第4章ー⑤ 卑怯? 汚い? だから何?
前回の続きです。ここまで読んでいただいてありがとうございます。
倒すために、何が必要か。
グレンは、その問いを口に出すことはなかったが、
頭の中では何度も反芻していた。
正々堂々――それは聞こえはいい。
剣と剣、力と力。
だがハンターの仕事は、競技でも見世物でもない。
生き残るために、倒す。
それだけだ。
Dランクに上がり、依頼現場で命を落とした連中の多くは、
強さが足りなかったわけじゃない。
勇気がなかったわけでもない。
ただ一つ、”捨てられなかった”
誇り。
手慣れた戦い方。
「自分はこれで勝ってきた」という成功体験。
(それが一番、厄介だ)
Dランク以上の現場では、
真正面からやり合うこと自体が、すでに悪手になることがある。
装甲が厚い?
なら、正面から斬る必要はない。
足を止める。
視界を奪う。
地形ごと壊す。
爆発物。
罠。
崩落。
燃料に引火させる。
出口を塞いで酸欠に追い込む。
どれも、剣闘士の戦い方じゃない。
だが、ハンターの戦い方だ。
グレンは、かつて見た光景を思い出す。
巨大な機械獣を前に、数人のハンターが距離を取り、
躊躇なくロケットランチャーを肩に担いだ瞬間。
轟音。
爆炎。
砕け散る装甲。
その武器は、一発撃ったら終わりだった。
照準も荒い。
反動も酷い。
次弾もない。
だが、それで十分だった。
(使い捨てでいいんだ)
武器は、消耗品。
罠も、爆薬も、弾も。
命より軽い。
捨てることを前提に使えるかどうか。
それが、生き残れるかどうかの分かれ目になる。
ロゼッタたちは、まだそこまで踏み込んでいない。
だが、今回の撤退は、その ”一歩目” だ。
真正面から勝とうとしなかった。
「この装備で、この人数で、ここまでだ」と判断した。
(次は、もっと汚くなるぞ)
それでいい。
それがいい。
ロケットランチャーを撃って、壊れたら捨てろ。
爆薬を置いて、逃げろ。
罠を張って、踏ませろ。
武器が折れたら、拾った鉄骨で殴れ。
勝ち方に、美学はいらない。
必要なのは、結果と生存だけだ。
グレンは椅子から立ち上がり、部屋を出る。
廊下の向こうで、若いハンターたちの声が聞こえた。
(そのうち分かる)
正々堂々じゃなくていい。
卑怯でいい。
汚くていい。
倒すために、何を捨てられるか。
それを覚えた時、
ロゼッタたちは――
もう一段、危険な場所へ踏み込むことになる。
だが同時に、
生きて帰ってくる確率も、確実に上がる。
ハンターとは、そういう仕事だ。
ギルドの裏手、簡易整備区画の片隅。討伐後の喧騒から少し離れた場所で、
ロゼッタたちは円を作るように腰を下ろしていた。
武器は地面に置かれ、装備にはまだ煤と油の匂いが残っている。
誰もが無言だったが、その沈黙は気まずさではなく、考えるための間だった。
最初に口を開いたのはリンだった。
「……正面からやり合うには、相手が悪すぎたよね」
淡々とした口調だが、その言葉の裏には確かな実感があった。
撃てば効く、斬れば通る――そんな単純な相手ではなかった。
ミレイアが頷く。
「装備を更新して、連携も噛み合ってた。
それでも、あの奥の個体は“まだ上”だった」
セリカは無言で、自分の防具を見下ろす。
傷だらけのプレート、歪んだ留め具。
前に出て、受けて、耐える。
それが自分の役割だと理解しているからこそ、限界も肌で感じていた。
「……次に同じのが出たら、耐えきれない」
低い声でそう言った。
ロゼッタは、そのやり取りを聞きながら、少しだけ視線を落としていた。
剣闘士としての感覚が、頭の奥で囁いてくる。
――もっと踏み込め
――正面から打ち合え
――力でねじ伏せろ
だが、彼女はゆっくりと首を振る。
「……違う」
三人がロゼッタを見る。
「正面から勝とうとしたら、たぶん……次は誰かが死ぬ」
その言葉は、重かった。
けれど、誰も否定しなかった。
ロゼッタは続ける。
「私、闘技場では……正々堂々しかなかった。
勝つか、死ぬか。
逃げ道も、罠も、選択肢もなかった」
一瞬、空気が張り詰める。
「でも……今は違う」
ロゼッタは、ふっと遠い記憶を辿るように目を伏せた。
αチームとの旅。
瓦礫だらけの倉庫。
爆薬と廃材の山。
そして、あの男の声。
――武器は壊す前提で作る
――壊れるってことは、役目を果たしたってことだ
――命より高い道具なんて、ねぇぞ
「……あの人達の言葉」
ロゼッタは、はっきりとそう言った。
「 “捨てる前提で使え” って。
“壊すために使え ”って」
リンが小さく息を吐く。
「……つまり」
「正々堂々じゃなくていい」
ミレイアが言葉を引き継ぐ。
「罠でも、爆発でも、使い捨ての武器でも。
勝つため、生きるためなら、何でも使う」
セリカの目が、少しずつ熱を帯びていく。
「……ロケットランチャーとか?」
「ありだと思う」
ロゼッタは即答した。
「一発撃ったら終わりでもいい。
次がなくてもいい。
“倒せる瞬間”を作れれば、それでいい」
沈黙。
だが今度は、迷いのない沈黙だった。
リンが苦笑する。
「ハンターっぽくなってきたね」
「うん」
ミレイアも頷く。
「剣闘士の勝ち方じゃない。
でも……生き残るための勝ち方」
セリカは、拳を握りしめる。
「……だったら、私、罠も作る。
防具だけじゃなくて “倒すための武器” も」
ロゼッタは、その言葉を聞いて、少しだけ胸が軽くなるのを感じた。
剣闘士ではなく、
ハンターとして、仲間と考えている実感。
「倒すために、何が必要か」
ロゼッタは静かに言う。
「正々堂々じゃなくていい。
汚くていい。
捨ててもいい」
そして、最後に。
「生きて帰るために、倒す」
四人の視線が、自然と重なった。
その瞬間、彼女たちは確かに理解した。
Dランクの先にある世界は、
強さだけで進める場所じゃない。
選択と覚悟の積み重ねでしか、生き残れない場所なのだと。
続く
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