プライトたちの決定
「魔法使いの都?」
思わぬ発言に、素っ頓狂な声が二人から出る。
「なぜ、どうして。娘は、レインは……」
魔力があることは、赤子の段階で判明した。反対にチェールとの間に出来た娘、リコラには、魔力がなかった。魔法使いとして成功してもらうのなら、愛する女性との間に産まれた、可愛い娘の方が良い。だからチェールの言う通り、魔石を利用することに決め、長女は魔力なし、次女は魔力ありと申請した。
レインには勉強だけではなく、魔法も教えていない。教えなくても魔法が使えるのか、魔力のないイロープには分からない。
「魔力があるのは、次女のリコラだけだと……」
イロープが言えるのは、それくらいしかない。知識として、後天的に魔法使いとして目覚めることがあることは、知っている。レインは最近、魔法に目覚めたので知らなかったと装うことにする。
「そうです! 魔法使いの都が保護するなら、レインは、優れた魔法使いということですか?」
チェールが大声を出す。レインの魔力は、常にほとんど奪っているので、魔力は少ないと判断されるはず。そのため彼女の中では、都が関与することは、あり得ないのだ。
「魔法使いの都は、優秀でない者は迎えないと聞いています。最近魔法使いとして目覚めたにしても、優秀か分からないのに、おかしいではありませんか。それなら私の産んだ娘の方が、よほど魔法使いの都にふさわしいです!」
こんな場でも娘を売りこもうとするチェールの様子にげんなりしつつ、プライトがやっと口を開く。
「レイン……。いや、レイン様は、始まりの魔法使いの一人だ」
「始まりの魔法使い? 伝説の?」
その昔、異界から異形の動物が突如として現れ、地球を襲った。当時の兵器はほとんど通用せず、日々、人口は減少した。人間だけではなく、動物も食われ、植物は燃やされ。全てが消えていく。地球は焦土と化し、破壊されると誰もが思い絶望し、この世に神も仏もいないのかと嘆いた。
そんな中、異形の動物、後に魔物と呼ばれる生物に対抗できる魔法使いが誕生した。その同時期に誕生した魔法使いたちを、始まりの魔法使いと呼ぶ。
第一世代の彼らは生まれ変わりを繰り返すと言われ、さらに、生きてきた幾つもの人生の過去の記憶を保持しているという、噂がある。
(どういうことだ? だったらなぜ、大人しく使用人のように働いていた? なにかの拍子に生まれ変わったことを思い出し、逃げたのか? それとも記憶の保持は嘘なのか? 魔法使いがレインを見つけ出し、連れ去ったのか?)
夫婦は混乱する。
レインの魔力を魔石へ溜めているが、その魔力量は膨大だった。魔石が幾つあっても足りなかったのは、桁外れの魔力を持つ、化け物と呼ばれる始まりの魔法使いなら、説明がつく。だが、簡単には認められない。
「すでに手続きは終え、レイン様は伯爵の座を降り、国籍も抜けられた。戻ることはないそうだ」
「だ、だったら! 私の娘も魔法使いの都へ迎えられるべきです! あの子だって……!」
レインの魔力を使い、大きな魔法を使える。魔石はまだまだ蓄えがあり、解呪された報告もない。それに、昨晩も魔石は魔力を補充するため、光っていた。
(始まりの魔法使いは偉大であり、化け物と言うけれど、呪いに気がつかない間抜けじゃない。それならリコラの方が、よほど魔法使いの都にふさわしいわ)
「なにしろリコラは、天才と言われていますから」
そもそもレインの件で呼び出されているのに、この女はなにを言い出すのかと、ジェダイたちは呆れる。
「お前の娘を魔法使いの都へ迎える予定は、ないそうだ。詳細は教えてもらえなかったが、理由は本人たちが知っていると話されていたぞ」
冷たいジェダイの言葉に、チェールは黙る。
気がつかれている。なぜ呪いを放置しているのか分からないが、娘がどうして天才と呼ばれているのか、魔法使いの都の者は気がついているのだ。そして不正を犯しているから、受け入れないと言っている。拒否をされてしまった。それはチェールにとって、絶望にも近い感情をもたらした。
これまでなんのために、娘を売りこんできたのか。全て無意味になってしまう。そんなのは嫌だ。優秀な娘を産んだ母として褒められ、特別だとちやほやされる機会が奪われた。だが、そんなチェールの気持ちを無視して、プライトは告げる。
