9 武器を求めて その1
残り金貨七枚。それすなわち俺の寿命はそれくらいという事。
いや、自分でもどれくらいかは分からないけどさ、少ないって事は分かるわけよ。
「すごい、すごいですドルフ様!」
だというのに姫巫女サマは列車を見て大はしゃぎ。
スピネラスからのお告げも無いし、次の目的地までちょっと遠いから今回は鉄道を使う事になったのだ。我がエメリア連邦の誇る大鉄道、千年前にはこんなもの想像もつかなかっただろうからな。
「あまりはしゃぐなよ、危ないぞ」
「そうそう、あまりキョロキョロしてると迷子になっちゃうぞ~」
そして、やっぱりプリルマも付いて来ている。
もし迷子になったらお前のその格好がいい目印になりそうだな。
「やっぱお前も来るの?」
「当然でしょ~。もうアタシたちは一蓮托生の仲間じゃね?」
「だったら自分の切符くらい自分で買えよな」
「ナハハ、今は持ち合わせがなくてさ」
これだよまったく。ルイスから結構なカネを貰ったとはいえ無駄遣いはできないんだからな?
「それにぃ、年頃の女の子がいんだよ? ドルフみたいなおじさん一人でちゃんとお世話できんの~?」
でもこんな事をそっと囁かれては仕方がないか。はい……ごもっともです。
「……じゃあ弁当買ってくるから、お前たちは先に乗っててくれ」
「はーい!」
二つの返事がハモった、元気が良くてよろしい。
でも実際どうしたもんかな。この先も俺たちに同行するつもりなら事情を知っておいた方が良い、というか知っておいてもらわないとこっちが困る。その際にどこまで話したものか。
特にジェバード王国の事はどうするか……。ルイスに釘刺されたばっかりだからなあ。とりあえず魔法に憧れを持ってるみたいだし、もうそれは見られちゃってるから魔法の事は話してもいいだろう。
おっと、発車時刻が迫っている。俺は駅弁を三つ抱えて指定の座席へと急いだ。
「おーい、弁当買ってきた――」
「ほえー、それじゃあサフィーアちゃんはジェバード王国の王女様なんだ!」
「はい! 今は王国の復興を目指してドルフ様をお支えしているところです!」
「オアーッ⁉」
なんてこった、ちょっと目を離している間に大体の事は話してしまったらしい。あれこれ悩んでた俺がバカみたいじゃないか。
「ちょ、サフィーア!」
「あ、ドルフ様、お戻りですか」
「お戻りですかじゃないよ、そんな簡単に俺たちの事を他人にだな……」
「あら、他人ではありませんよ。プリルマさんは家臣です!」
……ん? かしん?
「わたくしたちは国を復興するのですから、当然家臣や民が必要になります。まずはプリルマさんということですよ」
家臣ねえ。
そりゃあ王宮には道化師もいるだろうけど、第一号がそれってのもどうよ。
「いきなり道化師から揃えるってのもなあ。だいいち、プリルマはどう思ってるんだ」
「アタシは構わないよ、宮廷道化師というのも悪くないかもね~」
即答かい。
「お前が良いなら何も言わないけどさ」
「うんうん、ドルフが王になった暁には一日じゅう腸がねじれるほど笑わせて、ついでに玉座で失禁させてやるから安心しちゃってちょうだい」
「それのどこに安心要素が?」
「しかし王国の復興かぁ、キミら国家転覆でも狙ってんのぉ?」
「そんなわけないだろ。なあサフィーア」
……。
……サフィーアさん? なんで黙ってるんですか?
「おい、怖いぞ。何か答えてくれよ」
「あはは……、実はわたくしも秘宝を集めよと仰せつかっているだけでして。王家はともかく、王国の復興は具体的にどうすればいいのかわかっていないんですよね」
……ふう、びっくりした。まあ正直俺も分かってないけどな。
「大丈夫です、わたくしたちには神が付いておられますから!」
「……あいつ、アテにしていいんだろうか」
それからプリルマに王様とか呼ばれてからかわれたりしている間に列車は走り出した。
汽笛が鳴り響き力強い音と共に景色が流れていく。俺が関わったわけじゃないけど、この国の技術力の高さは誇らしく思うよ。
「はあぁ……、このような建物が本当に走るのですね……!」
サフィーアも感動しているようだ。こうやって目を輝かせている時は子供だなって思うよ。
「千年前にはさすがにこんなもの無かっただろ?」
「はい! ドルフ様、わたくし他の所も見てみたいです!」
「大きな列車だからそりゃ構わないが、他のお客に迷惑かけるなよ」
「承知しております、では行ってきますね!」
よほど珍しかったのだろう、探検に行ってしまった。
「あ、サフィーアちゃん待った。アタシも行くよ、巻き起こせ旋風!」
お前は大人なんだから行かなくていいだろ。
おい待て、そのザリガニどこから出した? それで何をする気なんだ?
