6 道化と大誘拐 その2
その日の食事は賑やかなものになった。
気になっていたモニカもサフィーアによく懐いている、仲良くやってくれているようだ。
「仲良くやっているみたいだなサフィーア、助かるよ」
「うふふ、わたくし末っ子なので妹が欲しかったのです。お姉様たちはわたくしをとてもかわいがってくださいましたが、やっぱりこのような経験は新鮮ですね」
嬉しそうだな、なんにせよ互いに寂しさを紛らわせる相手ができて良かった。そういうの、俺にはどうにも苦手だからさ。
食事も終わり、それから俺たちは用意してもらった部屋でそれぞれ休む事になった。
「それではドルフ様、おやすみなさいませ」
「ああ、おやすみ」
さすがは大佐殿、屋敷がデカければ部屋も多い。サフィーアも久々の上等なベッドでゆっくり休めるだろう。
にしても、どうにも気になるな。「ジェバード王国はおとぎ話でなければならない」か、ルイスの真剣な様子からして冗談ってわけじゃなさそうだし。
サフィーアに話す機会が無かったが、魔法の事とか口止めしてあるからそのあたりは問題ないかな。たぶん。
後は不穏な動きの連中か。テロリストってのはどこにでもいるからな。連邦にケンカを売ってどうにかなるもんでもないだろうに、何が目的なんだか。
……というか、在ってはならない王国を復興させようとしてる俺たちってモロに当てはまらない? あれ、もしかして俺の事?
やめやめ、考えるのはまたにしてもう寝よう。
頭をカラッポにして上等なベッドの感触を堪能する。うーん、いいなこの感じ。久しぶりに感じる深い闇に沈んでいくような、その中に何かでかいものが潜んでいるような……。
「おい」
……⁉ この声、スピネラス⁉
うわ、なんかまた変な闇の中に浮かんでるような感じがする。
「なんだよ神様、また俺を呼びつけたのか」
何も見えないが相変わらずの存在感、やっぱりスピネラスがそこにいる。
「神様に対する態度じゃねーな。せっかく秘宝を回収した事を誉めてやろうと思ったのに」
「おっ、もしかして呪いを解いてくれるとか? さすがは神、懐が大きいなあ」
「アホか、それはまだ先の話だ。ひとつやふたつで何とかなると思うなよ」
何とかならないのか。やれやれ、本当に褒めるだけかよ。
あ、そうだ。いい機会だしこっちからも質問してみるか。
「なあ神サマ、ジェバードはエメリア連邦にとって存在してはならないものとか言われたぞ。どういう事なんだ?」
「神相手にタメ口かい、まあいいけどよ。……ふん、あいつのやりそうな事だ」
「あいつ?」
「なんにしても、お前には敵が多いってこった。ほら、今も――」
……ハッ⁉
あれ? 夢か? 急激に引き戻されるような感覚があって、気が付いたらちゃんとベッドに横になっていた。
周囲はまだ真っ暗だ。なんだよ、まだ夜中じゃないか。もうひと眠り――
「……」
ん……?
なんだろう、よく見えないが天井に何かいるような気がする。ここは天井が高いし、眠れない時ってそんな気分になるんだよなあ。
虫でもいるのか? 目を凝らしてじっくりと……。だんだん目が慣れてきた、天井からこちらを見つめる目がはっきりと見えてきたぞ。
「こんばんわぁ!」
「オアーッ⁉」
いる! やっぱなんかいる!
