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第4章ー⑨ 合同依頼――得意な場所で勝て

前回の続きです。ここまで読んでいただいてありがとうございます。

 合同護衛依頼の説明は、ギルド本館の奥、

普段は使われない小さな作戦室で行われたのだが、

そこに集められた人数を見た瞬間、リンが思わず言葉を失い、

ミレイアも無意識に視線を左右へ動かし、

最後に残った三人のベテランハンターだけが

静かに立っている状況をようやく理解した。


「……三人、だけ?」


 リンの呟きは責める調子ではなく、純粋な驚きだったが、

その言葉に反応したのは無精ひげを生やした中年の男――ハウゼルで、

年季の入った鎧に無数の補修痕を残しながらも、

それを誇るでも隠すでもない自然体の立ち姿が、

この男がどれほど長く生き残ってきたかを雄弁に物語っていた。


「護衛は数じゃない」


 短くそう言い切る声には、説明する気も、納得させる気もなく、

 ただ事実だけを置いていく重さがあり、ロゼッタは思わず背筋を伸ばした。


 ルナと呼ばれた弓使いの女は地図を机に広げ、

その端を指で押さえながら、旧街道の曲がり角や崩落跡、

視界の悪くなる地点を次々となぞっていき、

そこが“敵が出る場所”ではなく、

“出たら最悪な場所” であることを、説明もなしに示してみせる。


「物資輸送車両二台、距離は短い、でも最近この辺は機械獣の反応が増えてる」


「つまり、来る前提で動くってことですね」


 セリカの確認に、ハウゼルはわずかに口角を上げただけで肯定し、

 その反応だけで、この男が常に最悪を想定し、それでも生き残ってきたことが分かった。


 出発してからロゼッタたちが感じた違和感は、明確な形を持たなかったが、

確実に“何かがおかしい”という感覚として積み重なっていき、

前衛と後衛の境界が曖昧なまま隊列が流動的に変化し、

誰が指示を出すでもなく、全員が同じ判断を共有しているかのように位置を入れ替えていく様子に、

リンは言葉にできない居心地の悪さを覚えていた。


 敵が出そうな地形に差し掛かると、歩調は自然に落ち、

逆に見通しのいい場所では無駄に足を止めることもなく進み、

まるで戦うために歩いているのではなく “戦わないために歩いている” ように見えた。


 やがて、崩れた建物の影から機械獣のシルエットがちらりと見えた瞬間、

ロゼッタは反射的に前へ出ようとしたが、その動きを察したハウゼルの手が静かに上がり、

声を荒げることもなく「待て」とだけ告げる。


 数秒後、機械獣は輸送隊を認識することなく進路を変え、

瓦礫の向こうへと消えていき、その背中を見送りながらセリカがゆっくりと息を吐いた。


「……今、行っていたら、確実に戦闘になってました」


「なるな」


 即答だった。


「勝てる戦いでも、やらない方がいい戦いはある」


 その言葉は、これまで“倒すこと”を基準に判断してきたロゼッタたちの価値観を、

 否定するでも壊すでもなく、ただ静かに横へずらした。


 結局、目的地に到着するまで、大規模な戦闘は一度も起こらず、

輸送車両は傷一つないまま補給拠点へと滑り込み、依頼完了の合図が出た瞬間、

リンが拍子抜けしたように「……楽、でしたね」と漏らす。


 ハウゼルはその言葉を聞いて小さく笑い、

「そう感じたなら成功だ」と返し、

「必死だったなら、その時点で護衛は失敗している」と続けた。


 ミレイアはその言葉を噛みしめるようにしながら、

「私たち、守られていましたよね」と静かに言い、

 ルナは否定も謙遜もせず、「全面的に」と即答した。


「君たちは強い、でも全部を自分でやろうとする、

 それは討伐向きであって、護衛向きじゃない」


 ロゼッタは深く頭を下げ、その動作に込めた感謝と反省を、

 ハウゼルは一目で理解したように真剣な表情になり、低い声でこう言った。


「ベテランってのはな、強いから生き残ったんじゃない、

 無駄に戦わないって選択を、何度も何度も、命を賭けて覚えてきただけだ」


 その言葉は、αチームの凄さを改めて実感させると同時に、

 ロゼッタたちが“これから増える側”であることを、はっきりと突きつけていた。


 護衛任務が完全に終了し、補給拠点の外れで簡単な確認と解散の段取りが進む中、ロゼッタたちが自然 とハウゼルの周りに集まっていたのは、誰かが呼び止めたからではなく、ただこの男の言葉を、もう少しだけ聞いておきたいという無意識の一致だった。


「一つ、余計なことを言っておく」


 そう前置きしたハウゼルは、指を組むでも腕を組むでもなく、

 地面に落ちた小石を靴先で軽く転がしながら、

 相手の反応を探るような視線も向けずに続ける。


「人数が少ないうちはな、何も全部の依頼を請ける必要はない、

 むしろ “請けない判断” ができるかどうかで、その先が決まる」


 リンが思わず身を乗り出し、

 ミレイアは一瞬だけ目を伏せて自分たちのこれまでを思い返し、

 セリカはその言葉を否定する理由を探そうとして、

 結局何も見つからずに口を閉じた。


「護衛も、掃討も、長距離遠征も、全部できるのは、

 車両と人員と代替要員が揃ってからだ、

 足りないものが多い時に万能を目指すと、最初に壊れるのは()()()になる」


 その言葉は、以前グレンが口にした“安全マージン”という概念と静かに重なり、

 ロゼッタの胸の奥で、これまで一直線だった進み方に初めて“幅”が生まれた感覚があった。


「今のお前たちの見立てだが……」


 ハウゼルはようやく顔を上げ、四人を一人ずつ、

 戦闘能力ではなく“戦い方”を見るような目で見回し、

 最後にロゼッタで視線を止める。


「討伐だ、特に遺跡、地下、崩落地帯みたいな場所で、

 車両が入らず、重火器が持ち込みづらく、逃げ場が限られる場所」


 その瞬間、ロゼッタはこれまでの戦闘

 ――鉱山跡、閉所、プルータス、グラトニクスに叩き込んだ

 パイルバンカーの感触を、ありありと思い出していた。


「そういう場所じゃ、数と火力を誇る連中より、

 近接で詰めて、判断が早く、連携が切れない少人数の方が生きる」


 ルナが静かに頷き、「重火器が使えない場所は、逆に“技量”が武器になる」と補足し、

 ミレイアは地形と罠の組み合わせを、頭の中で無意識に組み立て始めていた。


「無理に幅を広げるな」


 ハウゼルの声は、命令ではなく、願いに近かった。


「得意な場所で勝て、勝ち続けろ、

 生きて帰れる戦いだけを積み重ねろ、そうして初めて“やれること”が増える」


 ロゼッタは深く、しかし今度は以前よりも重い意味を込めて頭を下げ、

 その動作を見たハウゼルは満足そうでもなく、安心した様子でもなく、

 ただ「それが分かるなら、もう十分だ」とだけ言い残した。


 その背中を見送りながら、四人は初めて “強くなる道” が一本ではないことを、

 言葉ではなく実感として理解していた。



 続く

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