見た目で判断するからよ……
翌日、さっそく二人でソベールへ向かう。
私はアポを取り付けた、ラゴー叔父様の兄、クロムスさんと会うために。リーンは遺跡へ行き、ナンバー160が言っていた目印があるかの調査を行う。クォンは変わらず粉の調査。所長はその他諸々。四人だけでは、やはりオーバーワークだと思う。
叔父様に教えてもらった住所を訪ねると、立派な屋敷が建っていた。
年季を感じさせるが、丁寧に手入れをし、長く家とともに歩んでいると分かる。館の外観から、真面目そうな人たちが住んでいる気がするものの、たまに見かけだけの人がいるので、注意は怠らないようにと気を引き締める。
部屋に通され、待っていたクロムスさんは、ラゴー叔父様に似ていた。叔父様より頭髪量が多くてふくよかだけれど、間違いなく二人は兄弟だと分かる。叔父様の頭髪と体型はきっと、長年の激務のせいだろう。
クロムスさんの隣に一人の男性が座っている。きっとこの人が、道楽者の一人に違いない。
「初めまして、レインです。本日はお会い下さり、ありがとうございます」
「初めまして、ラゴーの兄、クロムスといいます。魔法使いの都の方とお会いでき、光栄です」
クロムスさんはにこやかに対応してくれ、握手してくれるが、この道楽者がろくでもなかった。
「ふんっ、こんな子どもが魔法使いの都の者だと? 信じられるものか」
足と腕を組んで、ふんそりがえっている。態度、悪いな……。それでも接客業の店員のように、にこにこと笑顔を保つ。
「マウッシ殿、なんて失礼なことを」
「魔法使いの都の者に会えると言われたので、来てみれば……。どうせそのガキも、デュモルの仲間に違いない!」
鼻息を荒くし、指さして勝手に決めつけてくるし。なんなの、この人。
確かにこの見た目では、信じられないのも分かる。子どもすぎるし。だったら、魔法使いの都の者だと証明するため、魔法を見せよう。
「それでは、ご要望通りの魔法をご覧にいれましょう。どのような魔法を望まれますか?」
こういう相手とは過去、何度もやり合っているので、今さら傷つきはしないけれど、ムカつくのはムカつく。笑顔で告げれば、にやついた笑みを浮かべて言ってきた。
「あの男は雨不足をなんとかしてくれと言ったら、雨を降らしてくれたぞ。小娘なんぞにできるかな?」
「それは構いませんが……」
簡単な内容だけれど、この辺りで魔法を使えば、クロムスさんの家が被害に合うな。
「では、場所を変えましょうか。貴方の言われた雨不足だった地は、どこですか?」
地図を取り出し、大体の場所を教えてもらうと、魔法で身体能力を上げ、彼の首根っこを掴むと引きずる。窓を開けて枠に足をかけ、振り向いて告げる。
「クロムスさん、少し席を外させてもらいます。すぐに帰ってきますから」
なんか呻いているけれど無視して巨体を掴んだまま、魔法で高速移動する。もちろんこの男の体に影響が出ないよう、守ってやっている。
「はい、到着しました」
まさに文字通り、一瞬の到着。男は首を左右に動かし、混乱している。
どうやらこの辺りは、農作物に取り組んでいる一帯のようだ。雨不足が発生すれば、どうにかしたい地域ではありそう。ぽつぽつと建物もある中、一軒だけやたら豪華な屋敷がある。この人の別荘かな?
