人間付き合い
「ナンバー0か。なるほどね。それなら魔力は少なく、生まれ変わりの回数も少ない。けど、特殊とも言える道具作りができる説明はつくね。ピラミッド、エジプトという単語を知っている……。エジプトは歴史書を調べれば出てくるけど、ピラミッドは随分前に、死語になってるしね」
腕を組んだリーンが顔をしかめる。
所長もクォンも苦い顔をしている。彼らもまさか、ティーオがナンバー0という可能性を考えていなかったのだろう。
「ナンバー0なら、0以外のナンバーを与えられていない者が多い。俺はこの都で暮らすことを選び、ナンバーをもらえた。でも、ナンバー0だけで考えると、該当者は多い。いや、ナンバー0だとも限らない。魔物侵攻の後期、魔法使いと知られたくないからと、魔法を使えることを伏せていた者が増えたからな」
魔法を使えると知られればこき使われ、罵倒され、ろくな目に合わないと多くの人が分かっていた。それでも魔法使いに頼るしかなく、余計に苛立つ人もいた。
不満をぶつけられるのも私たちくらいで……。警察や軍、政治家といった、災害時に頼れる人たちの命はほぼ消えており、頼れ、不満をぶつける相手がいなかった。だから、いざ自分が魔法を使えるようになると、悪意が自分に向けられることを嫌がる者が増えた。
中には人前では魔法を使わないものの、こっそり使用している人もいた。
見つけた時に仲間になってくれと頼むが、断られてばかりだった。
「魔法使いだと知られたくありません。寝ずに魔物と戦うし、失敗したら責められ……。そんな生活、送りたくない。だからお願いします、黙っていて下さい。内緒にしていて下さい」
頭を下げたその人の思いは、痛いほど分かった。
疲弊していた私は無理強いをせず、去ることが多かった。
魔物と戦っているのは自分たちなのに、守られているくせに、不満ばかり言われることに嫌気が差したと、姿を消した仲間もいる。
戦いに明け暮れた上に、大勢から責められることは、苦痛でしかない。しかも最初は持ち上げられたから、余計である。いざ自分が指をさされ、怒鳴られる立場になったらと考えれば、秘したいだろう。
仲間の中には、そんな人たちを批判する人もいた。
「安全な場所にいて、全部私たちに押しつけ、その上お願いだなんて厚かましいのよ! 頭を下げたから、なによ! 私たちが寝れると思う? ろくに食事も取れないし! 私たちの仲間が全員死んだら、次、誰が戦うか分かってる? あんたよ! それともあんた、戦いもせず死ぬつもり? じゃあ、なんで生きているのよ!」
面と向かって怒鳴る仲間もいた。
それでも協力してくれない人ばかり。後期は本当、色々と酷くて辛かった。
当時、魔法を使えることを隠して生きた人たちの中に、前世の記憶を持って産まれた人も見つかった。
魔法使いの都にある、始まりの魔法使い……。私たちの最初の肉体が葬られた墓を訪れ、花を供えていた人と出くわしたことがある。
「あの時、自分は全てから逃げていました。戦うことも怖かったし、魔法使いが少なく、理解されないことも多かった。責められたくなかったし、彼らが責められても、助けることなく見捨てていました。だから、謝罪に来たかった」
私が本人の一人と知らず、その人は長く私たちの墓と向き合っていた。
戦える魔法使いが多ければ休憩を取れ、寝不足で体が悲鳴をあげず、犠牲を広げず、魔物に勝てた戦いもあっただろう。そのことを、そういう人たちは理解していた。理解していながら魔法が使えることを黙って、最初の生涯を終えた。
「もし魔法使いだと黙っていた連中の一人なら、なんの情報もない。手がかりがない。エジプトとピラミッドという単語を出したということは、そこに住んでいた者か?」
「どうだろうね。古代学を研究していた人だけかもしれないし。魔物が現れるまでは普通に車に乗って、飛行機に乗って、世界中いろんな所に行けていたし。ネットも普及してる時代で有名だったし、無関係の可能性が高くない?」
飛行機か。懐かしいな。もうすっかり細部は忘れたけれど、空を見て、飛行機雲だと子どものころは指さして、はしゃいでいた記憶はおぼろげにある。
「ナンバー0なら、ここに入れない理由ができるな。ナンバー160が、なぜ自分たちで動かなかったのか不思議だったと語ったが、そもそもここに入る権限が、ティーオにはない。建物に入るには、他のナンバーが与えられるが、ナンバー0や名無しは違う」
