第11話 アリアの秘密
「アリア様の、出生の秘密……? ギルバート様、それはどういうことですの?」
私がデスクの上のクリスタルケースを見つめながら問い詰めると、ギルバート様は白銀の髪を優雅にかき上げ、不敵な笑みを深めた。
「前の王国が完全に解体される直前、我が国の諜報員が王城の地下深くにある秘密書庫に潜入してね。そこで見つけたのがこの魔導記録さ。聖女アリア――彼女はただの地方貴族の娘として神殿に引き取られたことになっているけれど、本当は失われた【古代太陽神の直系】の生き残りだという記述があったんだ」
「古代太陽神の、直系……?」
アリア様が驚きに目を見開く。
ルシアス陛下も表情を険しくし、私の隣へと一歩踏み出した。
「太陽神の直系といえば、大陸の全天候を支配し、いかなる結界をも無効化するほどの神聖力を持つとされる伝説の血筋だ。前の泥舟国家は、アリアのその本当の価値を知りながら、あえて隠していたというのか?」
「その可能性が高いね。だからこそ、僕はリリアだけでなく、アリア様にも興味があってねぇ」
ギルバート様がアリア様に向かって甘い笑みを向け、その手を取ろうと一歩近づいた――その瞬間。
「我が婚約者に気安く近づくなと言ったはずだ、ギルバート」
ルシアス陛下が凄まじいスピードでアリア様の前に割り込み、彼女の腰をぐっと引き寄せて自分の胸の中に抱き込んだ。完全なる独占欲の塊である。陛下はギルバート様を親の仇のように睨みつけながら、アリア様の頭を優しく撫でた。
「ア、ルシアス陛下……っ。みなさんの前で、その、恥ずかしいです……」
「恥ずかしがることはない。お前は私の婚約者だ。誰にも指一本触れさせない」
陛下のあまりに直球で過保護な発言に、アリア様は顔から火が出そうなほど真っ赤になって陛下の胸に顔を埋めてしまった。
(はい、陛下ナイス嫉妬です! ギルバート様を当て馬にしたプロデュース計画、早くも効果覿面ですわね!)
私は壁際でセリア様と小さくハイタッチを交わし、手帳に「陛下、独占欲により糖度3割増し」と素早くメモを取った。
「おやおや、手厳しいね。まあいいさ、リリア補佐官。この情報の真偽を確かめるためにも、前の王国の国境付近にある『ルナリア古代神殿』の隠された最深部を調査する必要がある。僕の空間転移魔法があれば、一瞬で現地まで案内できるよ。もちろん、君のその優秀な頭脳での謎解きが必要だけどね」
「分かりましたわ。アリア様の過去に関わることなら、このリリア、全力を尽くして調査いたします。陛下、セリア様、すぐに出発の準備を」
私の指示により、ガルディア帝国の精鋭部隊を裏で動かしつつ、私たちはギルバート様の空間魔法によって、かつて私たちが捨て去った泥舟国家の国境付近へと一瞬で転移した。
目の前に現れたのは、深い霧に包まれた、苔むした巨大な石造りの古代神殿。
すでに元の国は解体され、帝国の管理下に置かれているため、周囲に人影はない。だが、神殿の入り口には、前の王国の魔導士たちが無理やりこじ開けようとして失敗した、禍々しい爆破の跡が残っていた。
「ここから先は僕の魔法でも転移できない。何重もの古代の暗号結界が張られているからね」
「ふん、私に任せろ。力ずくでお前のために道を切り開いてやる、アリア」
ルシアス陛下が魔剣を引き抜き、アリア様の手をしっかりと握りしめる。
「いいえ、陛下。ここは武力ではなく、事務処理の出番ですわ」
私はすっと前へ出ると、神殿の扉に刻まれた複雑な魔導幾何学の模様――暗号結界を一瞥した。
前の国で毎日数千枚の複雑な魔導帳簿の暗号を解読し続けていた私にとって、この程度の古代暗号、ただの『決算書の不備』を見つけるよりも簡単だ。
「ここをこうして、魔力をここへ流して、はい、解除完了ですわ」
私が指先でパチンと音を鳴らすと、ゴゴゴ……と地響きを立てて、数百年もの間閉ざされていた神殿の巨大な石扉が、あっさりと左右に開いていった。
「嘘だろ……。我が国の最高魔導士たちが3ヶ月かけても解けなかった結界を、数秒で……?」
ギルバート様が初めて余裕の笑みを崩し、本気で戦慄した目で私を見つめている。
「言ったでしょう、私は超有能ですの。さあ、アリア様、中へ入りましょう」
私たちは薄暗い神殿の内部へと足を踏み入れた。最深部の祭壇に鎮座していたのは、まばゆい光を放つ一本の古代の杖と、そこに残された一通の古い羊皮紙だった。
私はその羊皮紙を手に取り、そこに書かれた文字を素早く読み解いていった。しかし、読み進めるうちに、私の優秀な頭脳が、ある『恐ろしい真実』を導き出してしまった。
「リリア様……? そこに、何が書かれているのですか……?」
不安そうに尋ねるアリア様に、私は冷や汗が流れるのを止められなかった。そこには、アリア様が前の国でなぜあれほど理不尽に冷遇され、いじめられていたのか――その、あまりにも身勝手で残虐な『前王室の陰謀のすべて』が記されていたのだ。
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