表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
114/313

第4章ー⑥ 勝つための準備

前回の続きです。ここまで読んでいただいてありがとうございます。



 ギルド併設の工房区画。

 火薬と金属の匂いが混じるその一角で、セリカは設計図を広げていた。


「……爆発物、作れるかな」


 独り言のように呟いたその声に、背後から低い声が返る。


「“作る”って顔じゃないな。

 “壊す”気満々だ」


 振り返ると、そこにいたのはラベートだった。

 ちょうど別件でギルドに顔を出していたらしい。


「兄貴……!」


「聞いたぞ。四脚型重装機械獣(グラトニクス)に遭遇したんだな?」


 セリカが頷くと、ラベートは図面を覗き込み、すぐに理解したように厳しい顔になった。


「装甲を爆風で吹き飛ばそうとしてるだろ。

 悪くないが……確実じゃないし危険だ」


「じゃあ……どうすれば」


 ラベートは工具棚から小さな円盤状の金属を取り出した。


「吸着式だ。

 装甲に貼り付けて、爆風じゃなく“振動”を叩き込む」


 セリカの目が見開かれる。


「振動……?」


「そうだ。

 分厚い装甲ほど、共振に弱い。

 剥がすんじゃない、浮かせるんだ」


 ラベートは続ける。


「爆発は一瞬でいい。

 剥がれた装甲の隙間――そこが、殺しどころだ」


 セリカは、ゆっくりと頷いた。


「前に出るなとは言わない。

 でもな、死ぬ覚悟で前に出るな」


 セリカは、はっきりと頷いた。


「……生きて、帰るよ」


「それでいい」

 ラベートは満足そうに笑った。



 リンはギルドの武器保管庫にいた。

 棚に並ぶ銃弾、発射機構、危険物の数々。


「対装甲用……」


 彼女は淡々と、しかし確実に必要なものを選び出す。


 高密度徹甲弾。

 爆縮型弾頭。

 

 違う――


「ロケットランチャー……一発物でいい」


 係員が目を丸くするが、リンは気にしない。


「次がなくていい。

 当てる場所は、もう決まってる」


 頭の中には、セリカが作る爆弾で露出する“その瞬間”が、はっきりと描かれていた。


 

 ミレイアは地図の前で目を閉じていた。


(ここに誘導して……ここで足を止める)


 頭の中で、何度も敵を歩かせる。


 瓦礫の山。

 狭い通路。

 天井の低い区画。


(正面からは戦わない。

 動かして、縛って、止める)


 罠は一つじゃない。

 逃げ道を潰す罠、

 足を止める罠、

 そして――


(“殺すため”じゃない)


 ミレイアは静かに息を吐く。


(“狙った場所に立たせるため”の罠)



 ロゼッタは、セリカの師匠の工房にいた。

 だが、もう剣は手にしていない。


 代わりに置かれているのは――

 異様な武器。


 巨大なハンマー。

 先端には、太い杭状のパイル。


「……これが」


「使い捨てのハンマー式パイルバンカーだ」


 師匠は淡々と言う。


「一撃専用。

 撃てば壊れる。

 二発目はない」


 ロゼッタは、その重量を確かめるように握った。


「……覚悟してます」


「何があったかは聞かねぇが、思い切ったな」


 師匠の言葉に、ロゼッタは静かに答える。


「倒すためなら、なんでも使う」


 その瞬間、ふと脳裏に浮かんだのは――

 かつて聞いた、あの言葉。


『正々堂々?

 そんなのは、勝ったあとに言えばいい』


 ロゼッタは目を閉じ、そして開いた。


「一撃で “終わらせる” 」


 師匠は、薄く笑った。


「いい目だ」


 ――ハンターの目だ。


 こうして、準備は整っていく。


 爆弾。

 ロケット。

 罠。

 そして、一撃限りの杭打ち(パイルバンカー)


 正面から斬り伏せる戦いではない。

 だがそれは――


 全員が生きて帰るための、最短の戦い方だった。



  鉱山跡の最深部。

 天井は低く、壁は削られた岩肌と錆びた支柱がむき出しになっている。


 ――音が、来る。


 重く、鈍い金属音。グラトニクスが再び姿を現した。


 最初に動いたのは、ミレイアだった。


 彼女は撃たない。

 ただ、一歩下がる。


 ガシャリ


 床が沈み、ワイヤーが跳ね上がる。

 足元ではなく、胴体の高さ。


 グラトニクスの脚部が絡め取られ、重心がわずかに前に崩れる。


「今!」


 その“わずか”が、致命的だった。


 距離、三歩。


 セリカは走り、跳び、

 爆弾に、手を伸ばした。


 ――バンッ


 吸着音。

 円盤状の爆弾が、胸部装甲に貼り付く。


「――離脱!」


 次の瞬間。


 ドン……ッ


 爆発ではない。

 内部から叩くような振動。


 分厚い装甲が、悲鳴を上げる。


 浮いた。


 ほんの一瞬、隙間が生まれる。

 

 その隙を、リンは待っていた。


 肩に担いだランチャー。

 照準は一点。


 呼吸、一拍。


「――行けぇ」


 シュゴォォッ


 ロケットが吸い込まれるように突き刺さる。


 ドォン!!


 爆炎が装甲の内側で炸裂し、

 グラトニクスの体が大きくのけぞる。


 だが、まだ――倒れない。


 ロケットの爆炎がまだ残る中、

 ロゼッタは上を見ていた。


 鉱山の天井。

 露出した鋼梁、削岩跡、崩れかけの支柱。


 ガシャン!


 ワイヤーフックが、鋼梁に深く噛み込む。


 次の瞬間、ロゼッタは引かれるのではなく、自ら跳んだ。


 体が宙に浮き、

 ワイヤーが軋みながら伸びる。


 下では、グラトニクスがまだ体勢を立て直そうとしている。


 ――見下ろす位置。


  ロゼッタは空中で体を反転させた。


 両手に握るのは、

 使い捨てのハンマー式パイルバンカー。


 照準は一瞬で定まる。


 セリカが浮かせ、

 リンが穿ち、

 ミレイアが止めた――


 露出した内部装甲。


 ――落ちる。


 重力が、味方になる。


「……決めるっ」


 ガァァン!!


 落下の勢いそのままに、

 ハンマーが叩き下ろされる。


 同時に、パイルが撃ち出され――

 内部へと突き刺さる。


 金属が悲鳴を上げ、

 衝撃が鉱山全体に響いた。


 武器は砕け、

 ロゼッタは床に転がる。


 やがて


 グラトニクスは、そのまま崩れ落ちた。


  崩れ落ちる巨体。

 金属が地面に倒れる音が、鉱山に響く。


 誰もすぐには動かなかった。


 息だけが、荒く残る。


「……全部、繋がったね」


 ミレイアの声に、

 リンが静かに頷く。


「一人でもズレてたら、終わってた」


 セリカは、拳を握りしめたまま言った。


「でも……生きてる」


 ロゼッタは壊れた武器を見下ろし、静かに呟く。


「これが、ハンターの戦い方」


 正々堂々じゃない。


 だが――

 全員が帰るための、完璧な連携だった。



 続く

【作者からのお願い】


もし、「おもしろい」「続きが気になる」と思っていただけましたら、ブックマーク登録をしていただけるとうれしいです。また「いいね」や感想もお待ちしています!


また、☆で評価していただければ大変うれしいです。


皆様の応援を励みにして頑張りますので、よろしくお願い致します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