↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/24

16 再生と降臨 その3

 夜の闇を月明かりとカンテラの僅かな灯りで進んでいく。

 すると先の方に明かりが見えてきた。森の中にポツンと存在する館、ここがトウガのアジトらしい。

 薄気味悪い雰囲気だ。ギャングのアジトにしては周囲に見張りはいないし、近付いてみても人の気配がない。屋敷自体も大きいが荒れているようだ、本当にこんな所に住んでいるのだろうか?


「さあ参りましょう」


 あ、ちょっとシスター。そんな無警戒に……って、入っちゃったよ。

 仕方なく俺たちも続いて屋敷へと入った。外観よろしく中も散らかっているな。


「昔の領主の屋敷だそうです。田舎のギャングには過ぎたアジトですね」


 表情を変えないままシスターが言った。この人、見た目よりけっこう辛辣だな。

 その屋敷の中はやっぱり誰もいないようだ、でも明かりは点いているからなんとも奇妙な雰囲気になっている。怪談話じゃあるまいに。


 ……おっ⁉

 通路を進んでいると突然ポケットからブルっときた。こいつは当たりだな、メダルが反応しているぞ。やっぱりトウガが手に入れたというガラクタは秘宝だったんだな。

 となれば人がいないのは好都合だ、誰かに出会う前に秘宝だけ見つけてさっさと帰ってしまおう。方向は……ちょうどサフィーアが立っている方か。


「サフィーア、そっちの方から反応が――」


 その時だった。屋敷全体が大きく揺れ、天井が崩れたのか俺たちの目の前に大量の瓦礫が落ちてきた。幸い瓦礫が俺たちには当たるような事はなかったが……なんてこった、通路が塞がってサフィーアと分断されてしまった。


「およよ、こりゃあちょっとやそっとじゃ動かせそうにない感じ」


 プリルマの見立て通り瓦礫は完全に通路を塞ぎびくともしない。あっちは無事だろうか。


「聞こえるかサフィーア! 無事か!」

「は、はい。わたくしもシスターもケガはありません!」


 瓦礫の向こうからはっきりと声が聞こえた。ふう……それを聞いて一安心だ。

 だがまいったな、秘宝は向こう側だというのに。あっちはサフィーアとシスター、こっちは俺とプリルマか。ここは合流できる道を探すしかない。


「俺たちは合流できる道を探す、そっちは周囲に気を付けてできるだけ動くな」

「はい、わかりました!」


 よし、これでいい。俺もなるべく急いで合流しなければ。


「――あっ、シスターさん! 待ってください!」


 そんな時、サフィーアがそう言うのが聞こえた。


「サフィーア?」


 ……呼びかけても返事がない。あのシスター、また勝手に進んだのか。そしてサフィーアもそれを追いかけて行ったな……危ないから下手に動いて欲しくなかったのに。

 ともかく道を探そう。俺はプリルマと通路を引き返した。


 それで、だ。急がなければと思うのに……この屋敷、無駄に広い!

 けっこう歩いたけど、廊下も長いし部屋も多い。おかしな建て増ししてるのか迷路みたいになってるじゃないか。田舎ギャングのアジトにしてはセキュリティがしっかりし過ぎているぞ。いや、文句を言うなら元の持ち主の領主にか?


「やたらと散らかってんねえ。でもいろいろ良さそうなものが置いてあるのはグッド」


 プリルマはこんな調子だし。


「俺たちは泥棒じゃないんだ、ちゃんと道を探してくれよ」

「へ~い。それよりドルフくん、足元におカネが落ちてるよん」

「えっ?」


 どこどこ⁉ そう言われると弱い、つい我を忘れて這いつくばりカネを探した。

 すると頭を下げた瞬間にヒュッと不思議な音が聞こえた。

 すぐ近くにあったオブジェがゴトリと音を立てて倒れ込む。おや、美しい断面が見える、何かに斬られてその部分が落ちてきたのか。

 ……つまり、頭を下げないと俺がこうなっていたわけだ。

 咄嗟に距離を取り確認すると、そこに男がいた。人相が悪く派手なスーツを着込んだ男が。


「チッ、外したか。なんやお前ら、オレの屋敷に盗みに入るとはエエ度胸してるやん」

「オレの屋敷? ……じゃあ、あんたがトウガか」

「だったらどないしてん」


 うーん、多分間違いないよな。ギャングのボスだって聞いてたからもうちょっと年かと思っていたが結構若かったな。

 ただ、気になるのは……どうしてこいつはボロボロなんだ? 出血もしているようだし息も荒い、どうにも様子がおかしいぞ。


「待ってくれ、俺たちは泥棒じゃない。あんたが手に入れたガラクタの事が聞きたいだけなんだ」


 すると、トウガの鋭い目つきがより鋭さを増した。


「お前ら、あいつの仲間か⁉」

「あいつ……って、誰だ」

「やかましい! 問答無用や!」


 ダメだ、傷のせいか興奮していて話にならない。どう考えても誤解されてるよな。

 トウガの武器は大振りな剣、重そうだがそれをものともせず舞うように斬り付けてくる。聞いた事があるな、どこか異国の剣士が好んで使う切れ味に特化した片刃の剣があると。確かカタナだったか。


