犯罪集団、アパッタイ
「無事にレインさんは、伯爵当主の座、及び、貴族籍、国籍からも抜けることができました」
今の時代の所長、アクチノさんに呼ばれると、そう告げられた。昨日の今日で、あいかわらず仕事が早いと感心する。
「じゃあ、伯爵家は取り潰しに?」
「レインさんの叔母が後を継ぐことになりました。先々代の娘ですから、後継者の資格を持っていましたから」
「叔母?」
私に叔母がいたなんて、初耳だ。きっと助けを求めないよう、わざと伏せられていたに違いない。
「ご存知ありませんでしたか。レインさんの実母には妹がおり、レインさんが領主になって以降、彼女とその夫が領を管理していたそうです」
実父が働いている覚えはないので、てっきり遺産を食いつぶして暮らしているかと思えば……。きっと叔母が当主の家へ、金銭支援も行ってくれていたのだろう。
しかし領の管理は他人任せで、パーティーだけちゃっかり参加していたとは……。恥ずかしい。一応名代だったから、周りに眉をひそめられたり、陰口言われたりしていなかったのかな。そういうのを気にしない性格だから、愛人の言動を咎めることなく、私を無視していたのかもしれないか。ろくな交流をしたことがないから、人柄を知らないけれど、つくづく残念な男である。
一方で愛人との間に産まれた妹は、魔法使いとして優秀だと売りこんでいた訳で。それも張りぼての力だけど。情けない。
実父と愛人は最終的に、伯爵家をどうしたかったのだろう。あの夫婦はなにを目指していたのだろう。分からないな。
「解せません。名代として認められたのは実父だったのに、彼は責任を果たさず、妹夫婦が働いていた状況が何年も続いたのに、国は疑問を抱かなかったのですか」
ここに帰ってきた時、白衣を着ていた男、ナンバー25の問いかけに所長は、だから人を厳選してここへ呼んだと答える。
この部屋には今、所長、私、リーン、ナンバー25ことクォンの四人だけ。厳選とはどういう意味なのか不思議に思っていると……。
「結論から伝えます。王本人やそれに近い一部の者に、精神魔法がかけられていました」
私がありえないと叫べば、二人はまさかと言い、顔を見合わせる。
「……ああ、そう。そういうことなんだね、所長」
「ええ。アパッタイが関わっていると考え、間違いないでしょう」
「アパッタイ?」
「この時代に動いている、犯罪集団だ。シンボルとなるサインを現場に残す魔法に秀でた、厄介な奴らだ。なにしろナンバー持ちが立ち上げた集団だからな」
クォンの説明に、ナンバー持ちがそんなことをするなんてと驚く。
だってナンバーを与えられるのは、魔法を人々の幸せのために使うと誓った者だけ。その誓いを破ることもそうだし……。一体どうなって……。待てよ?
「その集団は、義賊なの?」
「いえ、違います。金さえ払ってもらえれば、人も殺します。だから組織を立ち上げた人物、ナンバー49は、都から永久除名となりました」
当然の措置だ。
永久除名は最も重い。魂は二度と、都へ踏み入れることを許されない。例え何度生まれ変わり、性格が変わっても。
もちろん生まれ変わった環境により、理念から離れてしまった者は過去にもいる。だが犯罪集団を立ち上げたなんて、初耳だ。
「そして彼らのシンボルとなるサインが、こちらになります」
所長が提示した紙に記されたサインを見て、声をあげる。そのサインこそ、私の呪いにも刻まれているのと同一だったから。
「これ……っ。私の呪いにも……っ」
「本当? 魔法陣を見せてよ、レイン」
頷くと、三人にも視認できるように魔法陣を浮かび上がらせる。
「ここに愛人の名前がある。だけど私が気になって解呪しなかったのが、このサイン」
「間違いないね、アパッタイのサインだ。じゃあ愛人ちゃん、アパッタイの一味ってこと?」
正直、答えられない。答えられるほど、愛人についても知らない。何年も同じ館で共に暮らしていたのに、三人についてなにも知らない。一体いつから実父と関係があったのか。どうやって知り合ったのか。分かるのは、義母は実母が生きていた頃から実父の浮気相手で、子どもを虐げる女。それだけ。
「参りましたね。レインさんの家族の処分を、プライト国王に任せるべきではありませんでした。今さら我々が口出しをして、アパッタイという犯罪集団について知られる危険を冒したくありませんし、どうしたものか……」
悩む所長へ謝る。
「ごめん、もっと早く見せるべきだった」
「いや、レインが慎重になるなにかがあると分かっていたのに、確認しなかった僕たちも悪いよ。呪いの魔法陣で、二つのサインがあることは珍しいし。しかも片方は実名、片方はシンボルとなるサイン。僕でも怖くてすぐ解除しないな、これ」
「誰も貴女を責めません。まさかアパッタイが関わっているとは思っていませんでしたし。そもそもこんな犯罪集団が生まれたことが、予想外です。クォンさん、レインさんの体をもっと詳しく調べて下さい。呪い以外にも、なにかあるかもしれません」
