12 武器を求めて その4
「……とりあえず、どいてくれるって事でいいんだよな?」
ケーキ相手に確認するのもおかしな話だが、とりあえず聞いてみる。表情はわからないもののケーキマンは得心した様子で、すでに敵意は感じられない。
「ああ、持って行くがいい。だがひとつ頼みがある、私を外へ連れ出してくれ。ずっとこの中にいたものだから出る方法が分からないのだ」
「まあ、鉱石を運ぶついででいいなら」
そんなこんなでケーキマンが箱の前からどいてくれた。ふう、ようやく作業にかかれるな。
箱の中を確認すると鍛冶屋の爺さんが言っていたであろう鉱石が入っていた。こいつを運べばいいんだな。幸いにも近くにトロッコがあったのでこいつに積み込む事にする。
「良いものを見せていただいた礼です、小生が力をお貸ししましょう」
バングリエも協力的で助かった。彼の怪力で重たい箱が空き箱のように容易くトロッコに積まれていく様子は爽快だったぞ。
「さて、トロッコを連結いたしますのでもう片方にお乗りなさい」
親切な事に箱を積み終わってもまだ手を貸してくれるらしい。もうひとつトロッコを連結し、こっちには俺とサフィーア、そしてケーキマンに乗るように言ってきた。
「わあ、これも動くのですか? 楽しみです!」
サフィーアは楽しそうだが俺は甘ったるい香りが間近にあって気持ち悪い。俺も一緒にケーキとして箱詰めされているような気分だ。服にクリーム付けないでくれよ。
それで、乗り込んだはいいがどうする気なんだろう。
「あんたはどうするんだ?」
「小生は観察を続けながら独自に帰るので心配無用。それでは行きますよ」
「え、行きますって何を……」
その瞬間、俺の体に強烈な重圧が襲い掛かった。バングリエがトロッコの後方を掴み、その怪力で思いきり押し出したのだ。
想像以上の怪力だった。俺たちの乗ったトロッコは弾丸の如く押し出され、いや撃ち出されたと言った方が近いだろうか、とにかく猛スピードで鉱山内を突き進んでいった。
「うおおおお⁉」
「きゃああっ!」
うおおっ、頭を出すと風圧で身動きが取れない。
最初の加速もそうだが、途中の入り組んだ道で登ったり下ったりしたため更に勢いがついてシャレにならない速さになってきている。
これ止めないとヤバいぞ。乗っている俺たちもそうだが、この重さのものがこれだけ加速したまま外に飛び出せばどんな被害が出るかわかったもんじゃない。
そうだ、ブレーキ! ブレーキはどこだ?
「人間よ」
こんな時だというのにケーキマンが話しかけてきた。
「なんだよ、こんな時に」
「こんな時だからだ。心配するな若者よ、君たちは私が守ってみせる」
「だから俺は若者って年じゃないって」
「わたくしは1000年以上生きている事になるのでしょうか?」
だが、俺たちの言葉はケーキマンには届かなかった。
「とうっ!」
ケーキマンは俺たちを助けるため、トロッコのブレーキになるべくその身を乗り出し、たくましい両の足で線路へと降り立った。
「ぐああああ!」
「ケーキマーーーン!」
叫んでみたけど……まあ、結果は見えてたよな。しょせんケーキはケーキ、一瞬で車輪に巻き込まれグズグズに崩れてしまった。生っぽい手足の部分もケーキ製だったからグロいものを見ずには済んだけどな。
それだけじゃない。ケーキの油分で車輪が滑っていよいよ制御不能な状態に陥っている。なにやってくれてんだケーキマン!