「今は農作物、問題なく育っていますけれど……。ここで大雨を降らせば農作物や周囲に、被害が発生します。大丈夫ですか? 私に責任を取れと言いませんよね? 元に戻すことはしませんよ?」
「で、できる訳がない! あんな、あんな速さで移動して、さらにデュモルの奴より雨を降らせるだと? できる訳がない! 責任を取れだ? そんなもの、できてから言うんだな!」
引くに引けないといった感じだな。仕方ない。それでは御覧いただきましょう。
「ほい」
特に呪文はなくても良いので、両腕を一度上げ、下ろす。それだけで一瞬にして空は真っ黒になると雷と雨が発生し、暴風雨となる。昔で言う、局地的大豪雨、ゲリラ豪雨という感じだろうか。
あっという間に水が溜まり、畑の植物が流されていく。男は口をぱくぱくさせなにも言ってこない。
建物にも浸水しているだろうな。なんの建物か知らないけれど。あと、諸々流れていった先になにがあるのだろう。突然色んなものが流れてくるから、災害が広がる気がする。放っておくと、なんの罪もない人に迷惑がかかるかも。それは嫌だな。
「止めろと言われるまでこの暴風雨、続けますよ? これくらいだったら、何時間でも続けられますが、大丈夫ですか? 農作物、流れていっていますし。流れた先に、町や村とかありませんよね?」
デュモルの呪いのせいで、私の魔力量は増えている。今も少し、ほんの一滴程度くらいのレベルで、魔石に魔力が流れているけれど、一滴程度なので全く問題ない。ほぼ全力で魔法を使える。
「や、や、止めてくれ! もう止めてくれ! 畑を戻してくれ! この先には村が……!」
やっと涙目で懇願してきた。
村の方には非がないから、と。防波堤を遠隔で作っておく。
「いや、さすがに畑を戻すのは……。だって、責任を取れと言わないと誓ったのは、貴方ではありませんか」
本当に農作物に影響が出てから、発言を覆されても困ります。成長速度に関する魔法を使えば、元に戻せるけれど……。素直に戻してやるのは嫌だな。初対面から態度の悪い相手には、相応の対応になりますって。年齢? 老熟? そんなの関係ない! ムカつくのはムカつくから!
ちなみに私と彼の周りは防御を張っているので、濡れてもいない。
あ、近くの木に落雷した。その近くの豪華な屋敷に飛び火して燃え始めた。それを見て男が倒れた。気絶しちゃった……。
暴風雨を止め、気絶した男を連れて、クロムスさんのもとへ戻る。
「なにがあったのですか?」
気絶した男を見下ろしながら、クロムスさんが尋ねてくる。
「あの兄妹よりすごい魔法を見せろと言われたので、見せただけです」
視界に入っていた農作物が、全部流されたことは黙っておいた。ここで恐怖を抱かれるのは、紹介してくれたラゴー叔父様に悪いしね。
「それで、この男性がデュモルへ依頼した方で間違いありませんか?」
「はい、名前をマウッシといいます。この通り、少し性格に難があり、余計あの兄妹とは合わなかったようです」
性格の悪い者同士か。やり取り、見たくないな……。お互い自分勝手に意見を主張している姿が浮かぶ。
「ところで、デュモルというのは……」
「例の兄妹の兄の名前です」
改めてデュモルの写真を見せると、間違いなく、家を訪ねてきた兄だと断言される。
「前触れもなく訪ねて来られ、最初は使用人が対応していたのですが、どうにもしつこく……。初日はなんとか帰ったのですが、懲りずに何回か訪問され、それで私が会うことにしました。あの頃は、まだ父が当主でしたので、当主が相手にする客ではないと伝える意図をこめ」
断られても押しかけるのか。めげないというか、しつこいな。ブラック企業の営業でも、経験していたのかな。よく言えば諦めず、努力する人物ではあるのだろう。多分。
「応接間へ通し、席をすすめる前に着席され、腕と足を組んで、自分は優秀な魔法使いだ。なにかあれば魔法で解決してやろう。依頼する気はないか、そう言ってきました」
「え? 初対面ですよね?」
先ほどのマウッシさんの姿を思い出し、素っ頓狂な声が出る。家に押しかけてきて、それはないでしょう。
「初対面でした」
さぞやクロムスさん、驚いたことだろう。
私の場合は子どもに見えるから、なめてかかるのは分かる。理解できる。でも、依頼を求めてやって来て、その態度はない。営業経験はあっても、まっとうな会社ではなさそうだ。




