第20話 最高の職場
「……ルシアス陛下、アリア様。これは一体、何の冗談ですの?」
披露宴の喧騒が一段落した夜、お二人から手渡された『純金の特製魔導書状』を開いた瞬間、私の優秀な頭脳が本日何度目か分からない驚愕でフリーズしていた。
そこには、ガルディア帝国の最高財務印と共に、信じられないような文言が並んでいたのだ。
『特級功労者リリア・エインズワースへ。旧王国の戦後処理における圧倒的功績、および聖女アリア救出の全権プロデュースを讃え、以下の待遇を永久に保証する。
一、生涯国家特別ボーナスの支給(一生遊んで暮らせる額)。
二、完全週休3日制の導入。三、毎日17時直帰の完全定時退社確約』
「冗談なものか、リリア。お前が前の国でどれだけ搾取され、徹夜をさせられていたか、私はすべて知っている。我が帝国は有能な者を絶対に裏切らない。お前は我が国を救い、私とアリアを結びつけてくれた大恩人だ。これくらい当然の先行投資だよ」
ルシアス陛下が、皇帝としての気高き微笑みを浮かべて深く頷いた。
「そうです、リリア様! これからは私の隣で、誰にも気兼ねすることなく、世界一ホワイトで幸せな生活を送ってください!」
アリア様が私の両手を握りしめ、ひまわりのような満面の笑顔を咲かせる。
前のブラック泥舟国家では、どれだけ頑張っても「無能」「クビだ」と罵られていた私が、今や世界最大の帝国の皇帝夫婦から、一生分の富と「完全週休3日・定時退社」という最高峰のホワイト待遇をプレゼントされている。
有能さを正しく評価され、大好きな「推し」が目の前で幸せそうに笑っている。
私のプロデュース魂と、これまでのすべての残業の苦労が、今度こそ完全に報われた瞬間だった。
「……ありがとうございます、陛下、アリア様。それではお言葉に甘えて、明日からの週休3日は全力でダラダラさせていただき、定時になったら一秒で職場から消滅いたしますわね」
私が最高の営業スマイル(本音100%)で一礼すると、会場からは再び温かい拍手が巻き起こった。
* * *
それから、数か月後。
ガルディア帝国の王宮執務室には、以前とは比べ物にならないほど穏やかで、そして相変わらず賑やかな日常が流れていた。
「リリア補佐官、今日の分の旧王国跡地の開拓予算書類、すべてチェックが終わったわよ」
私のデスクの横で、すっかり有能な部下として馴染んだセリア様(元シャーロット様)が、綺麗に整理された書類の束を置いてくれた。
「素晴らしい手際ですわ、セリア様。さすがは私の育てたエリートです。これなら今日も余裕で定時退社ができますわね」
私が特製の高級マカロンを食べながら手帳を開いていると、廊下の向こうから「大変だリリアー!」と、ドタバタと情けない足音が近づいてきた。
扉を勢いよく開けて入ってきたのは、シックな普段着に身を包んだルシアス陛下だった。手には、何やら高級そうなピクニックバスケットを抱えている。
「リリア! 大変だ! アリアがさっき、庭園で私に向かって『ルシアス陛下、あーんしてください』と言ってきたんだ! あまりの可愛さに私の心臓が停止しかけて、手が震えてフォークを落としてしまった! これは国家レベルの緊急事態だ、どうすればいい!?」
……はぁ。
大陸最強の冷徹皇帝は、アリア様と正式に結婚して以降、ただの「重度の限界バカ旦那」へと完全進化を遂げていた。毎日毎日、アリア様が可愛すぎるという理由だけで執務室に転がり込んでくる。本当に忙しい人だ。
「陛下、落ち着きなさいな。フォークを落としたなら予備のフォークを使えばよろしいでしょう。ほら、アリア様が庭園でお待ちですわよ。早く行って全力で甘やかして差し上げなさい」
「そ、そうだな! すぐに行ってくる!」
陛下は私の指示を受けると、嬉しそうに顔を輝かせて再び庭園へと猛ダッシュで戻っていった。その様子をテラスから覗いていたアリア様が、恥ずかしそうに頬を染めながら私に向かって小さく手を振ってくれる。
ちなみに、私たちをブラックに搾取していた前国の元王太子シリウスと元国王は、今頃薄暗い鉱山の奥深くで、毎日山のような土砂をワンオペで掘り進める過酷な強制労働(ブラック残業)に涙を流していることだろう。自業自得、完全なざまぁみろである。
チラリと壁の魔導時計を見ると、時刻はちょうど「16時59分55秒」を指していた。
「さて、セリア様。ギルバート様。お先に失礼いたしますわね」
私は手帳を鞄に仕舞い、椅子からすっと立ち上がった。
時計の針が「17時00分00秒」を告げた瞬間、私の身体はガルディア帝国の最高補佐官から、ただの『定時退社を全力で愛する一人の令嬢』へと切り替わる。
おバカな泥舟国家を沈め、有能な頭脳で掴み取った最高のホワイトライフ。
大好きな推し(アリア様)の甘々新婚生活を特等席で応援しつつ、私の、最高に爽快でハッピーな毎日は、これからもずうっと続いていくのだった。
「皆様、お疲れ様でした。これにて、本日の業務は終了いたします!」
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