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第4章ー⑧ 足りないもの

前回の続きです。ここまで読んでいただいてありがとうございます。


 ギルドから借りた簡易の会議室は、夜も更けて人影が少なく、

 壁際のライトが静かに揺らす光の中で、四人はテーブルを囲んで座っていたが、

 誰からともなく言葉を発することはなく、

 それぞれが今日の戦いを、頭の中で何度もなぞり直しているようだった。


 最初に沈黙を破ったのは、リンだった。


「……グレンさんの言ってたこと、

 たぶん全部正しいよね」


 軽く言ったつもりのその一言が、

 逆に、この場の空気を現実に引き戻す。


 ミレイアは腕を組んだまま、天井を見上げるようにして息を吐いた。


「正しいし、悔しい」


「勝ったのに、

 褒められてるのに、

 “危なかった”って言われて、否定できない」


 セリカはテーブルの縁に肘をつき、

 自分の指先についた小さな傷を見つめながら、少し遅れて口を開いた。


「……あたしさ」


「正直、途中で一回、

 “これダメかも”って思った」


 その言葉に、ロゼッタははっとして顔を上げる。


 セリカは笑おうとして、うまくいかなかった。


「我慢できなくなったら、

 ロゼッタが前に出てくれるって、

 どこかで思ってた」


「それが悪いわけじゃないけどさ……

 それって、全部ロゼッタ頼りじゃん」


 ロゼッタは何も言えず、

 自分の手を見下ろした。


 ――確かに、あの瞬間、

 自分が前に出ることを、全員が無意識に期待していた。


 リンが静かに続ける。


「今回の連携、

 “一回限り”なら最高だったと思う」


「でも、

 次も同じことやれって言われたら……

 正直 ”運” になる」


 ミレイアは小さく頷いた。


「安全マージンが、ほとんどない」


「誰か一人が遅れたら終わり、

 誰か一人が外したら瓦解」


 その言葉を聞きながら、

 ロゼッタの脳裏に、ふと別の四人の姿が浮かんだ。


 ――αチーム。


 バルカ、ベルベット、ドグ、モヒカン。


 あの四人は、

 同じ人数なのに、

 どうして“無茶”をしても成立していたのか。


 ロゼッタは、ゆっくりと言葉を選びながら頭の中でつぶやいた。


(……αチームは)



(あの人たちが四人で大丈夫なのは、

 “全員が、誰かの代わりをできる”からだと思う)



(前に出る人が倒れたら、

 別の誰かが前に出る)


(狙撃が落ちたら、

 別の誰かがカバーする)


(罠が壊れたら、

 即興で別の手を作る)


 それは、

 剣闘士としてではなく、

 一緒に生き延びてきた“傭兵”たちの在り方だった。


(全員のスキルが高いから、

 役割が固定されてない)


(だから、

 事故が起きても即死にならない)