「さて、レイン様が証言された。そなたたちは、レイン様を使用人のように扱っていたそうだな。例えレイン様が始まりの魔法使いではなくても、当主に対する誤った環境を与えていた罪は重い。イロープ一家三名を、貴族界から除名、追放とする。伯爵当主及び、伯爵家の館といった伯爵家に関するモノは全て、ネッシュが継ぐ。イロープ一家三名は、一週間以内に館から去れ」
「なお、私物の持ち出しは許可する。だが、伯爵家所有物に関しては、許可を出さない。荷物は検められると知っておけ」
プライトに続き、ジェダイに告げられる。夫婦は本気でネッシュが誰なのか分からなかった。特にイロープは忘れていた。
「お待ちください。レインには妹がいます。腹違いとはいえ、レインの妹を差し置いて、どこの誰か分からない者に伯爵家を継がせることは、法に違反するのではありませんか?」
イロープの言い分に、王妃は目を丸くするが、発言した本人は正気である。
この短時間で、何度驚いたことだろう。しかもこの男は、なにを言っているのだ。亡き妻の妹を忘れているとは、どこまで愚かなのだろう。一体誰がレインの母が亡くなって以来、伯爵領を管理していたのか、考えたことがなかったのだろうか。王妃の思いを代弁するように、プライトが言う。
「なにを言っている。直系のネッシュが継ぐことに、なんの不思議がある。これまでレイン様に代わり、領も管理していたのだぞ。なんの問題があると言うのだ。なぜ腹違いとはいえ、伯爵家の血を引いていない娘が、後継者に選ばれると思う。そんなことをしてみろ。親類縁者、黙っておらぬぞ。それとも、まさかイロープよ。貴様、伯爵家の乗っ取りを企てていたのか?」
刺すようなプライトの視線を受け、イロープは慌てて否定する。
「い、いえっ。そのような……っ。ただ私は、リコラという、レインの妹がいるという事実を述べただけでして……。ネッシュという者より、魔法に秀でた娘なので、ふさわしいと思っただけでして」
誰かが領を管理しているとは、イロープも分かっていたが、誰なのか知ろうとしなかった。どういう訳だか、領の経営により得られた利益は、自動的に送金されてきていた。だから生活に困ったことがなく、なんの問題も起きていないので、気にしていなかった。
「イロープ、貴方、正気なのかしら。ネッシュは貴方の前妻の妹でしょう? つまり彼女は、先々代伯爵の娘。レイン様の腹違いの妹より、よほど優先される血筋でしょうに。陛下の説明だけで、理解できなかったの?」
王妃の言葉に、やっと思い出す。
亡き妻の親戚とは付き合いがなく、最後に会ったのはいつだろうか。妻の葬儀以来だろうか。向こうから連絡もないので、すっかり忘れていた。そうだ、ネッシュは義妹の名前だ。
チェールはレインの叔母の存在を知っており、覚えてもいたが、名前は忘れていた。叔母がいる以上、夫と娘が伯爵家を継ぐことはできないと考え、対策を行った当時は名前を記憶していたが、すっかり抜け落ちていた。操られ、意のままに働く駒の名前を、いちいち覚える性格ではなかった。
「あの……。ネッシュ様は、この件を了承されたのでしょうか」
「当然だろう。なにか、おかしなことでもあるか?」
精神魔法について知りながら、プライトはとぼけて言う。
「いえ。私はお会いしたことがないので。どういう人か知らなくて。だから、その……」
言葉が消える。
精神魔法をかけてもらい、ネッシュには、もし伯爵を継げと言われた場合、断るように暗示がかかっていたはず。本人が辞退すれば、他の候補者に話が回るからだ。それに彼女は精神魔法をかけられて以降、領からほとんど出ていない。必要以上に他人との接触も禁止した。それなのに、いつ、誰が精神魔法を解いたというのだ。
(本当にどうなっているのよ。家を一週間以内に出ろ? 貴族界から追放? なんなのよ、これは。あいつの魔法は完璧ではなかったの? どうして急にこんなことになるのよ)
精神魔法が解けた今、プライトたちの目には、レインの生家の異常さがよく見えるようになった。
親戚との交流はなし。名代となったイロープは仕事をせず、
リコラを売りこむばかりで、領はネッシュが働き管理していた。名代とは名ばかりなのに、疑問を抱いたことが一度もない。異常としか言えない。
(精神魔法か、恐ろしいな……。禁止されているのも納得だ。これでは精神魔法を使える者の天国が、簡単に作られてしまう)
改めてプライトは魔法から解放されたことに感謝し、精神魔法に恐怖した。




