表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
112/311

第4章ー④ ハンターとして大切なこと

前回の続きです。ここまで読んでいただいてありがとうございます。


 夕刻のハンターギルドは、いつも通り騒がしかった。

 酒の匂い、鉄と油の匂い、笑い声と罵声が入り混じる

 ――だが、その喧騒の中に戻ってきた四人の足取りは、わずかに重かった。


 新調した防具は、役目は果たした。

 それでも「倒せなかった」という事実が、胸に残っている。


 受付を通し、奥の報告室へ。


 そこにいたのは、グレンだった。


 ロゼッタが一歩前に出て、簡潔に報告する。


 機械獣の群れ。

 数は依頼書通り。

 だが、奥で確認した重装甲型の大型個体。


「……倒せませんでした」

「存在を確認し、交戦。武器出力不足と判断して撤退しました」


 一瞬の沈黙。


 ロゼッタは、無意識に拳を握っていた。


(失敗……か)


 だが、グレンは眉一つ動かさなかった。



「……それでいい」


 低く、はっきりした声。


 ロゼッタが顔を上げる。


「お前ら、これがD()()()()()()()()()だ」


 その言葉に、セリカがわずかに息を呑む。


「依頼内容は “機械獣の群れの掃討”だ」

「奥に何がいるかは ”保証” されていない」


 グレンは、机の上に依頼書を叩く。


「このランクではな、

 “倒せ”じゃなくて“対処しろ”が正解だ」


 グレンは続ける。


「群れを減らした」

「想定外の個体を把握した」

「被害を広げず、全員生きて帰った」


 一つずつ、指を折る。


「十分すぎる成果だ」


 リンが小さく言う。


「……倒せなかったのに?」


 グレンは、即答した。


「ハンターは、”生きて帰るのが鉄則” だ」


 その言葉には、経験の重みがあった。


「討伐してもいい」

「だが、無理をして死んだら、それは()()()()だ」


 ロゼッタは、胸の奥で何かがほどけるのを感じた。


 闘技場では、

 退くことは「負け」だった。


 だが――


(ここは、闘技場じゃない)


 グレンはロゼッタを見る。


「いい判断だった」

「自分達の限界を知ったのもな」


 そして、少しだけ口角を上げる。


「次に必要なのが何か、もう分かってる顔だ」


 ロゼッタは、うなずいた。



 報告は、成功扱いで受理された。

 討伐数、確認情報、すべてが戦歴に記録される。


 重装甲個体については、

 上位ランク向けの注意事項として回されるだろう。


 部屋を出る前、グレンが最後に言う。


「強くなるのはいい」

「だが、自分たちが ”ハンター” なのは忘れるな」


 その言葉を背に、

 四人は再びギルドの喧騒へと戻っていった。


 ――次は、倒すために。



 扉が閉まり、報告室に残ったのはグレン一人だけだった。

 喧騒は厚い壁の向こうに押しやられ、

 部屋の中には紙の擦れる音と、遠くで鳴る金属音だけが残る。

 


 グレンは椅子に深く腰を沈め、天井を見上げたまま、

 ほんのわずかに――自分でも気づかない程度に口元を緩めた。

 

 そこには先ほどまでの”ギルド職員”としての顔ではなく、

 ”ハンターの先輩”としての顔があった


(……いい顔で帰ってきやがった)

(……悪くない)


 ロゼッタたちは、ずっと勝ち続けてきた。

 ここ最近、失敗らしい失敗をしていない。


 依頼を受け、現場に向かい、倒して帰ってくる。

 それが当たり前のように続き、気づけばDランクまで駆け上がっていた。

 それは才能であり、努力であり、仲間同士の噛み合いの結果でもある。


 ――だからこそ、危うかった。

 だが、今回は違った。


(正直、今回も無茶をすると思ってたが……)


 想定外の個体を見た瞬間、

 「いけるか」「いけないか」ではなく、

 「引くべきか」を選んだ。


 彼女らは、退いた。

 失敗を恐れてではない。

 自分たちの限界を見て、撤退を選んだ。


 無茶をしなかった。

 勝ちを積み上げてきた流れの中で、()()()()()()()()()()()


 その判断ができるかどうか。

 それこそが、Dランクから先に進めるかどうかの分水嶺だった。


 グレンは、机の上の報告書に視線を落とす。

 数字だけ見れば、完璧ではない。撃破数は想定下限、未討伐の個体あり。

 だが、グレンの目はそこを見ていなかった。

 そこに並ぶ文字は淡々としているが、

 その裏にある判断は、簡単なものじゃない。


(本人たちは、まだ分かってねぇだろうな)


 自覚はないはずだ。

 自分たちが「調子に乗り始める一歩手前」だったことも。

 勝ちが続くほど、人は知らず知らずのうちに無理を正当化する。

 ――もう少し、いける。

 ――ここで引いたら損だ。

 そうやって、命を賭ける必要のない場面で命を賭けてしまう。


 グレンは、ふと昔を思い出す。


 EランクからDランクまで、異様な速さで駆け上がったハンターがいた。

 腕は確かで、判断も早く、度胸もあった。

 周囲からは天才だとも言われていた。


 だが、Dランクに上がって最初の依頼で――死んだ。

 群れの奥にいた“本命”を、

 「今まで通り」で処理できると思い込んで。


(あいつも、悪くなかった)


 ただ、知らなかっただけだ。

 Dランクからは、依頼そのものが変わるということを。


 Eランクまでの仕事は、単純だった。

 敵は、ほぼ想定内。

 危険は分かりやすく、成功条件も明確だ。

 倒せばいい。数を減らせばいい。


 だがDランクは違う。

 情報は不完全で、

 現場で初めて“本当の敵”を知ることもある。


 そこで求められるのは、剣の冴えでも火力でもない。

 判断だ。


 進むか。

 退くか。

 そして――生きて帰るか。


 グレンは静かに息を吐く。


(いいところで、鼻っ柱を折れた)


 ロゼッタたちは、自覚していないだろう。

 今日の撤退が、どれほど重要だったか。


 撃破だけが成功じゃない。

 全滅させることだけが、正解じゃない。

 生き延び、情報を持ち帰り、次につなげる。

 それもまた、ハンターの仕事だ。


 報告書に判を押しながら、グレンは思う。


(あいつらは……まだ伸びる)


 無茶をしなかった。

 撤退を選べた。

 それができるうちは、まだ死なない。


 グレンは椅子から立ち上がり、窓のない壁に視線を向けたまま、

 静かに息を吐く。


「撃破だけが、成功じゃねえ」

 誰に聞かせるでもなく、そう呟いた。


(次は “倒すために退いた”ってことを、自分で理解できるといい)


 それが分かった時、

 ロゼッタたちは――

 本当の意味で、Dランクのハンターになる。



 続く

この話を書いていて、

自分の人生の中でも、同様のことがあったのを思い出しました。

順調すぎる時の失敗を「戒め」として考えるようになりました。


【作者からのお願い】


もし、「おもしろい」「続きが気になる」と思っていただけましたら、ブックマーク登録をしていただけるとうれしいです。また「いいね」や感想もお待ちしています!


また、☆で評価していただければ大変うれしいです。


皆様の応援を励みにして頑張りますので、よろしくお願い致します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