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7 道化と大誘拐 その3

 銃弾を通さない装甲か、厄介だな。こっちから有効打を与えられないのならどう攻めればいいんだ。

 どうにか攻め手を探るために間合いを調整するも上手くいきそうな気がしない。そんな迷いもあってか突如視界が大きくブレた。


 しまった……! 動揺して草に足を取られた!

 体勢を崩した俺の隙を機械が見逃してくれるはずもなく、奴の丸ノコが容赦なく振り下ろされた。咄嗟に腕で防御態勢を取る……が、こりゃ死んだか。くそっ……。


 ガキン!


 と思った矢先、激しい衝撃と金属音でハッとした。

 どういうわけだか腕は切れていない。いや、わけは分かる。俺の腕にどこからか現れた鎖が巻き付き、それが盾になって丸ノコを防いだのだ。


(クハハッ、命拾いしたな)


 頭の中で声がした。

 この声、スピネラスか?


(忘れていたが秘宝を回収したご褒美だ、まあそれで頑張ってみな)

「おい、ちょっと待て!」


 しかし声はそれ以上聞こえる事は無かった。ええ……、この鎖で何とかしろって?

 よく見ると俺の体から直接生えてるぞ、これってタトゥーのやつか? 引っ張ったらそのぶん出てくるし、なんだか気持ち悪いなあ。

 とりあえず丸ノコでも切れない頑丈さはあるようだが……使い方は自分で工夫しろってか。


 それじゃ、まずは基本的な奴からいくか。

 何と言っても鎖だからな、まずは鞭のように振ってみた。鎖が風を切り金属がぶつかる音が森に響く。

 おっ、意外と良好だ。

 重く固い鎖が機械人形を弾くように殴打する。でもちょっと入り方が軽いな、決定打には少し足りない。先端に重い物でもくっつけられるといいんだが。


「だったらこれはどうだ!」


 俺は再び鎖を腕に巻き付けた。

 この鎖、ある程度は俺の意思を反映しているらしく、戻したい時は巻き取り装置のように手元へと戻って来てくれる。握り固めれば即席のナックルの出来上がりだ。

 ガアンという衝突音と共に機械人形が大きくのけぞった。どうだ、これでも軍では鉄拳で鳴らしたパンチだぜ? 俺もちょっと痛かったけど相手の装甲もへこんでいる、手ごたえとしては十分だった。


 ついでに相手の攻撃が来ても鎖のガードで難なく防げる。こいつはいい、このまま押し切る!

 ……と、思ったんだけどな。


 機械人形の口が大きく開いた。口の中にでっかい筒みたいなものが見えるんだけど、嫌な予感しかしないのは俺だけか?

 そう思った次の瞬間、機械人形は真上に向けて巨大な火球を吐き出した。夜の森を明るく照らす炎の玉は花火のように上空で炸裂し、細かい灼熱の弾丸となって周囲一帯へと降り注いだ。

 ここに来て無差別攻撃だと⁉ こんなもの鎖じゃどうにもならない!


「サフィーア! 子供たちを守るんだ!」


 俺は思わず叫んでいた。


「神の奇跡を顕現する! 水よ、風よ、魔を退ける盾となれ!」


 俺が叫ぶ直前、サフィーアの方を向いた瞬間からすでに準備は始まっていたらしい。滑り込むように子供たちの元へと走り込んだサフィーアが祝詞をあげ、子供たち一人一人を大きな泡で包み込んだ。

 直後、火球が着弾し爆風が巻き起こる。皆は……無事だ。さすがは神の奇跡、サフィーアの判断も最高だったぜ。

 泡のバリアは火球をものともせず皆を守ってくれた。そればかりか泡が大きく弾け、周囲一帯に雨となって降り注ぐ。森林火災も防ぐとは気が利いているな、大したもんだよ。


 もちろん俺も無事だ。火球が落ちてくる直前、懐に飛び込んで機械人形の腹に強烈な一撃を加え、そのまま持ち上げてこいつ自身を傘として使ってやったからな。自慢の炎なんだろう? 自分で試してみるのがいいだろうよ。

 かなりのダメージを与えたが、機械人形はまだ止まらないようだ。いい加減こいつにトドメを刺したいが……どうやったら止められる?


