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都からの使者

「なに? 魔法使いの都から使者だと?」


 報告を受けた国王、プライトは、その場にいた王妃と顔を見合わせる。王妃の顔色は悪いが、きっと自分もそうなのだろうと鏡を見なくても分かる。

 直後、報告があると部屋へ飛びこんできたのは、大臣のジェダイだ。ひどく慌てている。


「お急ぎお伝えしたいことがございます! 先ほど、魔法使いの都から」

「その報告は届いたばかりだ」


 ジェダイの言葉を遮るが、それに対して彼はなんの反応も示さない。


「一体、なにがあったのでしょうか」

「分からぬ。だが都が動いたということは、魔法が関係しているに違いない。急ぎパクトを呼べ」


 こちらから使者を送ることはあっても、向こうから訪ねてくるのは極めて(まれ)な話であり、ほとんど前例はないと言って良い。しかも訪ねてくる場合、なにか問題が発生した時ばかりで、使者が来たという報告だけで倒れそうだ。

 ジェダイと同じく慌てて部屋に飛びこんできたパクトへ、急いでプライトは確認をする。


「国内の魔法使いたちに動きがあったのか?」

「把握している限り、それはありません。逆に天才少女が現れたと、良い話なら聞いております。その少女にしても、魔法使いの都へ迎えるのであれば、陛下を訪ねるのではなく、直接本人や保護者に接触しますし。理由に見当がありません」


 国内の魔法使いのトップの座に就いているパクトの説明に、ますます王は焦る。パクトさえ把握していない問題が、密かに起きていたことの方が問題だ。相手は国の管理を追及してくるだろう。

 だがいつまでも現実逃避はできないし、この部屋に閉じこもっている訳にもいかない。


「会うしかないか……」


 億劫(おっくう)だと言わんばかりに、ゆっくりとした動きでプライトは椅子から立ち上がった。


 魔法使いによる、魔法使いのための都。どの国にも属さないと表明し、都と言いながら、すでに一国と化している。それも世界一の強国。選りすぐりの優秀な魔法使いだけが集まり、日夜研究に明け暮れていると聞く。

 歴史上、幾つかの国が配下に下そうと攻めたが返り討ちに合い、全て滅んだ話は今も有名だ。過去の教訓から、現在はどの国も都の内政に干渉しようとしない。


 都の土地面積は広くないが、住んでいる者は皆、化け物と呼んでも良い膨大な魔力の持ち主。今ではどの国も、都に抗うことをしない。虎の尾を踏む国はここ何十年と、存在していない。

 なにか問題が起きない限り、都が動くこともなく、侵略行為にも走らない。問題さえ起きなければ無害であるが、都に住む魔法使いは仲間意識が強く、魔法使いが迫害されたと知ると動く。そして圧倒的な力を見せつけ、どのように詫びるのかと迫ってくる。結果、優秀な魔法使いを奪われることも珍しくない。


 きっと把握していないだけで、国内の魔法使いが迫害されたとかいう話だろうと、プライトは考えている。見返りにどのような代償を求められるのだろうか。パクトも優秀な魔法使いではあるが、都へ迎えたいレベルではないと言われている。では、天才少女を欲されるのだろうか。


(将来性のある優秀な者を手放すのは惜しいが、国が亡ぶより安いものだ)


 謁見の間に選ばれた部屋へ入ると、彼らを待っていた細目の男の姿を見るなり、プライトは、体を強張らせた。すぐに人払いを命じるが、相手がジェダイとパクトも残るようにと、告げてきた。

 二人も男を知っており、顔を青ざめる。報告では、使者だと聞いたのに話が違うではないかと。逃げたいが敵わない相手なので大人しく従い、王の後ろに立ち、控える。


 細目の男の名はアクチノ。現在、魔法使いの都の象徴的な建物の管理をしており、都の魔法使いから所長と呼ばれる、都の代表者である。つまり、国に例えると国王の椅子に座る人物だ。


(都では代々、所長は血縁者からではなく、優秀な者が選ばれると聞くが……。血統を重んじる我が国からすると、不思議な都だ。だがそれで上手く回っているから、彼らには問題がないのだろう。我々の国もそうするとなると法を変え、根本から全て改革する必要があるからな)


 プライトはアクチノの正面に腰かけ、口を開く。


「使者と聞きましたが、まさか所長自らがお出でになられたとは、思いもしませんでした。お会いするのは何年ぶりでしょうか。お元気にされていましたか?」


 低姿勢のプライトに対し、アクチノの態度は尊大(そんだい)だ。本来なら外交問題に発展しかねない姿勢を崩さない。足を組み、組んだ手を膝の上に乗せているが、誰も失礼だと指摘しない、できないのだ。怒らせたくないという、防衛本能が働いているからだ。


「まだるっこしい挨拶は抜きにして、本題に入りましょう。実は魔法使いの一人が、都に保護を求めてきましてね。その魔法使いはこの国の生まれで、しかも当主でして」

「魔法使いの当主?」


 パクトの頭に何人かの顔が浮かぶが、全員、保護を求める環境下で暮らしていないはず。


(平民か? 裕福な家の者なら、ある程度情報は入るが……。無名な家だと、把握できていないからな。ということは、やはりそういう家の魔法使いなのだろう)


 そんなパクトの思考を見透かしたように、アクチノは言う。


「勘違いしないでもらいたい。その魔法使いとは、伯爵当主だ」

「伯爵?」


 プライトは慌てて振り返り、パクトへ視線を送る。誰の名が出るのかと待ったが、パクトは馬鹿なと、思わず声を漏らす。


「私の知る中、伯爵当主で魔法使いはおりません。おりませんが……。後天的に、魔法使いとして目覚めることはあります。しかし、保護を求めるほど問題のある伯爵家なんて、思い浮かびません」


 本当に心当たりがない様子に、アクチノは呆れる。


(昔、この男を都に推薦されたことがあったと聞くが、受け入れなくて正解だったな。魂の研鑽(けんさん)を積めば、来世はどうなるのか分からないが)


 レインの話はどう聞いても、彼女の生家は問題ありと判断できる。それなのに名前が出てこないのは彼女が幼いからか、それとも……。


(まさかな……)


 ある点を懸念(けねん)するが、とりあえず話を進めることにする。


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