第18話 聖なる挙式
ステンドグラスから差し込む七色の光が、バージンロードを歩むアリア様を聖なる美しさで包み込んでいた。
世界中から集まった目の肥えた王族や貴族たちが、一斉に息を呑んで静まり返る。それもそのはず、私のプロデュースしたドレスを纏ったアリア様は、失われた古代太陽神の直系としての神聖なオーラを無自覚に放っており、本物の女神そのものの輝きを放っていたからだ。
一歩、また一歩と、新郎ルシアス陛下の元へと歩みを進めるアリア様。
だが、その様子を見つめる新郎ルシアス陛下の様子が、明らかにおかしかった。
彼の鋭い氷の双眸がじわじわと潤み始め、呼吸が荒くなっている。握りしめられた拳は、感動と尊さのあまり激しくプルプルと震えていた。
(……ちょっと、陛下。今ここで気絶したら、帝国始まって以来の国家の恥ですわよ。ちゃんと耐えなさいな)
私はコントロールルームの魔導モニター越しに陛下の変貌を察知し、即座に手元の遠隔通信魔導具のスイッチを入れた。
「セリア様、陛下が『尊死バグ』を起こしかけていますわ。即座に精神防衛の魔導信号を送るか、裏から冷気魔法をピンポイントで首筋に叩き込みなさい」
『了解よ、リリア補佐官。ちょっと冷やしてあげるわね』
祭壇の影に潜んでいたセリア様(元シャーロット様)が、指先から極小の氷弾を放ち、ルシアス陛下の首筋にペチッと命中させた。
「……ハッ!?」
一瞬で正気に戻り、背筋をシャキッと伸ばすルシアス陛下。よし、ナイスコントロールだ。
ついにアリア様が祭壇の前に到着し、ルシアス陛下と向かい合う。
神官が厳かに、世界の理を紡ぐ誓いの言葉を読み上げ始めた。
「新郎ルシアス・ガルディア。汝はアリア・ローゼンバーグを妻とし、健やかなるときも、病めるときも、生涯をかけて愛し、守ることを誓いますか?」
「――誓う。私の命、魂、そしてこの帝国のすべてを賭けて、アリアを世界一幸せにすると誓おう」
ルシアス陛下は、今度は一切のバグを起こさず、大陸最強の皇帝としての気高き声で、真っ直ぐにアリア様を見つめて言い切った。その瞳に宿る一途な愛の深さに、会場の女性貴族たちが思わず胸を押さえてため息を漏らす。
「新婦アリア・ローゼンバーグ。汝はルシアス・ガルディアを夫とし……」
「はい……っ! 誓います! 私を泥舟から救い出し、一人の女性として愛してくださったルシアス陛下を、生涯お支えし、共に歩むことを誓います!」
アリア様が涙を浮かべながらも、最高の笑顔で答えた。
その瞬間、大聖堂のパイプオルガンが鳴り響き、二人の婚約を、そして結婚を祝福する光の粒子が天井から美しく降り注いだ。
「それでは、誓いの接吻を」
神官の言葉に促され、ルシアス陛下がアリア様のウェディングベールを優しく押し上げる。
顔を真っ赤に染めてはにかむアリア様の顎を、陛下の手が優しく包み込み――二人の唇が、静かに重なり合った。
ウオォォォォォッ!!と、大聖堂を震わせるほどの地鳴りのような大歓声と拍手が巻き起こる。
客席では、魔法大国の第一魔法帥ギルバート様が「いやあ、素晴らしいプロデュースだね。僕も感動しちゃったよ」と、本気で拍手を送ってくれていた。
(ああ、尊い……! 私のプロデュースした最高の『聖女×皇帝』の両片想いが、ついに完全なハッピーエンドを迎えましたわ!)
私はコントロールルームで、感動のあまり手カチで涙を拭いながら、手帳に「ミッションコンプリート。これにて二人は名実ともに大陸一のバカ夫婦へ」と、満面の笑みで最後のハンコを捺したのだった。
* * *
感動の挙式が終わり、これから華やかな「披露宴パーティ」が始まろうとする、わずかな幕間の時間。
私は自分のオフィスデスクに戻り、定時退社に向けて最後の書類整理をしていた。今日ばかりは、私も美味しいお酒とご馳走をたらふく食べるつもりだ。
――しかし、私が手帳を鞄に仕舞おうとした、その時。
デスクの上に置いてあった「旧王国解体資産管理ボックス」が、不気味に赤黒くピカピカと点滅を始めた。
「あら、また何の不具合かしら?」
首を傾げながらボックスを開くと、そこには一通の、泥に汚れた不快な手紙が入っていた。それは、鉱山監獄の奥でまだ往生際悪く生き残っていた、旧王国の「元国王(シリウスのバカ親)」からの、最後の最後の手紙(嫌がらせ)だった。
『リリア、そしてアリアめ……! 結婚式が成功したと思うなよ……。我が王室が解体される直前、他国の【闇の商人ギルド】に、我が国が所有していた「太陽神の裏の呪具」を極秘裏に売却しておいた……。披露宴の席で、その呪いが帝都全体を襲うだろう……! あはははは!』
文字通り、泥舟の底から這い出てきた執念深い最後のゴミ屑。
どうやら、披露宴で美味しい高級肉を食べようとしていた私のプライベートを、彼らはどこまでも邪魔したいらしい。
「はぁ……。本当に、最後の最後まで手続きの面倒な国ですわね」
私は冷徹な笑みを浮かべ、手帳を再び取り出した。
読んでいただきありがとうございます!
次回もお楽しみに!