「ドルフ様! 首です、首の付け根から心臓を狙ってください!」


 今度はサフィーアが俺に向かってそう叫んだ。

 首だって? よくわからないが、やってみる価値はありそうだな。


 腕から鎖をほどき、機械人形の頭にこれでもかと巻き付けた。また火を吐かれてはたまったものではない、これなら火球も封じられるはずだ。

 そのまま相手を跳び越えるように後ろへと回り、後ろへ重心を傾けた肩車状態で締め上げる。上を向いた機械人形の首回りには確かに隙間ができていた。よし、ここだな!


「いい加減に止まりやがれ!」


 隙間に銃口をねじ込み、残る弾を全てぶっ放す。弾丸も通さない頑強な装甲も、内側に撃ち込まれてはひとたまりもない。その硬さゆえに内部で弾が跳ね返り、何倍もの威力で内部機構を破壊するんだからな。

 機械人形は何度かガクガクと揺れ動いた後、糸の切れた操り人形のように力なく地面に崩れ落ちた。もう二度と動く事は無いだろう。

 

 こっちは片付いた、向こうの様子はどうだ?


「……あれ? ……サフィーアちゃん?」

「モニカさん! ケガはありませんか?」


 機械人形が停止したためか子供たちも正気に戻ったようだ。

 後はみんなを連れて帰れば……って、鎖が絡まってる。こりゃあほどくのにちょっと時間がかかるぞ。


「あー、そのコがモニカだったんだ、やっとワカった!」


 ん? 子供たちの中で喪服みたいな格好の女の子が何か言っている。

 なんか、ヤバい雰囲気を感じる。なんだこの感じは、威圧感……いや、殺気か? おいおい、子供が放っていいプレッシャーじゃねえぞ。


「み~つけ……たっ!」


 謎の少女はモニカとサフィーアに向かい真っ直ぐ手を伸ばした。文字通り矢のような速度で「手」を「伸ばした」のだ。

 ヤバい、あまりにも危険な感じがする。だが鎖が絡まって……!


