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第15話 ブラック労働新たな予兆

「……皆様、おはようございます。これより、旧王国の戦後処理に関する『地獄の強制残業(デス・マーチ)説明会』を始めますわ。定時退社を愛する私のプライベートを脅かした罪、その身に刻んで処理しなさい」


 ガルディア帝国の巨大な会議室。

 私の前に並べられたのは、3メートルを超える旧王国の残務書類の山だ。そして、青ざめた顔でガタガタと震えている、帝国中から集められたエリート文官たち。


「リ、リリア補佐官……あの、この書類の暗号化された税制データを読み解くには、最低でも3か月はかかると……」

「3分でやりなさい。できないなら、そこに並んでいる激辛栄養ドリンクを飲んで徹夜ですわ」


 私が笑顔で指先をパチンと鳴らすと、セリア様(元シャーロット様)が、怪しく紫色の煙を上げる特製ドリンクを文官たちの前にドン、ドンと配っていく。


「さあ、みんな頑張って。リリア補佐官の定時退社を邪魔する者は、私が闇に葬るからね」


 セリア様の暗殺者スマイルに、文官たちは「ひいいいっ!」と悲鳴を上げて、凄まじいスピードでペンを走らせ始めた。

 

 もちろん、私はただ座って見ているだけではない。右手にペン、左手にスコーンを持ち、脳内を超高速駆動させて文官たちの書類を片っ端からチェックしていく。


「あ、そこの3番目の書類、計算が1コピペ(約10枚分)ズレていますわ。やり直し」

「ギギャアァァァッ!?」


「こっちの領地報告書、前領主の隠し資産の数字が不自然です。没収手続きの書類を作って、国庫にぶち込んでおきなさい」

「は、はいぃぃっ!」


 これぞ、元ブラック泥舟国家で培われた、私のワンオペ事務処理能力の応用技――『集団強制ホワイト化(※ただし部下はブラック)』である。

 私の圧倒的な指揮のもと、普通なら半年はかかる国家統合の戦後処理は、なんと驚異の【3時間】で全て片付いてしまった。会議室には、完全に干からびて白目を剥いた文官たちの死屍累々が広がっていた。


「ふぅ。素晴らしい生産性ですわね。定時まであと5時間もありますわ。……さて、ゴミ掃除(仕事)は終わりましたし、本番・・にいきましょうか」


 私は手帳を閉じ、エステ帰りでツヤツヤになったアリア様が待つ、王宮の最高級サロンへと優雅に移動した。


     * * *


「リ、リリア様……! あの、その……本当にこれで大丈夫でしょうか……?」


 サロンの厚いカーテンの向こうから、アリア様の緊張した声が聞こえてくる。

 今日は、いよいよルシアス陛下との結婚式に向けた『ウエディングドレスの試着会』なのだ。私のプロデュース魂が今、最高潮に燃え上がっている。


「アリア様、自信を持ってください。私が世界中の最高級シルクを集め、帝国のトップデザイナーを脅迫(※丁重にお願い)して作らせた、究極の一着ですわ。さあ、オープンです!」


 カーテンが左右にサッと開かれた。


 そこに立っていたのは、純白のシルクに美しい純金の刺繍が施されたドレスを纏った、アリア様だった。

 胸元にはルシアス陛下から贈られた大粒の魔導ダイヤモンドが輝き、彼女の透き通るような肌と、恥ずかしそうに潤んだ瞳をこれ以上ないほど引き立てている。まさに、世界を救う本物の女神がそこに降臨したかのようだった。


「ふはっ……!?!?!?」


 ソファで待機していたルシアス陛下が、アリア様を見た瞬間、奇妙な悲鳴を上げてその場に凝固した。

 あまりの尊さに頭の処理が追いつかなかったらしく、大陸最強の皇帝は、目を見開いたまま鼻からツゥ……と一筋の血(鼻血)を流して、ゆっくりと後ろへ倒れていった。


「る、ルシアス陛下ァァァ!? しっかりしてください!」

「陛下が尊死(たっとし)しかけているわ! 医療魔導士を呼びなさい!」


 アリア様が慌てて駆け寄り、セリア様がパニックになる中、ルシアス陛下は這いつくばるようにしてアリア様の前に跪き、そのドレスの裾にそっとおでこを擦り付けた。


「アリア……お前は、本当に私の妻になってくれるのか……? これは幻覚か? もし幻覚なら、私はこのままこのドレスの繊維になってお前と一生を共にしたい……」


「ル、ルシアス陛下、何を仰っているのですか!? 変態さんみたいになってますわ!」


 顔を真っ赤にしてポカポカと陛下の肩を叩くアリア様。

 冷徹皇帝の威厳が、アリア様のウエディングドレス姿によって完全に崩壊し、ただの「重度の限界オタク」と化していた。


(最高ですわ、陛下。国家元首のバグっぷり、実に見応えがあります)


 私はその様子を特等席で優雅に眺めながら、手帳に「陛下、ドレス姿の尊さに耐えきれず、IQが幼児レベルに低下」と素早くメモを取った。


 これで衣装選びは完璧。あとは結婚式当日を迎えるだけ――そう思っていた。


 しかし、床で行き倒れているルシアス陛下のポケットから、ピピピ……と緊急の国家魔導通信が鳴り響いた。

 私が代わりにそれを受け取ると、通信の向こう側から、滞在中の魔法大国の第一魔法帥ギルバート様が、何やら酷く面白そうな、そして少し困ったような声を上げてきた。


『やあ、リリア補佐官。皇帝陛下がアリア様のドレス姿で気絶しているところを邪魔して悪いんだけどね……。実は、さっきの戦後処理で没収した旧王国の隠し資産の中に、ただの金銀財宝じゃない、世界の理(ことわり)をひっくり返すような【とんでもないお宝(おまけ)】が混ざっていたんだ。これ、君のプロデュース次第では、結婚式が歴史上最もハチャメチャな祭りになるよ?』


 バカ王子を倒し、ホワイトな式準備が進む中、また新たなトラブルが這い出てこようとしていた。


読んでいただきありがとうございます!

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