所長の命令に首肯するクォン。
「さて、アパッタイの犯罪の中に、精神魔法で人を操るモノがあります。つまり、現在この最上階へ出入りできる、奴らの内通者がいる可能性が高いのです。だからこの話をするのに、三人だけを呼びました。始まりの魔法使いであるリーンさん、レインさんが内通者であることは絶対にないでしょう。その次世代の魔法使いであり、僕の師でもあるクォンさんもあり得ない。彼の性格は、お二人もご存知でしょう」
所長の言葉に、リーンと苦笑いを浮かべる。クォンは、まあ、ね……。これまでの人生で何度か出会ったし、私も彼が裏切るとは思わない。
「僕は所長になれたことから、疑いを晴らしたいと思います」
所長へ選ばれるには、幾つもの条件をクリアする必要がある。また、制約を課されるので、まず無理だ。
「内通者……」
そんな人がいるなんて信じたくない。だけど、状況が事実だと述べている。
「現在、長く活動している魔法使いは、僕を含めたこの場にいる四人です。それ以外のナンバー持ちは僕たちと比べ、歴史が浅い。慎重に動かなければ、この世界に再び大きな混乱が起きることでしょう」
魔法は神が敵を倒すため与えてくれた特別な力。どこからともなく現れた、後に魔物と呼ばれる、異形の生物と戦うための力。
魔物には、従来の化学兵器や武器がほとんど通じなかった。魔法使いとして目覚めてから長く、唯一魔物と戦える存在として活動した。辛くても、日常という幸せを手に入れるために。そんな力を悪用するなんて、許せない。
「アパッタイの拠点はどこなの?」
「判明していません。ナンバー49の魔力残滓から、彼の関与は判明しました。アパッタイという名前も、僕たちが勝手につけた名前です」
「奴らを構成している人数も不明なの?」
「恥ずかしながら……」
ナンバー49ということは、三代目か四代目の魔法使いか。記憶がごちゃごちゃしている、すぐに誰なのか思い出せない。後で資料を見せてもらおう。どこかの人生で会っている気がする。
「でもこの魔法陣、やっぱり上手いね。完全に魔力を吸いつくして、殺さないように考えられている。生かしたまま、奪い続けるのは良いアイデアだよねえ」
敵とはいえ、確かにこの魔法陣は称賛に値する。
「欠乏させることにより起きる、魔力の回復上昇も計算されているのよね。魔力を魔石へ流す魔法を常時発動させることにより、知らず私がレベルアップしていて、さらに魔力が増したし」
魔法使いの都、その最高位の始まりの魔法使いが、特に化け物と呼ばれる所以がここにある。
魂と魔力は繋がっており、生まれ変わりの記憶を保持していると、前の人生の魔力量やレベルをそのまま引き継げる。新しい人生は高レベルからスタートし、さらにレベルアップして上限が引き上げられ、加算に加算を重ね、魔力に底がないと言っても過言ではない。
愛人か実父かは分からないけれど、私の膨大な魔力量に目をつけ、利用する着眼点は悪くない。
「プライト国王たちの精神魔法は解きましたが、またかけられる可能性があるため、しばらくあの国は観察対象となります」
精神魔法が初めて認識されたのは、都ではない別の土地だった。
魅了魔法を生み出した魔法使いは人々を虜にして貢がせ、働かず自由に生きていた。
相談を受け現地へ行き、魅了魔法が発見され、この魔法は禁止するべきだと即決され、まず魅了魔法を解く研究が始まった。
対応策の研究中、禁止しても使用する者が続き、研究が成功するまで被害は続いた。こうやって新たな魔法が作られれば問題がある場合、対応するのが都の魔法使いの役割でもある。
紆余曲折あり、ついに私たち始まりの魔法使いはあらゆる事態への対策として、巨大な魔法陣を作った。星全体へ魔法陣を刻んだのだ。その中に、精神魔法無効の作用もある。
ただ最初の人生と違い、始まりの魔法使い全員が揃ったことはない。そのせいか魔法陣は不完全で、今も研究は続けられている。同時に、毎日誰かが魔法陣へ魔力を注ぎ、魔法陣を常時展開させている。膨大な魔力を持っているからできる、荒療治。
魔法陣を刻むため、世界各地に魔石を配置した。その魔石に異常がないかの確認や交換も、定期的に行われている。
内通者は注ぐ魔力を減らすか、注ぐふりをしたのかもしれない。又は魔石を意図的に壊したり、位置を変えたりして、一時的に精神魔法が使える時間を作ったのだろう。
抜け道はあると、仲間内の引継ぎで周知されていた。でも本当にその抜け道を突き、犯罪に走る者が出るとは思わなかった。
「内通者の候補は?」
今この場にいる四人以外と言われ、ため息が漏れる。
「とりあえず内通者探しより、レインは身体検査を優先しなよ。ないとは思うけど、他にも巧妙に隠されている呪いが、あるかもしれないし」
「そうだね。クォン、よろしく」
この結果、私には呪いだけではなく、毒も盛られていたと判明した。