「もらったあ!」

「ちょ、待てって!」


 初撃を鎖の束でかろうじて弾いた。

 奴のカタナに対して俺の武器は呪いの鎖くらいだ。やたら頑丈だからこうやって斬られずに防げてはいる、だが相手の動きに隙が無く防戦一方だった。この傷でこの動き、こいつはかなり手練れの剣士だぞ。たまにこういう奴がいるから今でも剣は廃れない。


「ホワーッ! 今こそアタシが大・活・躍! 派手な格好の変な奴め覚悟せぇい!」


 ここで見ているだけかと思っていたプリルマが助っ人を買って出た。

 派手な格好の変な奴はお前もだからな。でも助かる、ありがとよ。

 ……あれ、道化師って戦えるのか?


「いくよ道化師流回転投擲! バーナナーナナー!」


 プリルマは奇声を上げつつ高速で回転し、トウガめがけてバナナの皮をいくつも投げつけていく。そんなもの、どこにそんなに持ってたんだ。

 あっという間に床はバナナの皮でいっぱいになった。正確には七つ。バナナが七つだからバナナナナってわけか、なるほど。


「ああ……? こんなもん、踏まんかったらエエだけやないか」


 それはごもっともな指摘。実際にトウガもバナナの間を歩こうとしている。

 だが――


「えいっ」

「ぐわっ⁉」


 不思議な事にバナナの皮がひとりでに動き、トウガの踏み出した足の下へと滑り込んだ。もちろんバナナの皮を踏んづけたトウガはすってんころりん、顔面から派手に転んで床へと口付け状態に。うわ、痛そう。


「ヒョホハハハ! 道化師舐めたらダメダメよぉ~!」


 笑ってるよ、煽るなあ。

 プリルマの手をよく見ると細い糸のようなものが確認できる。そうか、仕掛けは単純、糸でバナナの皮をタイミングよく引っ張ったんだな。

 更には皮の中にクリームを仕込んでいるという徹底ぶり。起き上がったトウガがぶちまけられたクリームまみれになっている。すごくヌルヌルで足元がおぼつかない様子だ。


「この……クソアマぁ!」


 クリームまみれでトウガは怒り心頭。そりゃ怒るよな、たぶん俺だってそれやられたら怒る。

 でもせっかくのチャンスを逃すわけにはいかないんでね、一気にやらせてもらう。


 俺の体から直接生えてる呪いの鎖、いくらか練習して多少その性質が掴めてきた。きわめて頑丈、少なくとも二十歩分くらいは伸ばせるし引き戻せる、ある程度は俺の意思で動かせるとかな。

 そんなわけで早速トウガに向け一直線に鎖を放つ。


「甘いわ!」


 鎖はトウガの持つカタナによって弾かれた。だが想定通りだ。

 トウガはクリームに滑って足の踏ん張りを失っている状態だ、いくら切れ味に優れるカタナといえどもそんな様子ではまともに振れまい。

 腕の力だけで大振りなカタナを振ったものだからバランスを崩している。弾かれた鎖はこの隙を見逃さない。まずはカタナ、そして腕、更には全身を蛇のように巻き付け締め上げた。よし、上手く動いている。


「くっ、なんやコレ!」


 ぐるぐる巻きにされ引き倒されても諦めないその根性、さすがだな。

 でも俺は本当にケンカしに来たわけじゃないんだって。


「クソが……、ヤるんならヤれや!」


 まあ落ち着けよ。

 倒れた相手を見下ろすようで悪いが、俺はそっとトウガに近付き話しかけた。


「なあ、怪我人にこんな事して悪いとは思うが話を聞いてくれよ。俺はドルフ、しがない冒険家だ。訳あって変わったガラクタを集める旅をしてる、ここに来たのもあんたが手に入れたっていうガラクタを見せて欲しかっただけなんだ」

「……ああん? なんやソレ、意味わからんわ」


 しかし、言葉とは裏腹にトウガの態度が少し和らいだ気がした。


「……チッ。話聞きたいんやったら、まずはコレ外せ」

「ああ、わかった」


 俺はトウガに巻き付けていた鎖を外した。うわ、クリームまみれだ。一回引っ込めたら取れるかな……?


