遮蔽物になるか”という基準で切り分けていく。


 ミレイアは無言で頷き、壁際にしゃがみ込むと、

金属屑とワイヤーを組み合わせて簡易の警報罠を設置する。

 踏めば音が鳴るだけ、壊れれば位置が分かるだけ

――だがそれで十分だった。敵を殺すための罠ではなく、戦場を把握するための罠。


「分岐は三つ。正面は広いが、天井が低い。左は細く長い。右は……行き止まり」


 リンが銃を構えたまま、淡々と報告する。

 その声を聞きながら、セリカは右の行き止まりに目をやり、にやりと笑った。


「逃げ場がないってのは、使いようだな」


 ロゼッタは短く息を吐き、決断する。


「敵を引き込むなら、右。

 戦うなら、正面じゃなく、こちらが形を作れる場所」


 全員がそれを当然のように受け入れ、動き出す。

 声を荒げる者はいない。役割の確認は最小限、それでも齟齬は一切なかった。


 ――数分後。


 ギィ……ガ……ギャリ……


 金属が擦れる音が、遺跡の奥からじわじわと近づいてくる。

 複数。重量級。機械獣特有の、不規則で、それでいて確実に“こちらを感知している”足音。


 ミレイアの罠が、乾いた金属音を鳴らした。

 リンが即座に銃口を上げるが、撃たない。撃つ必要がない。


「……来る」


 セリカは前に出ず、一歩引いた位置で構える。

 重装の前衛だが、突っ込む役ではない。止める役だ。


 最初の個体が視界に現れた瞬間、ロゼッタは理解する。

 装甲は厚いが、関節部は古い。重量配分が悪い。

 そして――狭所では、旋回が致命的に遅い。


「今」


 短い合図。


 リンの銃声が響く。

 バンッ、バンッ!

 狙いは破壊ではなく誘導。火花が散り、

機械獣が本能的に進路を変えた瞬間、セリカが一歩踏み込み、盾代わりの装甲で通路を塞ぐ。


「止まれッ!」


 ガンッ!!

 衝突音。

 機械獣の重量が正面から叩きつけられるが、セリカは下がらない。

 下がらないために、ここに立っている。


 その横を、ロゼッタが滑るように抜ける。

 両手武器を片手に持ち替え、重心を低く、無駄な力を削ぎ落とした動きで関節部へと踏み込む。


 ギャリッ――!!


 刃は深く入らない。

 だが、入る必要もない。


「ミレイア!」


「了解」


 罠が作動する。

 天井から落ちたワイヤーが、機械獣の脚部に絡みつき、動きを一瞬止めた、

その“止まった一瞬”を、ロゼッタは逃さない。


 ズンッ!!


 打撃が、関節の芯を正確に叩く。

 装甲が軋み、機械獣が傾いたところへ、リンの銃弾が追撃として叩き込まれる。


 バンッ! バンッ!


 撃破。


 誰も声を上げない。

 息を整え、次を警戒する。


 オラクルの声が、静かにロゼッタの頭に響く。

《損傷率:最小。弾薬消費:想定内。戦術連携:良好》


(……大丈夫だ)


 ロゼッタはそう確信する。

 派手な一撃も、命懸けの賭けもない。

 だが、全員が生きている。


 次の個体が来ても、同じように。

 三体目が来ても、焦らず。

 撤退路は常に背後にあり、罠はまだ残っている。


「行けるな」


 セリカが短く言う。


「行ける」


 ロゼッタは頷き、剣を握り直す。


 これは剣闘ではない。

 見世物でもない。

 ――ハンターとしての戦いだ。


 そして、この遺跡は。

 この閉じた場所は。


 今、この四人のために、きちんと“戦場”になっていた。


 

 続く

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