――ああ、行ってしまった。
まあいいか。久しぶりに一人でゆっくりできる、車窓の景色でも眺めながらのんびりするとしよう。列車独特の音と揺れ、流れる景色が俺の心を癒してくれるはずだ。
「……」
……なんか、落ち着かないな。
こんな時、スピネラスでも話しかけてくると思ったがそうでもない。
あいつら、変な事してないだろうな。それか、酔っ払いにでも絡まれてたら……。様子を見に行くべきだろうか。
……ダメだ、とてもゆっくりできる気分じゃない。俺ってこんなに心配性だっけ?
ええい、こうなったら弁当でも食べて気を紛らわせるしかない。ちょっと早い気もするが俺は自分の弁当を取り出した。
うん、美味い。欲を言えば温かい飯だったらもっと美味いんだろうけどな。
なんて思っていると、ふと弁当の手に触れている部分が温かい事に気が付いた。
おや、弁当全体がだんだんと温かくなっていく。最近の駅弁には面白い仕掛けがあるもんだなあ。
「……熱っつ⁉」
いや温かいどころか熱いわ! 持っていられなくて思わず放り投げちゃったじゃないか。
なんだこれ、欠陥品か? くそっ、弁当が無駄になっちまった。
「ドルフ様~!」
座席の上でひっくり返った弁当を呆然と見つめているとサフィーアの声が聞こえてきた。
プリルマも一緒だ。なにやら慌ただしい様子でこちらに向かい走ってくる。
「どうしたんだ、車内は走るもんじゃないぞ」
「そ、それが……。わたくし、失敗してしまったようでして……」
震える声でサフィーアが言う。その後ろからプリルマがひょっこりと顔を出した。
「いやね、アタシがサフィーアちゃんに魔法を見せてって頼んだのよ」
「ふむふむ。……オアーッ⁉」
「何を叫んでんの。それで、せっかくだから弁当を温めてみようって事で魔法を使ってもらったんだけど、どういうわけか思ったよりアツアツになっちった」
「これお前らの仕業か! 殺す気かよ!」
「弁当が熱いくらいで死なないでしょ」
「もっと直接的な理由があるんだよ!」
俺はサフィーアに無言の視線を送った。お前なあ……、肝心な事を先に言っておくべきだろ?
ハッ! そうだ、金貨は⁉
隠しポケットの金貨を数えると……あれ、ちゃんと七枚ある。
「サフィーア、金貨はちゃんと七枚あるぞ。あ、もしかしてプリルマの願いだからプリルマの資産から払ったとか?」
「いえ、プリルマさんはすでにドルフ様の家臣ですので、家臣の願いは王の願いとなります」
ぐうっ、さっきの口約束みたいなのがそんなに効力を発揮するとは。
「じゃあ使える方のカネから減ったのか?」
「いえ……その……」
「なんだ、はっきりしないな」
「実は、スピネラス神が面白そうだからぜひ欲しいと……」
何をだろうか。そう思った時、俺は自分の懐が妙に軽い事に気が付いた。
……無い。ホルスターの中に、俺の愛用している銃が無い!
「オアーッ⁉ まさか、銃を⁉」
「現物での支払いも大丈夫だそうです」
「言ってる場合か!」
このやりとりを理解していないプリルマが不思議そうにしている。
「さっきから何を騒いでんの~?」
「騒ぎたくもなるわ! この際だからお前もちゃんと覚えておけよ。魔法には代償が必要で、使うたびに俺の資産が減るんだよ。そして資産が尽きたら俺の寿命も尽きるんだ!」
「ほうほうほほう、なんとも大事だねえ」
「今回はすでにやっちまったから仕方ないが、わかったんならもう弁当を温めるとかそんな事に使うんじゃないぞ!」
「あー、それなんだけど」
なんだ、お前にも何か追加の報告があるのか?
それにしてもやたら列車が揺れるな、速度も落ちているしどうなってんだ。
「お客様!」
車掌の叫び声まで聞こえてきたぞ。
「現在、原因不明のトラブルにより運行に支障が出ています! 当車両は次の駅で緊急停止いたします、なにとぞご容赦ください!」
おいおい、大きな騒ぎになってるじゃないか、トラブルってなんだよ。
サフィーアとプリルマが顔を見合わせているのがすごく嫌な予感がする。
「いやー、それが魔法の調整を間違ってしまいまして……」
「どういうわけか列車じゅうのあらゆる食品がすっごく高温になってさあ。食堂車とか大騒ぎだったから逃げて来ちゃった」
お、お前ら……。
だが魔法を使っている以上名乗り出るわけにもいかず、かといって事態を収拾できるわけでもない。だいぶ胸が痛いが、停止した駅で黙って下車する事しか俺にはできなかった。
「目的地はまだ先だってのに、弁当に続いて切符代まで無駄になっちゃったじゃないか!」
「申し訳ございません……」
「まあまあ、サフィーアちゃん。生きてりゃそんな事もあるって、気しない気にしない、なーんてねっ」
なんか慰めてるけど、お前も同罪だからな? 知らないでやった事だから口には出さないでいてやるけどさ!
「やれやれ。お前たち、行くぞ」
「ドルフ様、どちらへ?」
「いつ列車が動くかわからないからな。それに、この街に用ができた」