「ちょえあー!」


 その時、何かが飛び出しサフィーアたちに覆いかぶさった。そのおかげで謎の少女の手はふたりの頭の上を通り過ぎ、代わりに後ろにあった大木へと触れた。

 さすがの俺もゾッとしたね。少女の手が触れた部分、大木のど真ん中には職人が切り出したようなキレイな大穴が空いていた。

 これは……まるで魔法だ。もしふたりのどちらかにでも触れていたら……。


「動くな! お前、何者だ!」


 俺は謎の少女に銃を向けていた。

 鎖はなんとか解けたので動きに制約は無い、だが銃はもう弾切れ、つまりはハッタリだ。というか弾があっても子供相手に発砲なんてできるわけがない。

 今の攻撃が飛んで来たら鎖で防ぎきれるだろうか。思わず冷や汗が出た。


「ウーン? ウーン? あれれ、チガった~? コロすんじゃなくツカマえるんだった?」


 こっちがヒヤヒヤしてるってのに、あっちは俺の事なんかお構いなしに独り言を喋っている。こいつも機械なんじゃないだろうな。


「人の話を――」

「ピアスちゃんマチガえちゃったー。マチガえたらシッパイだー。シッパイしたら、テッタイだー!」


 少女がタップダンスの如くカッと踵を鳴らした。途端に地面に大穴が空き、少女は背中から穴の中へと倒れ込んだ。


「おい待て!」

「シッパイしたからそのコはもうイらなーい!」


 駆け寄ったが後の祭り。あれだけの大穴がすでに跡形もなく塞がっており、少女の姿もまたかき消えてしまっていた。

 もしかしたらこっちが本当の主犯で、そこの機械人形を操っていたのだろうか。ええい、謎が多すぎる。


「何なんだ……」


 しばし呆気に取られていたが、モニカたちの無事を確認しなければならない事に気が付いた。


「……ハッ! モニカ、サフィーア、無事か⁉」

「もちろん、無~事~」


 無事だったのはいいが返事をしたのはモニカでもサフィーアでもない。


「お前は、プリルマ⁉」


 そこにいたのは奇行の目立つピエロ女、プリルマだった。


「という事は、ふたりを助けたのはお前だったのか。……助かったよ」

「なあに、いいって事よ」

「でもなんでここにいるんだ? 捕まってただろ」

「それはほら、道化師だからじゃよ」


 相変わらず答えになっていないがなんとなくわかってきた。要は縄抜けくらい朝飯前とでも言いたいのだろう。


「そ、れ、よ、り、も」


 プリルマがニヤニヤしながら近付き、そっと俺の耳に顔を近付ける。


「……何だ、気持ち悪いな」

「見てたよ? さっきのアレ、魔法でしょでしょ」

「……!」


 さっきのアレ、というのはサフィーアに泡の防壁を出させたやつか? こいつ、その時にはもうここまで来てたのか。つまり、バッチリ見られてたって事だ。


「さてな、見間違いじゃないのか?」


 我ながら苦しい言い訳だ。

 で、どうするつもりだ? 脅す気か? 使って欲しい魔法でもあるのか?

 警戒しながら出方を伺っていると、プリルマは何故かぴょんぴょんと飛び跳ね始めた。


「んんん! やっぱり魔法は実在したのであーる!」

「……ん?」

「こう見えてアタシは魔法の研究をしててさ、旅をしているのもいつか魔法の存在を証明するためだったんだよね」


 おい、おかしな事言い出したぞ。


「ほら、大道芸とか手品って魔法っぽいじゃん? 極めていけば魔法が使えるようになるかもしれないって思ってさ、こうして旅の道化師をやってるってワケよ~」

「親の影響とかじゃないんだ」

「親はなんと怪盗なんだ。天下御免の大義賊ってね!」

「あ……、そうなんだ」

「まあ冗談は置いといて――」


 冗談かよ。縄抜けとか不法侵入が上手いのはそのせいかとか思っちゃったじゃないか。


「本当はお年寄りみたいな喋り方もしてたけど、効果なかったからやめちゃったんだよね」

「お前が形から入るタイプだっていうのはわかったよ」


 それが研究と言えるのかどうかは別としてな。おいやめろ、どこからともなくハトを出すな。……ハトに腕ってあったっけ?

 おっと、モニカたちの無事を確かめるんだった。おかしな奴に付き合っている場合じゃない。


「モニカ、大丈夫か⁉」

「……ふわぁ。あれ……ドルフおじさま……? まだよるですのよ……」


 寝てしまった。だがまあ無事で良かったよ。

 あれ、サフィーアはどこだ? ……いたいた、さっき倒した機械人形を眺めている。


「サフィーア、無事か」

「……ドルフ様」


 サフィーアも問題なさそうだ。

 ただ、ちょっとこの機械人形についてサフィーアに聞きたい事がある。


「サフィーア、さっき首の付け根から心臓を狙えとか言ってたよな。もしかしてコイツの事、何か知ってるのか?」


 すると、サフィーアはコクリと頷いた。


「これは、我がジェバード王国で用いられていた自動人形『イスファンク』です」

「イスファンク?」

「命なき人形に仮の命を与え、労働力や兵士として運用するものです。それと……」


 サフィーアが小さな鈴のようなものを差し出した。

 おっ、またメダルが震えたな。


「これ、もしかして秘宝か?」

「このイスファンクの内部にありました。これは誘いの鈴と呼ばれる秘宝、おそらく子供たちはこの鈴の力で呼び寄せられたのでしょう」

「こいつは力を失ってないんだな」


 そう、使われていたという事は、以前の水差しのように力を失った状態になっていないという事。


「その杖以外に力を取り戻させる方法ってあるのか?」

「……わかりません。少なくともわたくしはこの杖でしかできないものだと思っています」

「という事は、力を失っていない秘宝もわりとありそうだな」


 もしくは力を戻す方法が他にあるのか。

 もっとも、今回の事件はたまたま見つけた秘宝を誰かが悪用したってわけじゃなさそうだ。古代王国で使われていた機械人形に不思議な力を持った秘宝、古代ジェバード王国の遺産が二つも揃う偶然があるか?