そう思った途端に上から俺めがけて落ちてきた。例えるなら天井にいたでっかい虫がいきなり顔面に落ちてきたみたいに。
って、喋ってたな。という事は人か? まさか暗殺者⁉ 俺なんかに⁉
「いやぁ、探した探した。こんな夜中になっちゃったけど会えて良かったネ!」
「ななな、何が……あっ、お前⁉」
俺の上に馬乗りになっているこの人物、その顔と格好に見覚えがあった。
「お前、昼間の道化師か? 確かプリルマとか……」
「正解! さすがにこんな短時間じゃ忘れないよねー」
……それはいいけど、なんでこんな時間にこんな所にいる。殺し屋かと思って驚いたじゃないか、まだ心臓がバクバク言ってるぞ。
「ホフフ! 何を隠そう、昼間のお礼をまだ言ってなかったからさ。義理堅いプリルマちゃんは恩人の後を追いかけましたが道に迷い、ようやく見つけた時には夜中だったというワケですじゃよ」
「なんだよその喋り。それよりそんな事のために連邦陸軍大佐の別荘に忍び込んだのか?」
「アタシって道化師だからさ~」
答えになってない。ずっとそのピエロスタイルでいる答えにはなっているのかもしれないが。
「さて、それではお礼といきますか。こんな道化師にできるお礼といえばこれくらいしかないケド……」
プリルマはそっと自分の胸元に手を入れ、そして――
「ジャーン! 徹夜でマージャン、略して徹マンじゃー!」
どこからどうやって出したのか、麻雀牌のセットを取り出した。
「色々と言いたい事はあるが、二人でどうしようってんだ」
「心配無用、アタシが三人分やりまっしょい」
それじゃお前が圧倒的に有利だろ。そもそも麻雀がお礼になるのだろうか。……何か変な奴を助けちゃったな。
あといい加減に降りてくれないかな。この状況、いろんな意味で誤解されると思うぞ。
……おや、なにやら部屋の外が騒がしい。
ガヤガヤと何か喋っている、いや騒いでるような音がする。そのうちに小さめの足音がこの部屋へと向かってくるのが聞こえた。
「ドルフ様!」
部屋に飛び込んできたのはサフィーアだった。
あ、まずい。この体勢は非常にまずい。
「……」
「いや、サフィーア、これはな……」
「神の名において汚らわしき逆賊を――」
「待て、待てってば!」
慌ててベッドから飛び出し、サフィーアを取り押さえた。
今魔法使おうとした? 何をしようとしたか知らないけど、お前それ俺の寿命だからな? プリルマも笑ってるんじゃない。
「ドルフ!」
騒がしくしたせいか今度はルイスが飛び込んできた。いや、騒がしいのは外も同じだったな。
「今度はお前かよ。どうしたルイス、こんな夜中に」
「ドルフ、モニカが来ていないか⁉」
「モニカがどうした、いなくなったのか?」
「ああ、姿が見えない。もしかしたら誰かが――」
その時、ルイスの視線がプリルマを捉えた。
「ちーす、お邪魔してま~す」
「……」
ルイスが一瞬固まっている。そりゃそうなるよな、俺もだ。
「……く、曲者だ! 捕らえろ!」
で、当然こうなるわな。
不法侵入を働いた道化師はあっという間に捕縛され、ロープで巻かれた状態で広間の中央へと転がされた。
ルイスをはじめとする屋敷の者たちは、皆殺気立った様子でプリルマを睨んでいる。モニカが行方不明らしいからこの怪しいピエロを疑うのは当然だろう。
「貴様……モニカをどこへやった!」
「ひ~ん、モニカもモナカも知らんて~」
ただ、俺に礼を言いに来たってのは嘘じゃなさそうなんだよな。誘拐するような奴がずっと部屋に居座ってむざむざ捕まるのもおかしな話だし。
「ルイス、確かにそいつは怪しいが、たぶん関係ないと思うぞ」
「しかしだな……」
「あの~」
俺とルイスが話しているところにプリルマが割り込んできた。
「そのモニカとかいうヒトか知らんけど、お屋敷にどこから忍び込もうか迷ってる時に5、6歳くらいの女の子なら見たよ」
「なっ⁉ ど、どこでだ!」
「フツーに外歩いてた。アタシも忙しかったし、目的地に向かってるって感じの足取りだったから放っておいたケドさ」
「外だと……? すぐに――」
ルイスはすぐにでも屋敷を飛び出しそうな勢いだ。しかし、事態は思ったよりも大きなものだった。
「旦那様、大変でございます!」
執事に呼び止められルイスの足が止まる。
「……なんだと⁉」
どうやら事件はココだけじゃないみたいだ。何人かの住人がウチの子供がいなくなったと泣きついて来たらしい。
大規模な誘拐事件にでもなっているのか?
どのみち放ってはおけない。それでは親友殿のためモニカ嬢のため、一宿一飯の恩を返すとしますかね。
「ルイス、外には俺が探しに行く」
「ドルフ? しかし……」
「お前はここで待機だ。もしかしたらモニカ嬢が帰ってくるかもしれない」
「……わかった、頼む」
「ああ、任せろ」
話は決まった。
俺はリボルバーの弾を確かめると、ホルスターに納めるなり屋敷を飛び出した。プリルマの話ではどこかを目指して歩いていたそうだが……、こんな夜中にどこへ?