 ミレイアが静かに言う。


「……私たちは、役割がはっきりしすぎてる」


「私が後方、

 リンが遊撃、セリカは前、

 そして、ロゼッタが ”要” 」


「ロゼッタが止まったら、

 全部止まる」


 その言葉に、

 誰も反論できなかった。


 ロゼッタは胸の奥が、少しだけ痛んだが、

 それでも否定はしなかった。


「だから、

 足りないのは……」


 言葉を探していると、

 セリカがぽつりと呟いた。


「……数、だよね」


 リンが驚いたように目を向ける。


「数?」


「うん」


 セリカは、真剣な顔で続けた。


「もう一人、

 前に立てる人がいたら」


「もう一人、

 判断を分け合える人がいたら」


「今回みたいに、

 全員で“綱渡り”しなくて済んだ」


 ミレイアは考え込むように目を伏せる。


「人を増やすってことは、

 責任も増える」


「判断も難しくなる」


「でも……」


 そこで言葉を切り、

 ロゼッタを見る。


「それでも、

 “誰かが倒れたら終わり”よりはいい」


 ロゼッタは、

 胸の奥で、バルカの声を思い出していた。


 ――選ぶってことは、

 背負うってことだ。


 ロゼッタは、ゆっくりと頷く。


「……うん」


「今の私たちは、

 強いけど、薄い」


「重ねないと、

 いつか折れる」


 その言葉に、

 四人は静かに顔を見合わせた。


 それはまだ、

 クラン設立という形にはならない、

 ぼんやりとした“予感”に過ぎなかったが、

 確実に同じ方向を向いた瞬間だった。


 ライトの光の下で、

 四つの影が、ほんの少しだけ重なった。


 ――数が必要だ。


 それは弱さの自覚であり、

 同時に、生き延びるための第一歩だった。



 会議室の扉が、ノックもなく静かに開いた。


 顔を出したのはグレンだった。

 回収班の仕事を終えたばかりなのだろう、外套の裾にはまだ煤の匂いが残っている。


「……話、まとまったか?」


 軽い問いかけだったが、

 四人の空気を一瞬で読み取ったのか、

 グレンはそれ以上踏み込まず、壁に背を預けるように立った。


 ロゼッタが頷く。


「数が……必要だって話になりました」


 その言葉を聞いた瞬間、

 グレンの目がわずかに細くなった。


「そうか」


 否定も、驚きもない。

 ただ “やっとそこに辿り着いたか” という静かな納得だけがあった。


「だが」


 グレンは腕を組み、少し間を置いてから続ける。


「いきなり仲間を増やすな」


 その言葉に、リンが思わず口を開く。


「え……?」


「矛盾してるように聞こえるだろうが、

 実際は逆だ」


 グレンは視線を四人に巡らせる。


「お前たちは、

 まだ“誰かと組んで戦う”経験が足りない」


「四人での連携は、

 もう十分すぎるほど磨かれている」


「だが、

 知らない相手が隣に立った時、

 同じ判断ができるか?」


 セリカが眉をひそめる。


「……できない、と思います」


「だろうな」


 グレンは即答した。


「だから提案だ」


 その一言で、

 場の空気が少しだけ張り詰める。


「他のチームと、

 合同の依頼を受けてみろ」


 ロゼッタは、その言葉を反芻した。


「合同……」


「護衛でも、

 掃討でもいい」


「規模は大きすぎる必要はない」


「重要なのは、

 “自分たちより弱いかもしれない相手”とも、

 “自分たちより強いかもしれない相手”とも、

 同時に動くことだ」


 ミレイアが静かに問い返す。


「……それは、

 練習、ですか?」


 グレンは首を横に振った。


「違う」


「実戦だ」


 その声は低く、

 だが妙に優しかった。


「練習なら、

 失敗しても言い訳が立つ」


「実戦は、

 失敗した瞬間に死人が出る」


「だからこそ、

 お前たちは“考え方”を変えざるを得なくなる」


 ロゼッタは、はっとする。


 ――自分たちのやり方を、

 他人に合わせる。


 それは、

 今まで無意識に避けてきたことだった。


 グレンは続ける。


「合同任務では、

 全員が同じレベルの理解を持っているとは限らない」


「判断は遅れる、

 動きは噛み合わない、

 想定外は増える」


「だがな」


 そこで、少しだけ声の調子を落とす。


「それでも、

 “誰か一人が倒れたら終わり”にはならない」


「人数が、

 ”安全マージン” になる」


 ロゼッタが、ぽつりと言った。


「……高ランクのハンターは、

 そういう経験を積み重ねてきたんですね」


 グレンは、ほんの一瞬だけ笑った。


「そうだ」


「最初から強かったわけじゃない」


「強くなるまで、

 何度も“他人と組んで、失敗して、学んだ”」


 ロゼッタは、胸の奥が静かに熱くなるのを感じていた。


「合同任務なら、

 いきなり背負う責任も、

 命の重さも、分散できる」


「人を増やす前に、

 “増えた時に崩れない形”を知れ」


 それは命令ではなく、

 忠告だった。


 そして、

 確かな信頼がなければ口にしない言葉でもあった。


「……やってみます」


 ロゼッタが言うと、

 グレンは頷いた。


「それでいい」


 扉に手をかけながら、

 最後に振り返る。


「覚えておけ」


「数は力になるが、

 “扱えなければ”ただの重荷だ」


「お前たちは、

 もう次の段階にいる」


 グレンは、

 背を向けながら最後に言った。


「合同依頼は、試される」


「腕も、

 判断も、

 人との距離の取り方もだ」


「それを越えられたら――

 次は、もっと大きな話ができる」


 その背中を見送りながら、

 四人は、同じことを考えていた。


 仲間を増やす前に、他人と並んで戦う。


 それは遠回りのようで、

 確実に生き延びるための道だった。



 続く

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