10 武器を求めて その2
予期せぬトラブル……といっても俺たちが原因なわけだが。とにかくそういうわけで列車は止まり、俺たちは途中下車を余儀なくされた。
だが、今の俺にとっては都合が良かったかもしれない。
「ここはカナトシティ、鉱山と鍛冶の街だ。ここで武器を調達しに行くぞ」
「武器ならば、ドルフ様には神の鎖がございますよ?」
「呪いの鎖の間違いだろ。確かに便利だけど、鎖一本で安心できるほど俺は豪胆じゃないんだよ」
なにせつい先日に出会ったばかりだからな。機械兵士に魔法のような力を使う謎の少女、戦場でもあんな連中には出くわした事がない。あんなのが存在するなら武器はいくらあっても足りないくらいだ。
「できれば銃が手に入ればいいんだけどな」
「それではわたくしが魔法で――」
「出したら今度こそ俺死んじゃうかもよ?」
そもそもスピネラスが欲しがったから消えたんだろ、出してくれるとは思えないけどな。
「銃ってあんま見かけないよねー、お高いブツって感じ」
そうだな、プリルマの言う通りだ。お前たちが無駄に使った魔法のせいで消えた銃は軍隊仕様のリボルバー、まだほとんど流通していない高級品だったんだがね。
「あー、でもでも、なんならアタシが買ってあげよっかぁ?」
「持ち合わせが無いって言ってなかったか」
「なあに、この身ひとつでどこでも稼げるのが芸人の良いところよ。なんなら一緒にやってみるぅ?」
いくらなんでもそんなに稼げるわけないだろ。こっちは時間だって無駄にしたくないんだ。
「いや、やめておく」
「そう? まあ不器用そうだし、無理かあ」
む……。その言葉、ちょっと頭にきた。
ああ、俺は今機嫌が悪かったんだな。悪気が無かったのは理解しているが、愛用の銃を失ったのがこれほど痛いとは。
「言ったな? それじゃあお前と俺、手段は問わずどっちが稼げるか勝負しようじゃないか」
ついこんな事を口走ってしまった。
「あーら面白い。んじゃ負けたら勝った方の言う事をなんでもひとつ聞くってのはどーお?」
「ようし、覚悟してやがれ!」
「きゃあエッチ、何を狙っているのか丸わかりぃ。ホッホッホ!」
プリルマもノリノリだった。何言ってやがる、見た目はともかく中身を知っていればそんな気にはならねえよ。あと、ちょっとは止めようとしろよな。
で、引っ込みがつかなくなってしまった俺はそのまま街まで繰り出してしまった。
「待ってください、ドルフ様!」
そんな俺の後をサフィーアがついてくる。
「なんだ、俺の方に来たのか?」
「わたくしは姫巫女ですから、王に付き従うのが役目です。……それで、その――」
「なんだよ、歯切れが悪いな」
「やっぱり銃を供物にした事、怒ってらっしゃいますか……?」
……ああ、ダメだな俺は。顔に出てたか。
「……いや、確かに愛用の銃だったが、やっちまったものは仕方がない。それにたとえ銃が手に入らなかったとしても、世の中まだ剣にこだわって使ってる奴も多いんだ。いざとなればどうとでもなるさ」
「ドルフ様……」
プリルマにも大人げない態度を取ってしまった、後で謝らなきゃな。
だが勝負は勝負だ、受けた以上は勝つ!
「は~い、どちら様も寄っといで! お暇があればご覧あれ! ひとつがふたつ、ふたつがみっつ、キラリと光る危険なナイフのダンスショーの始まりィ~!」
遠くに見えるプリルマはすでに芸を始めているようだ。観客も集まりつつあるな、俺もうかうかしてはいられない。
ここは鉱山があるからそこでバイトするか? 今からでも募集あるかな。
「ドルフ様、あっちにも人だかりがありますよ」
鉱山の事務所を探そうと思ったが、先にサフィーアが何かを見つけた。
確かに人だかりができている。何か書いてあるぞ……なになに……。
「腕相撲大会って書いてあるな」
「うでずもう、ですか」
「要は腕一本でやる力比べだよ。こういう所は力自慢が多いから、こういった催しもよくあるのさ」
懐かしいな、俺も軍隊にいた頃はよくやったもんだ。……などと懐かしさに浸る間もなく、俺の目は衝撃的なものを捉える。
賞金……おおっ、凄いな! 優勝すれば結構な額の賞金が出るうえに副賞で拳銃まで貰えるのか!
