第7話 国家の消滅
「愚かな。本当に軍を率いて国境を越えてくるとは、あの国の王も完全に正気を失ったようだな」
ガルディア帝国の最前線ベースキャンプ。
黒い漆黒の軍装に身を包んだルシアス陛下が、戦術地図を見下ろしながら冷徹な声を響かせた。アリア様との初デートを邪魔された陛下の瞳には、かつてないほどの激しい怒りの炎が宿っている。
国境線の向こう側には、元の国の国王自らが率いる5万の軍勢が陣を敷いていた。結界を失って滅びゆく我が国を救うため、聖女アリア様を力ずくで強奪しようという国力すべてを賭けた暴挙である。
「ルシアス陛下、ご安心ください。あのような統率を欠いた烏合の衆、戦う価値すらございませんわ」
私は陛下の隣で、優雅に温かいコーヒーをすすりながら微笑んだ。
隣には、同じく軍装に身を包んだ特級密偵のセリア様(元シャーロット様)が、楽しそうに作戦書をめくっている。
「リリア補佐官の言う通りですわ。あの軍勢の兵站、つまり食料や武器の補給ルートの管理システムは、すべてリリア様が以前の国で作ったもののまま。当然、裏のバックドア(抜け道)はすべてこちらが握っています」
「ええ。彼らが国境を越えた瞬間、前国の軍用金口座はすべて凍結し、兵糧の供給ギルドには『取引停止』の魔導信号を送っておきました。今頃あちらの陣営は、食べるご飯もなければ、兵士に支払う給与もなくて大パニックのはずですわ」
そう、私の頭脳は戦場すらも完全に支配する。
戦わずして敵の息の根を止める。これぞブラック企業(前国)で鍛え上げられた、ワンオペ事務処理能力の応用技だ。
「よし、では仕上げといこう。アリアを傷つけようとした報いだ、徹底的に分からせてやる」
ルシアス陛下が不敵に笑い、魔剣を抜いて前線へと歩き出した。
国境の平原で対峙する両軍。
元の国の国王は、青ざめた顔で自軍の兵士たちが空腹と恐怖でガタガタと震えているのを見て、絶望に目を見開いていた。戦う前から勝負はついていたのだ。
そこへ、ルシアス陛下がただ一人で前へと進み出た。
「我が愛しの聖女アリアを冒涜し、我が帝国の領土を侵した愚者どもよ。――消え失せろ」
ルシアス陛下が魔剣を地面へと突き立てた瞬間、凄まじい純黒の魔力が平原全体を包み込んだ。
大陸最強と謳われる皇帝の、絶対的な「覇気」。
たった一振りで、前国の5万の軍勢は武器を取り落とし、その場にバタバタとひれ伏して失神していった。大地が裂け、前国の本陣だけがピンポイントで消し飛ばされる。
「ひっ、ひいいいいっ!? ば、化け物め……!」
ただ一人、腰を抜かして泥まみれになった国王の前に、私とルシアス陛下、そしてセリア様がゆっくりと歩み寄った。
「国王陛下、お久しぶりでございますわ」
「リ、リリア……!? 頼む、戻ってきてくれ! アリアを返してくれ! あの国はもうおしまいなんだ!」
涙と鼻水で顔を汚した国王が、私の靴に縋り付こうとする。私はそれを一歩下がって冷ややかに避けた。
「戻るわけがないでしょう。あなた方はアリア様の献身を当たり前だと思い、私の労働を搾取し続けた。その結果が、この無様な自滅です。本日をもちまして、あなた方の王国はガルディア帝国の保護領――事実上の【国家解体】となりますわ」
セリア様が差し出した「無条件降伏の調印書」を前に、国王は絶望の叫びを上げてその場に崩れ落ちた。こうして、私たちを苦しめていたブラック国家は、文字通り地図上から消滅したのだった。
* * *
数日後、帝国の美しい首都へと凱旋した私たちは、全大国へ向けてある「重大な発表」を行うことになった。
王宮の大バルコニーの前には、数万人の帝国市民が集まり、割れんばかりの歓声を上げている。
その中心に立つのは、純白の美しいドレスに身を包んだアリア様。以前の暗い表情はどこへやら、今の彼女は世界で一番幸せそうな輝きを放っている。
リリアの完璧なプロデュースにより、世界中の王族や貴族、そして市民が見守る「公開の場」が整えられた。
ルシアス陛下が、大衆の前でアリア様の前に静かに跪く。
「アリア。お前を苦しめる泥舟はすべて私が叩き潰した。これからは、私の隣で、この世界で最も幸せな妃になってほしい。……私と結婚してくれないか?」
極上のイケメン皇帝による、全世界へ向けた究極のプロポーズ。
アリア様は嬉しさに胸を押さえ、最高の笑顔で「はい……っ!」と答えた。市民からの地鳴りのような祝福の嵐が響き渡る。
(ああ、尊い……! 私のプロデュースした最高の両片想いが、ついに結ばれましたわ!)
私はバルコニーの影で、セリア様とハイタッチを交わしながら、感動の涙を流していた。
これで推しの幸せは確定。私のホワイトな新生活も一生安泰だ。
――しかし、大歓声に包まれる王宮の裏手。
役目を終えて地下牢へ連行されていく元国王と、すでに鉱山送りが決まっているシリウス前王太子の元へ、私は最後のご挨拶に向かうことにした。そこには、彼らを完全に絶望させる『最後の現実』が待っていて――。
読んでいただき、ありがとうございます!
評価とブックマークおねがいします!
次回もお楽しみに!