「それで、最上階に入れる味方が欲しかったのかもね。最上階についての知識は、ナンバー49から得ていただろうけど、ナンバー49は自由を求め、最上階には来たくなかったようだし」
これでナンバー160が抱いていた疑問に、理由はつく。
それでも私たちの心を暗くするのは、ティーオという少女がナンバー0の可能性が高いから。リーン、クォン、私の三人は、顔見知りかもしれない。共に戦った仲間が、今は犯罪に手を染めているなんて、受け入れたくない。
「ナンバー0なら、クォンさんたちのように記憶を思い出し、過去、皆さんに会いに来た可能性はありますよね。そこでナンバー49と出会った可能性はどうでしょう」
「それを仮定とするなら、ナンバー49が生きていた時代にここを訪れたナンバー0が、ティーオとなるわね。それなら、かなり絞れる」
「問題は、記録があるかどうかだな。ナンバー49が消した可能性がある」
「それでも調べる価値はあるはずよ」
「そうだな。ところでリーンの方は、どうだった?」
「あったよ。ナンバー160が言った通り、そのまま放置されてた。これがその映像」
魔法で撮影した画像を、空中に表示させる。
「なるほど、古代語。この数字は西暦ですかね」
古代語とはいっても、魔物が初めて攻めてきた頃の文字。だから私たちは馴染みがあるけれど、数字以外は現代人には分からないだろう。西暦も今は違う暦を使われているので、わざわざ換算する人は少ない。
「これ、一か所じゃなかった。他にも似たのがあって、幾つか気になるのがあった。落書きって確か、こういう彫るって感じじゃなかったと記憶しているし。他の仲間ともこの地で、生きていると知らせる連絡手段を取ってたんじゃない?」
何枚もの画像がスライドされていく。
「全てがそうなら、複数人の仲間がいるのは確定だな。その内の一人がティーオだとしても、残りはまだいる」
「ペリアの協力者もいるしね。なんにしても、前世から計画していたというのは、確定で良いんじゃないかな」
「古代語で、読める字があるのは?」
「ナンバー160は英語だね。後は……」
私は母国語しか覚えていない。でもこの中に、母国語はない。クォンも同じらしく、ないと答える。
複数の言語を勉強していたとしても、さすがに魔物に襲われ始めてからは、勉強なんてできなかったし。基礎である母国語はなんだかんだ一番頭に残っているけれど、それ以外はちょっと怪しい。
160の場合は、No.とそのままだから、分かるけれど……。
安直すぎない?
ナンバー160はデュモルにとって、重要な仲間ではなかったのかもしれない。
「古代語の研究者に聞くのも、ちょっとね」
「あいつらに聞くのは、時間の無駄だよ」
長い袖を振り、リーンは言い切る。
私たちが表に出ないので、古代語の研究者は自由に各々の研究結果を発表しているが、誤読が多いことに、私たちは気がついている。
指摘して恥をかかせ、権威を失墜させて逆恨みされたくないので、基本、都の者は黙っているけれど、中には正直に、間違っている。自分には魔物が最初に攻めてきた頃の記憶があり、当時、その言葉を母国語として使っていた! 嘘を発表するのは許せないと、声をあげる人もいる。
そうなったら、とにかく研究者と揉める。前世の記憶があると言っても信じてもらえず、妄想だと言われたりもするし。都の者と彼らは、相性が悪い。
マウッシさんは古代学に興味があるのかと思っていたようだけれど、違う。知っているから、語れるだけ。
ただ正直、古代語については、ろくに資料が残っていないので、サンプルが少ないので誤読されても仕方がないだろう。当時は電子媒体が主流だったから、ほとんど壊され消えてしまった。かろうじて紙媒体が残っており、魔法をかけて保存しているのもあるが、少ない。
読む人が読めば、これは当時の時代について書かれていると言われている学術書が、ただの個人的な日記だと分かる。確かに当時について書かれているけれど、学術書ではない。それなのに、多くの研究者が学術書だと言い張る。
言い争うのも面倒だし、揉めるのも避けたい。だから彼らには頼らない。
魔物のせいで色々壊され燃やされ、結局石に彫るのが後世に残るのでは?
そんな会話を仲間たちと交わしたことはあるけれど、実際、ピラミッドの残骸を傷つけられると、腹が立つ。




