14 再生と降臨 その1
カナトの街を出発してしばらく、俺たちは徒歩での旅を続けていた。
「ふう、街道があるとはいえ歩きはやっぱ面倒だな」
「ドルフ様、列車には乗らないのでしょうか」
サフィーアもこう言っている。ただ一緒にいて思ったのは、サフィーアは見た目によらず根性のある女の子だって事だ。徒歩の旅で音を上げるようなやつじゃない。
とすると、単純に乗り物が好きなのだろうな。
「お、列車が気に入ったのか?」
「え……ええ、す、少し……」
「ははっ、照れる事ないさ。鉄道を使わない理由はふたつだ。ひとつはまだ路線や駅が少なくどこにでも行けるわけじゃないって事。もうひとつは……」
俺は後ろから付いてくるプリルマの頭を捕まえた。
「このアホを助けたから金が無いって事だな!」
「ぐええー!」
あの後、連れて行かれたプリルマを放っておくわけにもいかず助けたわけだが……、これがまた大変だった。俺だってプリルマの負け分を払えるほどのカネなんか無かったからかなり強引な賭けに出た、つまりギャンブルにな。もちろんただ危険な橋を渡ったわけではなく、最悪の場合は魔法の行使も考えていた。ま、そうはならずに済んだけど。
「お前なあ……、サフィーアの運がたまたま良かったからなんとか借金チャラにできたものの、そうでなかったら見捨ててるところだぞ」
「し、承知している……のでごぜえます」
まったく、何が稼ぎ勝負だ。途中まで調子良かったのに結局マイナスになってるじゃないか。そりゃあ、俺も途中から忘れてたうえに武器も手に入らなかったけどさ。
「でもでも、そのぶんちゃんと情報を手に入れてきたっしょ?」
プリルマの言う情報、それは賭博場で聞いたという噂話だった。
なんでも宿無しのごろつきがとある廃村を訪れた時、古い貯蔵庫の壁が崩れて隠し部屋が見つかったとか。残念ながらそこにあったのは古いガラクタばかりだったが、地元のギャングが何故か気に入り買い取ったという話だ。
「そのガラクタの中に、もしかしたら秘宝が混じっているかもしれないよ~?」
と、プリルマが強く主張するので、俺たちはその場所へと向かっているわけだ。
酔っ払いの噂話だし、プリルマが挽回のためにこじつけているような気もする。しかし、力を失った秘宝は見た目もガラクタになるからな。そんなものをギャングがわざわざ買い取ったという部分も気になる。もし秘宝だったら近くまで行けばメダルが反応するだろうし、こういうのは確かめておいた方がいい。
でもギャングか……。できれば関わりたくない連中だな、本当に秘宝だったらどうやって譲ってもらうか考えておく必要がある。
「お、見えてきたぞ」
歩いているうちに街が見えてきた。
と言っても正確には目的地じゃない。目的の場所はギャングのアジト、正確な場所を探らなきゃならないし、すぐには無理ってわけで最寄りの街で休んでいく事にしたのだ。そんなに大きくはない田舎町だけど、その分のんびりできるだろう。
……そう思ったんだけどな。
「なんだか物々しいねー」
プリルマが眉をひそめるのも無理はない。
街のあちこちに兵士の姿が見える。通りすがりってわけじゃなさそうだ、何か目的があってこの街に駐留しているのか?
幸い、街への出入りは制限されていない。だが一般人の姿も見当たらない。みんな家の中に引っ込んでいるみたいだな。
事情を知りたいが今の俺は一般人、顔見知りでもなければ兵士に聞いても答えてはくれないだろう。さて、どうしたもんか……。
「ちょっと怖いですね。ドルフ様、どうしましょうか」
「うーむ」
……おや、あれは。
どうするか考えていたらいいものを見つけたぞ。少し離れた場所で話をしている将校、その顔に見覚えがある。ツイてるな、お待ちかねの顔見知りだ。
「あそこにいる女が見えるか? あいつから話を聞けるかもしれないぞ」
「お知合いですか?」
「まあな、昔の部下さ。可愛い奴だったよ」
俺はさっそく彼女へと近付いた。
「よお、イザベラ。久しぶり」
「……⁉」
声をかけたら豆鉄砲食らったような顔をして驚いている。無理もない、彼女には随分と会っていなかったからな。
「二人とも、紹介するよ。彼女はイザベラ=ブランドル少尉だ。……まだ少尉だよね?」
思い出すな。まだ軍にいた頃、新人将校だった彼女は俺の後を付いて来てはあれこれ質問してきたもんだ。俺もできる限りの事は教えてやった、まあ弟子みたいなもんさ。
ピシッと着こなした軍服に綺麗に纏められた髪、生真面目な性格を表すようなメガネも相変わらずだ。俺と違って今でも軍で上手くやっているのだろう。
「き、貴様は……、ドルフ=ゴルドマン!」
なんて素敵な思い出に浸っていたら、冷たい銃口が同じく冷たい視線と共に俺の頭へと突き付けられている。あれ、これどんな状況?