街へ繰り出すとやはりちょっとした騒ぎになっている。聞いた通りけっこうな数の子供がどこかへ姿を消してしまっているようだ。
ううむ、何か手がかりはないだろうか……。
「わたくしが魔法でお調べしましょうか?」
「いやそれは……って、サフィーア⁉」
手がかりを探していたらサフィーアがぴったりくっついて来ていた。そういえば急いで屋敷を出たものだから忘れていたよ。
「ついて来てたのか」
「もちろんです。サフィーアはいつでもご一緒です、置いて行っては困りますよ」
驚いたな。俺も確かめなかったのは悪いけど、いつの間に。
「悪かったよ」
「はい。それで、魔法を行使しましょうか?」
「い、いや~、それはまだちょっと……」
むむ……、ここでまた資産及び寿命を減らしたくはないんだよなあ。スピネラスと話をしたときに具体的な残りの寿命とかを聞いておくべきだった。
とはいえ周囲の住民も混乱していて聞き込みどころじゃなさそうだ。早くしなければモニカの身に危険が迫っているかもしれない。くうっ、やはり魔法を使うしかないか。
「……うおっと⁉」
おや、何か妙な感覚があった。こうブルっと震えるようなこの感じ、どこかで……。
そうだ、メダルだ。王家のメダル。ポケットから取り出してみると確かに震えている。
「こんな時に秘宝かよ……って、なんだこりゃ、引っ張られている?」
奇妙な事に、手に取ったメダルがわずかだが俺を引っ張るような感じがする。
「ドルフ様、もしかしたらもしかするかも。メダルの導くままに行ってみませんか」
「ううむ……」
そうだな……。他にアテもないし、サフィーアがそう言うなら賭けてみるか。
「わかった、行こう」
「はい!」
イチかバチか、メダルの引っ張る方向へとひた走る。
メダルは脇道を抜け街の外の方向を指していた。どうやら真っ直ぐ森に向かっている、こんな夜中に子供が入るには危険な場所だ。
万一に備え周囲を警戒しながら慎重に歩を進める。子供が入るにはなんて言ったが大人にも危険な場所だ、手持ちの灯りが心許ない。
それでもしばらく歩いていると急に木々が開けた広場のような場所を見つけた。
そして……ビンゴだ。
茂みから覗き込むと、広場には消えた子供たちが集まっていた。モニカくらいの年齢からもう少し上の子供まで複数の子供が集められている。パジャマの子が多いけど喪服みたいなのやドレスみたいなの着てる子もいるな、最近は寝る格好も多種多様だね。
もちろんモニカの姿もその中にあった。だが問題がふたつある。
ひとつは全員がぼんやりしている様子で突っ立ったまま動こうとしない事、もうひとつは子供たちに混じって帽子と覆面で顔を隠したコートの大男がいるって事だ。
なるほど、あいつが誘拐犯ってワケか。それにしちゃあ周囲を警戒しなさすぎだぜ。
「サフィーア、ここで待機していてくれ」
無言でうなずいたサフィーアを確認し、俺は男の前へと躍り出た。
「動くな。両手を上げて頭の後ろに回せ、おかしな事は考えるなよ」
銃を構え男に警告する。
でも本当はちょっと焦ってた。銃を抜いたはいいが思ったより子供たちが近い。こんな位置関係で撃ち合うワケにはいかねえな……、頼むから抵抗しないでくれよ。
「目標……認証……不明……不明……」
そんな俺の気も知らず、男は意味不明な事を呟くばかりで指示に従おうとしない。
くそ……何だってんだ。せめてこっちを気にしろよ。
すると男に動きがあった。完全に俺を無視して子供たちに手を伸ばそうとしている。
ええい、ままよ!
俺は素早く男に駆け寄ると、銃のグリップで思いきり顔面を殴り付けた。
こっちをまるで気にしていなかったため、この一撃は見事にクリーンヒット。通常ならばこれで失神KO、事件解決だ。
……通常ならば、な。
「……マジか」
男は顔面を割られる勢いで殴られたにも関わらず、倒れるどころか多少怯んだ程度で大したダメージにはなっていない様子だ。
それから、マジかって言ったのは効いていないからってだけじゃない。今の一撃で帽子が落ちて顔が露になった。覆面かと思っていたのはこいつ自身の顔、金属製の皮膚だった。
よく見りゃはだけたコートの間から金色に輝く金属製の体も見える。
こいつ……機械か⁉
冗談だろ、こんな精巧な機械人形なんて連邦でも見た事ないぞ。俺じゃなくたってマジかって言っちゃうくらいの案件だ。
「妨害行為を確認。脅威の排除へ移行」
あ、やべ。今のでこっちにターゲットが向いちまったみたいだ。怒らせたか?
ガチャガチャ妙な音がすると思ったら、男……いや、機械人形の脇から手が生えて四本腕になってやがる。それもノコギリが付いた物騒なやつがな。
「うおっとぉ!」
そら、おいでなすった。
右に左にブンブン振り回しやがって、大事な服が破けたらどうしてくれるんだ。
だがあまり悠長な事は言ってられないな。だんだんと攻撃の精度が上がってきている、長引けば服どころか胴体がバッサリいきかねない。
……よし、そろそろいいかな。俺だってただ逃げ回ってたわけじゃないぞ、銃をぶっ放しても大丈夫なくらい子供たちから距離を取っていたんだからな。
てなわけで――
「食らえ!」
相手が機械なら遠慮はいらない。頭と胸、どっちが有効かわからなかったから両方にぶち込んでやった。
ガンという激突音が響き、さすがの機械人形もグラリとその体勢を崩す。よし、行ける!
「……損傷軽微、戦闘続行」
あら? あまり効いてないみたいね……。
行けると思ったんだけどな。