こうなってはもはやブレーキも意味が無い。俺は進行方向を背にサフィーアの体をしっかりと抱き留めた。いざという時は魔法で何とかするしかないが、残り少ない金貨でどれだけの事ができるのだろうか。……いいさ、それまではあがいてみせる。
「呪いの鎖よ!」
腕から鎖をありったけ伸ばしてみる。この鎖の頑丈さは確認済みだ、どこかに引っ掛かってくれれば止められるかもしれない。
「神の鎖です!」
あとサフィーアに怒られるから次からは黙って出そう。
伸ばした鎖がガリガリと壁面を削る。くそっ、どこにも引っ掛からないか。
でもよく考えたら引っ掛かったら引っ掛かったで俺だけスポーンと振り落とされそうな気がする。この作戦、そもそも失敗か?
ヤバい、そろそろ外が近い。もう限界だ……!
「サフィーア! 魔法でお前だけでも――」
そこまで言って、異変に気付いた。
……あれ、速度が落ちてる。トロッコはその速度をゆるゆると落とし、出口近くで見計らったかのように止まった。
落ち着いて周囲を確認すると、トロッコが止まった要因がわかった。
まずは俺の鎖。必死で気付かなかったが、先端に大きな石とか箱とかがいくつもくっついている。これを引きずってたからブレーキ代わりになったのか。というかこんな事できたんだな。
それとケーキマンだ。降りて車輪を確認するとクリームまみれだったはずの車輪が、泥や砂のようなもので絡め取られている。これってケーキマンの残骸なんだろうか。
そう言えば途中のスイーツ類を見かけなかった。鉱石をスイーツに変えたのはケーキマンらしいから、あいつが死んで元に戻ったのか? だとすれば、あいつは俺たちを助けるという目的を果たせたわけだ。……変なやつだったけど、ありがとうケーキマン。
こうして、無事鉱山から脱出できた俺たちは爺さんの所へと戻った。もちろん言われていた鉱石の箱を持ってな。
「あ、それもういらん」
「オアーッ⁉」
しかし帰るなりこの仕打ち。
なんでも、街中のスイーツが鉱石へと戻ったので鉱石不足は解消されたとか。
あれだけ苦労したのにその一言で片付けるか? むしろ原因を取り除いたんだから感謝してほしいくらいなんだけど……証拠が無いから何も言えん。あんな突拍子もない話を信じてもらえるとも思えないし。
「元に戻ってしまったというのであれば、お菓子を食べている最中の人は大変だったでしょうね」
サフィーアは相変わらずマイペースだ。あ、でも俺もそれ気になる、どこまで食ってたらセーフなんだろうな?
考え始めたら本当に気になってきた、面倒な事にならないよう原因とかの事は黙っていよう。
……はあ、くたびれた。あれだけの事があったのに武器も秘宝も無しとは。
「もう日が傾いていますね。プリルマさんはどちらでしょうか」
「ん? ……あっ!」
思い出した……。やばい、プリルマと稼ぎ勝負してたの忘れてた。
途中から武器の調達の事ばかり考えていたから頭から抜け落ちていた。当然ながら稼ぎはゼロ、武器すら手に入らなかったんだから。
「ドルフく~ん」
うげ、来やがった。
プリルマのやつが自信満々に……。いや、様子がおかしいぞ。なんか顔色が悪いし、ちょっと震えているような気がする。それと後ろの人たちは誰?
「うへはひ……、ドルフくん……」
「なんだよその卑屈な笑いは、気持ち悪いな」
「うん、実はね。儲けたお金を倍にしようとしたら、ちょっと間違えて無くなっちゃったのね? このままだと強制労働だなんていうから……」
「いうから?」
「お金貸して?」
渾身のテヘペロを見た。
それなりにかわいいとは思うがね、中身を知らなければどんなに良かったか。
「時間だ、行くぞ」
「あっ、待って! ひゃあ~、お助けぇ~」
黙って見ていたらプリルマは屈強な男に両脇を抱えられ、どこかへと引きずられて行ってしまった。
残された俺とサフィーアはただそこに立ち尽くすのみだ。
「これ、勝負はどちらの勝ちになるのでしょうか?」
「……僅差で俺かな」
とりあえず、勝った。