「いや、ちょっ……、落ち着いて?」
「この裏切り者め……! よくも私の前に顔を出せたな⁉」
何の話⁉ 身に覚えは無いんだけど!
「なんだろね、アタシにはとても友好的に見えな~い」
「ドルフ様⁉ あわわ……!」
いやほんと、何なんだろうねこの変わりよう。俺が知りたいくらい。
あ、こらサフィーア、魔法を使おうとしないで!
「ブランドル少尉、そこまでにしておきなさい」
天の助けか、聞こえてきた声によってイザベラは銃を降ろしてくれた。
よくわからんが助かった。って、この声にも聞き覚えがあるぞ。
「やあドルフ、危なかったね」
「モーン少佐!」
聞き覚えがあるわけだ。
ひょっこりと現れたこの人物、名前はニック=モーン。見た目はどこにでもいそうなオッサンだが、その実はなんでも程々にが信条、手抜きのプロを自称するエメリア軍少佐殿だ。
俺もルイスも上官だったこの人に色々教わったもんだよ。本当に色々な。
そうだ、この人なら話が聞けるかもしれない。
俺はサフィーアたちを軽く紹介した後、この街の状況を聞いてみる事にした。
「それにしても、こんな田舎町になぜ軍が?」
「ああ、それね。実は――」
「モーン少佐!」
うわびっくりした。
せっかくモーン少佐が話してくれそうだったのにイザベラが大きな声で割り込んできた。
「部外者に軽々しく話さないでください!」
「いや、でも知らない仲じゃないしねえ」
「今は一般人です!」
「だとしてもだよ? あの鉄拳ドルフが動いてくれたら僕らも楽できるじゃない」
おいおい、凄い事言ってる気がするんだけど。こういう人なのは知ってたが、仮にもここの責任者だろ? そんな事を堂々と言っちゃっていいのかよ。
あとその通り名まだ言われてたんだ……、忘れて欲しい。
「でさ、話の続きなんだけど」
話を続けるモーン少佐を、うまく言いくるめられたイザベラが諦めの表情で見ている。少佐はどうあっても俺を巻き込みたいらしい。
「最初はギャング絡みの騒動だって報告があったんだよ。でもねえ、この辺りを仕切ってるファミリーのボス、トウガはなんというか……そういう奴じゃないんだよね」
ギャング……? もしかして、プリルマが聞いた話のやつらだろうか。もう少し情報が欲しいな。
「知り合いだったんですか?」
「いや、職務上知っているだけだよ。カタギに迷惑かけないし、調子に乗ってやりすぎちゃう連中を取り締まったりしてくれて助かるんだよ。ハハハ」
ハハハじゃないが。どうせ楽するための情報として持ってたんだろうな。
「……でもこのところ様子がおかしくてね。担当の軍警じゃ手に負えないってんで僕たちが出向いてきたわけだ」
「そのギャング、最近何か変わったものを手に入れたとかそういう話は聞きませんか?」
「お、気になる? そうだねえ、貧しい男が持ってきたガラクタを買ってやったとかそう言う話はあるけど、変わったものかどうかは知らないなあ」
「なんというか、情け深いですね」
「そうそう、だからこそ気になってるんだよね。てなわけで、気が向いたらちょっと見てきてよ」
見てきてよじゃないが。軍が出張って来るような案件を個人に頼むな。
しかし俺たちの目的もそのトウガという男で間違いなさそうだ。妙な事になってきたな。
「ちょっと考えさせてください」
「いいよ。こっちもゆっくりやるからさ」
そんなに急ぎの案件ではないのか?
とにかく今日はもう遅い、対策も考えないといけないし宿を取って休むとしよう。
そう思っているとイザベラが少し嫌味な笑顔を浮かべ話しかけてきた。
「言っておきますが、軍が借り上げているので宿はもうありませんよ」
「え、マジかよ」
「ですが、貴方がどうしてもと頼み込むのであれば条件次第では――」
ここでモーン少佐が思い出したように割り込んできた。
「ああ、ドルフ。宿はもうウチが借りてるから教会にでも厄介になりなよ。僕が話しておくからさ」
「助かります、少佐」
良かった、少佐の計らいで今日の宿は何とかなりそうだ。イザベラが何か言いたそうだったけど何だったんだろうな。顔を真っ赤にしてどこかへ行ってしまったぞ。
「イザベラのやつ、体調でも悪いのか?」
「少尉は君に憧れていたからね、いきなりいなくなったからちょっと怒っているのさ。それじゃ、また明日ね~」
それだけ言うと少佐も去っていった。
「そうなのか……、気難しいやつだな」
「……ドルフくんはいつか刺されちゃうかもしれないゾ?」
プリルマまでおかしな事を。物騒だな、そんな予定はねえよ。