まさに運命、これは俺にぜひとも優勝しろというお告げに違いない。
「俺も参加するぞ!」
幸い、受付はまだ終わっていなかった。滑り込みでエントリーを済ませ第一回戦へと望む。
熱気に包まれた会場、戦いの場となるテーブルを荒くれ者たちが囲いリングができあがっている。俺は腕を回しながら気合十分に歩を進めた。
まずは第一回戦、こいつに勝たなきゃ始まらない。相手は上背こそ高いがひょろっとした痩身の男、こういった場所に似つかわしくない格好だけど観光客か? 何にせよ都合がいい。
「ドルフ様! 頑張ってください!」
おう、任せておけ。なにせ軍隊での腕相撲じゃ誰にも負けた事がないんでね。
力もそうだが腕相撲にはコツがあるのさ。
「レディー……ゴー!」
審判の合図、そして――勝負は一瞬だった。
「オアーッ⁉」
な、何が起こった⁉
コツとかそんな問題じゃない、俺は一瞬のうちに体ごと倒され地面に転がっていた。
いてて……。こ、このオッサン、見た目に似合わずなんて馬鹿力してるんだ。年だって俺より一回りくらい上だろうに……、腕がもげるかと思ったぞ。
「ドルフ様、大丈夫ですか?」
サフィーアにも思いきり心配をかけている。
あれ、俺ってこんなに弱かった? 冒険家やってる間にめちゃくちゃ鈍ったのだろうか。
「あつつ……、骨は大丈夫そうだが痛い」
「では痛み止めの魔法を――」
「やめてね。それほどでもないし」
「そうですか……。本当はうでずもうをサポートしようとしたのですが、あまりに一瞬だったのでできませんでした。申し訳ありません」
「……腕より心が痛くなってきたよ」
この子はどう言えば勝手に魔法を使わないでいてくれるのだろう。そんな思いも腕と砕けたプライドの痛みで潰れてしまった。
――ちなみに、俺に勝ったオッサンはそのまま優勝した。涼しい顔のまま力自慢たちを機械にでも巻き込むみたいに倒していく様は凄いと言うよりちょっと怖かったぞ。まあ、おかげで俺が弱いわけじゃないとわかって少しだけ心の痛みが和らいだよ。
なんにしてもこれで腕相撲大会は終わりだ。やっぱりパパっと儲けようなんて甘かった、ここは堅実に行こう。俺はまた稼ぎ口を求め会場を後にした。
「おや、我が王が面白い顔をしちゃってるー。誰かにオヤツでも盗まれた?」
そこにプリルマが現れた。
なんだよ、ニヤニヤしながら近付いて来やがって。
「まだ勝負の途中だろ、芸をやってなくていいのか?」
「休憩中だよ~ん。中間発表でもしようかと思ってさ。はいドン!」
そう言いながら出した袋からはジャラジャラとカネの音がした。紙幣もいくらか見えている。あの短い時間でけっこう稼いでやがるな。ちょっと焦る。
「へ、へえ。思ったよりやるじゃないか」
「フヒヒ、約束を忘れておらんじゃろうな? こりゃあ道化師が一転、女王になる日も近いかもしれないねぇ」
笑う道化師のねっとりとした視線にゾッとした。おいおい、たとえ勝っても変な要求はやめてくれよ。
「そ、それはダメです! ドルフ様、頑張ってください!」
「そりゃ負けてやる気は無いけどよ」
サフィーアも何を焦っているんだ? だがまあ、悠長にはしていられないか。
あの腕相撲で勝てていれば圧倒的だったんだけどな、なんて泣き言を言っても始まらない。さすがに同じような催しはやっていないようだし、やはり当初の予定通り稼げそうなバイトでも探すしかないか。
「あの、ドルフ様」
焦る俺にサフィーアが話しかけてきた。キョロキョロと周囲を見て回っているようだが、何かいいものでも見つけたか?
「どうしたんだ?」
「ここは鍛冶の街とおっしゃっていましたよね」
「ああ、そうだ。連邦の中でも腕の良い鍛冶屋や優秀な武具の店が多い所だぞ」
「でも……さきほどからそのような店が見当たらないのですが」
え?
あ、そう言われるとそうだな。
改めて道なりに店を確認してみると……、スイーツ、スイーツ、スイーツ……。なんだこりゃ、スイーツの店ばっかりじゃないか! 武具はどうしたよ⁉
「なあ、おっちゃん!」
思わず適当なスイーツ店に詰め寄っていた。
「いらっしゃい、何にするかい」
カウンターから気の良さそうな男がにこやかに応対してきた。ちょっと話を聞かせてもらおう。
「いや客じゃない。聞きたいんだが、ここは鍛冶の街じゃなかったのか? 武器が欲しいんだけど甘いもんしか売ってなくて困ってんだよ」
「ああ、そう言う事。お客さん、間が悪いね」
「間が悪いって、どういう事だ?」
「この街の奥に鉱山があるだろ、あそこから鉱石が採れなくなってしまってね」
ああ、なるほど。それで鍛冶屋が減っているのか。
「かわりにスイーツが採れるようになったから、みんなスイーツ店に鞍替えしたんだ」
「……。行こうサフィーア、ここはたぶんもうダメだ」
何を言っているのかわからない、というかちょっと関わりたくない。話を聞くのは諦めて自分で探すしかないようだ。
「鍛冶屋が必要なら街の外れに行ってみな、頑固な爺さんがまだやってるはずだよー」
おかしな事ばかり言っていた店員だけどその情報は有難い。他にアテもないから信じて街外れまで足を運ぶ事にした。
……にしても本当にスイーツ店だらけだな。仮に話が本当だとしても切り替えが早すぎるぞお前ら。