 それを従えていたあの奇妙な少女といい、ただの誘拐事件にしちゃ不可解過ぎる。


「敵が多い、か……」


 大勢の足音が近付いて来る。派手にやったからな、騒ぎを聞きつけて街の連中かルイスの部隊が駆けつけてきたのだろう。

 後の事はそいつらに任せるとしよう、俺はモニカを抱え屋敷へと歩き出した。


 ――そして、翌朝。


「もう行くのか?」

「ああ、世話になったな」

「世話になったのはこちらの方だ。モニカの事、本当にありがとう」

「よせよ、水臭いぜ親友殿」


 俺はルイスに別れを告げ屋敷を後にした、騒がれるとマズいからモニカが起きてくる前にな。

 昨夜の事を説明するのは本当に骨が折れた。なにせ古代王国の機械人形にそれを操る怪人少女だ、魔法やジェバード王国の事を出さずにどう説明したものかと苦労した。久々に頭を使ったせいで飲んでも無いのに二日酔いだよ。


 謎の少女の言動からしてモニカを狙っていたのは明らかだ。「もういらない」とは言っていたが、モニカはしばらく護衛付きで親族の家に避難するらしい。その方が良いだろう。

 機械人形……、イスファンクはサフィーアが回収した。秘宝じゃないからまた奇跡の魔法を使わざるを得なかったが、ジェバード王国の遺物を目撃したとなっては軍に拘束される恐れもある。痛いが必要な出費だ。本当に痛いけど。


 だが二つ目の秘宝は手に入った、ルイスに買い取ってもらった分の資金もある。


「ドルフ様、これで秘宝も二つ目、この調子で頑張っていきましょう!」

「ああ、そうだな」

「金貨は残り七枚ですがきっと大丈夫ですよ」

「オアーッ⁉」


 さらりと衝撃的な言葉が耳を打つ。

 ななな、何枚だって? ななまい⁉


「なんでそんな……」

「大きな魔法を立て続けに使いましたから……。でもドルフ様なら心配いりませんよ!」

「根拠のない励ましありがとう。次は根拠も添えてくれ、できたらでいいから」


 なんだか泣きたくなってきちゃった。


「そんな時はアタシの芸でも見て笑顔になるといいんじゃね~?」


 当たり前のようにプリルマも付いて来てるし。


「なんで付いて来るんだ。せっかく功績が認められて釈放されたんだから好きな所に行けよ」

「だから好きな所に付いて来てるんだよん。せっかく見つけた魔法の手がかり、放してたまるか夢工場!」


 誰が夢工場だ。


「はい、ドルフ様」

「ん」


 さりげなくサフィーアから渡された鈴を鳴らしてみた。

 音は鳴っているのかいないのかわからない程度だったが……おお。


「モゲエエ⁉」


 うわー、集まってる集まってる。

 プリルマにすごい数のカエルがワラワラ群がってるぞ。さすがは秘宝、効果抜群だな。


「カエル苦手か?」

「アホー! 苦手じゃなくてもこの数はキツいってば!」


 ハハッ、悪かったよ。

 この鈴は集めたものを散らす事もできるようで、大量のカエルはあっという間に解散していなくなった。ほら帰れカエルたち、ご苦労さん。


「……ったく、アタシは一応恩人なんだけど?」

「わかってる、悪かったよ。で、この程度じゃあ諦めないんだろ?」

「もちろんじゃい!」


 こうして俺の旅に奇妙な道化師が加わった。

 これが吉と出るか凶と出るかは神のみぞ知る、だな。もっとも、その神様は知ってても教えてくれないんだろうけど。

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