プライト王からの呼び出し
精神魔法を解かれたプライトたちは話し合うと、すぐにレインの実父、イロープを呼び出すことに決めた。
そのイロープはというと、一昨日帰宅すれば、レなぜかインの姿が消えており、棚が倒れてモノが散乱している光景に驚いた。
妻のチェールは、棚を滅茶苦茶にしたのはレインの仕業に違いないと怒り、帰ってきたら、どうしつけてやろうかと、鼻息を荒くした。
ところが一晩経っても、レインは帰ってこなかった。
「家出されても問題ないけれど、腹立つわ。私のお気に入りの置物を割ったのよ? あいつに仕返ししてやらないと、気が収まらない!」
一晩経っても腹の虫がおさまらない妻を、昨日は一日中なだめた。どうせ行き先もないのだ、すぐに帰ってくると伝えたが、結局この日もレインは帰ってこなかった。ついに家出したのだろうと、イロープは思った。
あれだけ妻に気に入られようと必死だったので、家出とは不思議ではあったものの、やってしまったなら、それはそれで良い。イロープにとってレインは、どうでも良い存在だったから。
(あいつの身はどうでも良いが、当主の指輪はどうしたものか。あれだけは取り戻さなくては、色々とまずいだろう)
まだ怒りが冷めないチェールたちと朝食を取っていると、突然王からの使者がやって来た。王が呼んでいると言われ、急いで支度をしようとしたが早急にと言われ、そのまま夫婦で馬車へ乗せられた。
馬車と言っても、馬が引っ張っている訳ではない。魔力を原動とした乗り物で、車体は木製でできている。機械文明は遥か遠い過去のことで、今では車と呼ばれていた過去の乗り物は、高く売買される骨董品となっており、美術館に展示されているほどだ。
城から来た馬車の運転手は、複数人。皆で協力して魔力を注ぎ、急いで走らせる。注ぐ魔力が多いほど、スピードが上がるからだ。ただしその分操作が難しくなるので、専用の御者という職業が生まれた。彼らはそのベテランである。
(一体、なぜ王に呼ばれたのだろう。まさか、レインが王へ助けを求めたのか?)
そうだとすれば、状況は良くない。これまで病弱だと言っていたのに、使用人として働かせていたと知られれば、どんな沙汰を下されるだろう。
(そもそも直系であれば、赤子でも後を継ぐという法律がおかしいのだ。赤子になにができる。結局は大人が運用するのだから、継ぐ年齢はもっと考えられるべきだ)
仮に年齢が定められていても、そもそもイロープは直系ではない入り婿のため、当主になれない。だが最近の彼に、そんな考えはなかった。すでに主のように自由に振る舞い、すっかり勘違いしていた。
馬車の中には見張りがいて、一緒に乗らされた妻との会話は憚られる。
(会話はできなくても問題ないか。なにか起きた時について、ずっと決めているし。なんとか切り抜けられるだろう)
ちらりと見れば、妻は落ちついている。その姿が頼もしく見える。
車内は沈黙したまま王城へ到着すると、引きずり出されるように降ろされる。今度は急かされながら城内を歩かせられる。
案内された室内には、すでに王、王妃、大臣の姿があった。
遥か昔で言う総理大臣、首相といった権力者をこの国では、大臣と呼ぶ。魔法使いが登場して以降、世界の多くは王制と変化していった。それまでの国同士の駆け引きが、変化したからだ。
この国では権力を王、大臣、その他の主要な派閥へ一極化させないため、このような政治体制になったと言われているが、国の顔である王族は、やはり他の権力者と違う。一番敬う対象であり、発言権が大きい。
「急に呼び出して悪かったな。最近、レイン伯爵の体調はどうだろう」
大臣からの問いかけに、やはりレインについてかと思いつつ、どの返事をするか考える。
(家で寝ていると言ったら、実は城で保護していると返されるとまずい。だとすれば……)
「実は……。使用人と姿を消し、探しているのです」
「誘拐か?」
「分かりません。外出から帰宅すると娘の姿はなく、使用人も消えていました。身代金の要求がないもので、判断できません」
ろくな勉強をさせていないので王へ助けを求めるにしても、城までの道を知らない。だから、必ず誰かの助けは必要となる。病弱だから勉強もしていないという言い訳もできるので、イロープは架空の使用人を作ったのだ。
「それは大変な話だ。いつ消えたのだ?」
「一昨日です」
「なるほど」
一昨日姿が消えたにしては、随分と悠長な態度である。演技でも良いから、慌てれば良いものをと、王妃は呆れる。
ジェダイとプライトは視線を交わし、レインが魔法使いの都へ逃げた翌日、所長が来たのだと、目で会話をする。
「しかし探しているにしても、使者が向かった時、そんなに悲痛な空気ではないと報告を受けたが……。具体的に、どこを探すように指示を出した?」
「その指示を出すため、どの組織に相談するべきかを妻と話し合っていました」
「優雅に朝食を取りながら? 丸一日も経っているのに、心配ではないのか? 一体、昨日はなにをしていたのだ」
批判され、ひくりと、頬が動く。
やけに食い下がる。いつもはちょっとした返事だけで、簡単に引き下がるというのに。
「では、伯爵と共に消えた使用人について詳細を述べよ」
「若い女です。ずっとレインの世話をしていました。そのため、娘からの信用を得ていたので、言葉巧みに娘を騙したのでしょう。あの子は世間知らずですから」
この発言も酷いものだと王妃は思う。世間知らずにしたのは、一体誰だと問いたいが、今は我慢する。夫を差し置いて、自分が先に口を開けないと判断してのことだ。
「それだけか? 伯爵が行方不明だというのに?」
これには、特にチェールが驚いた。
王たちには精神魔法をかけてもらい、レインへ興味を失うようにしてもらっていたからだ。さらに夫の話を深く考えず、ただ受け入れるようにしてもらっていた。それが、どうしたというのだ。こんな反応をされるとは、思ってもいなかった。
(精神魔法が解けた? 勝手に解けたの? あいつ、そんなことを言わなかったじゃない。それともあいつ、裏切ったの?)
チェールが内心苛ついている間にも、話は進む。
「使用人の出身地や現住所は? 通いか? 住みこみか? 伯爵家で雇われるのだ、身元調査は行っているだろう? どうした、なぜ答えない。昨日のうちに必要最低限の情報を集めていないのか? それともまさか、本当は探していないのか?」
「その……。最初は、ただ外出していると思って。でも、夕飯の時間になっても帰って来なくて……。様子見をしていたと言いますか、発見が遅れたと言いますか……」
練習にはなかった話になっていき、イロープは追いこまれていく。どう答えれば大臣の追及を逃れるのか、正解が出てこない。
(心なし、私を見る目が冷ややかな気もする。いつも会う時は笑顔だったのに。どうにも、やりにくい。どうして今頃レインについて、追及してくる? 今まで一度もレインに関心を向けていなかったくせに)
これまでは体調を崩して家で寝ている。その言葉だけで分かったと言われ、実に楽勝だった。妻からも上手くやったので、ろくな説明をしなくても追及はされず、こちらの話に頷くだけだと言われていたのに。
イロープは精神魔法について、知らされていなかった。ただ妻が言うことに従っていれば、間違いなかった。それなのに今日、ここまで追求されるとは予定外だった。
「レイン伯爵の身柄については安心せよ。彼女は保護されている」
やはり王に助けを求めたのか。あんなに妻を母と呼びたいと、言いなりになっていたのに。一体なにがあったのかと訝る。
「レイン殿を保護したのは我々ではない。魔法使いの都だ」




