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第17話 愛の強い結婚式

「お前が望むなら、今すぐこのガルディア帝国を『アリア帝国』に改名し、国家予算の全額をアリアの顔が刻まれた記念硬貨の発行に充てる法律を作る!!」


「ひゃあぁぁぁぁっ!? る、ルシアス陛下、落ち着いてください! 法律はダメです! 恥ずかしすぎて私が死んでしまいますぅぅぅ!」


 大広場の中心で、桃色のハート目を輝かせながらアリア様の腰にしがみつき、国家規模の暴挙を口走るルシアス陛下。アリア様は顔から本物の火が出そうなほど真っ赤になり、涙目で陛下を引き剥がそうとしている。


 大陸最強の皇帝が、前国のバカな爆弾のせいで、ただの「国家を揺るがすレベルの迷惑オタク」と化していた。


「――はい、そこまでにしなさい、このバカ旦那(皇帝陛下)」


 私はすっと前へ出ると、持っていた手帳の角で、ルシアス陛下の額をパコォン!!といい音を立てて叩いた。


「ガハッ!? な、何をするリリア! 私は今、アリアへの愛を証明するために忙しいのだ!」


「忙しいのは私の残業時間ですわ。陛下、財務補佐官の立場から言わせていただきますが、国家予算の全額を記念硬貨に充てた瞬間、我が国の経済は初日でハイパーインフレを起こして滅びます。あと、帝国の名前を勝手に変えるには、元老院の全会一致と1万枚の書類手続きが必要ですので、私の労働基準法が許しません。却下(ストップ)です」


 私が冷徹な営業スマイルで言い放つと、セリア様(元シャーロット様)が横からすかさず、冷たい氷水をバケツごとルシアス陛下の頭からブチまけた。


 ザバァァァン!!


「うおっ!? つ、冷たっ……!?」


 激しい水しぶきと共に、ルシアス陛下の瞳から桃色のハートマークが消え去り、元の鋭い氷の双眸へと戻っていく。ガスによる一時的な脳のバグが、私の論理的ツッコミと冷水によって、完璧にシャットダウンされたのだ。


「……はっ。私は一体、何を……」

 正気に戻ったルシアス陛下は、自分がアリア様の足元に縋り付いていた体勢に気づき、一瞬で顔を耳まで真っ赤に染めた。


「る、ルシアス陛下……正気に、戻られましたか……?」

 アリア様が恐る恐る覗き込む。


「ア、アリア……すまない! 私は、お前にとんでもない恥を……! 帝国を改名するなどと、一体私は何を血迷って……!」


 頭を抱えてその場に崩れ落ちる陛下。最強の皇帝の威厳はどこへやら、今はただの「やらかした思春期の少年」のようである。


「いいえ、ルシアス陛下。暴走した行動はアレでしたが……私を世界一幸せにしたい、と言ってくださったお気持ちは、その、とっても嬉しかったです……」


 アリア様がモジモジしながら、陛下の濡れた髪をハンカチで優しく拭き始める。それを見た陛下は、嬉しさのあまり再び尊死(気絶)しかけていた。本当に忙しい人たちである。


「やれやれ、これにて惚れ薬騒動は完全決着、ですわね」

 私が手帳を閉じると、隣で一部始終を見ていたギルバート様が、本気で引きつった笑いを浮かべていた。


「いやあ、恐ろしいね、リリア。最強の皇帝の暴走を、手帳の角と事務処理の論理だけで完璧にコントロールしてみせるなんて。君を敵に回した前王国が滅びたのも、当然の帰結というわけだ」


「褒め言葉として受け取っておきますわ。さあ、バカなトラブルは処理しました。いよいよ、本番へと参りましょう」


     * * *


 そして、数日後。

 青く澄み渡った秋晴れの空の下、ガルディア帝国の歴史上、最も盛大で、最も美しい『皇帝ルシアスと聖女アリアの結婚式』の当日がやってきた。


 帝都の大聖堂には、世界中の王族や貴族、そして他国の大物たちが賓客としてズラリと席を埋めている。

 もちろん、特使として滞在中のギルバート様も最高級の席に座り、セリア様は臨時の警備統括として裏で目を光らせていた。


 私はといえば、この世紀のウエディングを完璧に成功させるための総指揮官(プロデューサー)として、大聖堂のコントロールルームで全方位に指示を出していた。


「第一奏者、オルガンの準備はよろしくて? 聖歌隊は音程がズレたら減給ですわよ。さあ、新郎の入場です!」


 重厚な扉が開き、純黒の儀礼用軍装に身を包んだルシアス陛下が入場する。その圧倒的な覇気と美貌に、会場からはため息が漏れる。今日は鼻血を出さずに、しっかりと皇帝としての威厳を保っているようだ。よしよし。


 そして、いよいよ。

 大聖堂のステンドグラスから差し込む光が、バージンロードの入り口を照らし出した。


 ゆっくりと開かれる大扉。

 そこに現れたのは、私がプロデュースした最高の一着を纏い、世界を救う女神そのものの輝きを放つ、花嫁アリア様の姿だった。


 あまりの美しさに、世界中から集まった目の肥えた貴族たちが、一斉に息を呑んで静まり返る。

 

 一歩、また一歩と、陛下の元へと歩みを進めるアリア様。

 だが、その様子を見つめる新郎ルシアス陛下の瞳が、再び怪しく潤み始め、限界オタクの表情へと変貌しかけているのを、私はコントロールルームの魔導モニター越しに見逃さなかった。


(陛下、今ここで気絶したら国家の恥ですわよ。ちゃんと耐えなさいな)


 


読んでいただきありがとうございます!

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