「ドルフくん~、ちょっと決断早すぎなんじゃない? 危険が危ないのよ」


 プリルマはそう言うが心配はなさそうだ。


「安心せえ、お前らのマヌケ面見とったら気ぃ抜けてもうたわ。あいつの仲間とは思えんしな」


 さすがに疲れているのだろう。トウガは鎖から解放されると肩や首の関節を動かしながら壁際へと歩き、ドカッと腰を下ろすと大きくため息をついた。

 さて、聞きたい事は多いが何から聞こうか。


「……事の始まりは、しょぼくれたオッサンがガラクタを持ってきた事やった」


 あ、聞かなくても話してくれる感じ?

 じゃあ黙って聞いていよう。


「どこで見つけたんか、古い時代のお宝や言うてな。どう見てもガラクタやったけど、明日食うもんも無い言うから中古の日用品として買うたったんや」

「ほほう、顔は怖いくせに意外と優しいんね~」

「顔は生まれつきやし、意外とは余計や!」


 話の腰を折るんじゃないプリルマ。変な顔してもダメだぞ。

 すまない、気にせず続きを頼む。


「それから何日かして変な女が訪ねて来よった。陰気な女で、来るなり「お前たちの手に入れた秘宝を渡せ」とか言うてな」


 秘宝だって? ……その女、秘宝の事を知っているのか。何者だろう。


「そんなモン知らんし、何よりオレは無礼な奴が嫌いや。下の者に追い返すように指示した、そしたら――」


 トウガの口調が強くなった。憎しみのこもったような、悔しそうな様子で。


「……あの女、追い返そうとした二人を殺しおった。ウチの連中はヤワやない、なのにどうやったかは知らんが一瞬でな。それからは、もうめちゃくちゃや」

「この屋敷の荒れ具合か?」

「ああ、殺されたはずの二人が起き上がって他の者に襲い掛かった。それで死んだ奴はまた別の奴をって感じでな。オレも対応が遅れてこのザマや」

「そいつらはどこに?」

「さあな、しばらく暴れ回ってたようやけどいつの間にかおらんようになったわ。というか二日くらいか……気ぃ失ってたから正確な事はわからん」


 トウガの話が本当だとすれば、街を襲った死者たちというのはここの連中だったんじゃないか? そして、秘宝のせいだと思っていたがやったのはその女という事になる。

 陰気そうな女か……、ちょっと嫌な予感が頭をよぎった。もうここは直球で聞いてみよう。


「なあ、その女ってシスターだったりする?」

「シスター? 誰やソレ」

「ほら、街の教会の……」

「何言うてんねん、あそこの管理しとるんはジジイやで」

「なっ……⁉」


 何だって⁉ じゃあ、あのシスターは……。

 マズい、マズすぎる。嫌な予感が直球で当たった。


「トウガ、今この屋敷にその女が来ている!」

「な……何やて⁉」

「俺のはぐれた仲間と一緒にいるんだ、入り口近くの天井が崩れて道が塞がって……。あの先に通じてる他の道はないのか⁉」

「ちょ、落ち着けや。それやったら多分こっちや、ついて来い」


 トウガに案内され廊下をひた走る。

 存在しないはずの怪しすぎるシスター。思えば俺たちをここに誘い込んでいたとも考えられる。だが何のために?


「ほーらー、怪しいって言ったじゃん!」

「変な奴って言っただけだろ! それに、どうせここには秘宝を探しに行く必要があったんだよ!」


 秘宝……、そうか秘宝か。ここを襲撃して秘宝を見つけたはいいが、その秘宝は力を失いガラクタの状態だったんだ。だから力を取り戻させるために俺たちを――

 って、ちょっと待て。それだと俺たちの事も知られているじゃないか。

 ……考えていてもわけがわからない。くそっ、サフィーア、無事でいろよ。


 しばらく走っていると見覚えのある廊下に出た。あの瓦礫の反対側だ、という事はこの先にサフィーアたちがいるはず!


「この先には何があるんだ?」

「お前らの言うとったガラクタが置いてある。要は物置や」


 シスターの目的も秘宝だとすれば、二人は間違いなくそこにいる。

 辿り着いた部屋の扉を開けると……いた、サフィーアだ!


「灼星の杖よ、真なる姿を照らしたまえ!」


 どういうわけか秘宝の力を戻そうとしている。その横にはシスターの姿もあった。


「サフィーア! そいつから離れろ!」


 俺が叫ぶとサフィーアがこちらに振り向いた。

 嬉しそうなサフィーアの顔。同様にこちらを向いたシスターもまた笑顔を見せた。サフィーアとは対照的な、悲しそうな笑顔で。


「あっ、ドルフ様! 見てください、秘宝が見つかりましたよ!」


 ドッ!


 瞬間、時が止まったかのように感じた。

 サフィーアが……刺された。背後から、シスターの手によって。

 俺は何かを叫んだかもしれない。だが、その叫びは声にならなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。