内通者は……
「不審な兄妹?」
叔母様たちとの対面から帰ってきた私は、真っ先にデュモル兄妹について伝える。
「叔父様は他国、ソベールの出身者だったの。その国で以前、変な魔法使いの兄妹が出たって教えてもらえた。数年前突如として現れ、依頼する者がいなくなったせいか、いつの間にか姿を消したらしくて。性格が悪いと評判だった兄は、デュモルは同一人物だって」
叔父様から聞いた話を、かいつまんで伝える。
「とりあえず、性格悪いのは確定なんだね。だったら、気兼ねなく倒せるよ」
嫌だな、そんな確定。まだ本人と直接会ったことがないのに、こういう扱いで決定されるとは……。正直私も、なら、遠慮しなくて大丈夫かと思ったけれど。
彼らは、依頼がないかと家に押しかけるくらいだから、お金が欲しかったのだろう。でも、再度依頼したくないと思わせるとは、一体なにをしたのだろう。知るのが怖い。
「妹がいたという事実はない。どこで知り合った女だ? 腹違いや種違いなら、可能性は残されているが、そんな情報は出てこなかったぞ」
「期間は旅に出ていた頃と重なっているから、旅先で知り合った子とか?」
「性格の悪い奴が、赤の他人の世話なんてするかなあ?」
「……見捨てそう」
「だよねえ」
ということは、デュモルにとって少女は、対等に接する相手なのだろうか。それか、利用価値があるとか? まさか、年齢差の恋? いや、さすがにそれはないか。
私たちが会話をしている間、無言で手を動かしていた所長が声をあげる。
「ああ、これですね。確かに記録がありました。妙な魔法使いの兄妹がいるので、注視している。二人についてなにか知らないかと、問い合わせがソベールからありました。態度は悪いが、魔法使いとしては優秀と記述が残っています」
そんなに性格に問題があるの? この建物内での評価だと、そんなに悪くなかったよね? 前世でなにかがあって、今の性格になったの? それとも前世では、誰も本性を見抜けなかったの?
いつかは対峙するだろうけれど、そんな人を相手にするの、なんか嫌だな。関わり合いたくない。
「兄妹共に魔法を使えるが、都としては、その兄妹が何者か答えられませんでした。突然現れた、謎の優秀な魔法使いの兄妹という感じですね。詳しく調査する前に去られ、以来どこからも似た報告がないので、生死不明扱いになっています」
「突撃訪問、止めたってことじゃない? もしかしたら、誰も言わないだけで、支援者が見つかった可能性もあるね」
「なんで、お金が欲しかったのかな? 依頼はないかと直接、見ず知らずの家を訪問するくらいだから、目的はあるはずだよね。生活費は必要だとは分かるけれど……。それだけが理由ではない気がする」
「アパッタイという組織を作るために、資金を集めていた可能性もあるな」
「お金の使い道も気になるけれど、このソベールの件で当時、報告書を作ったのは誰?」
報告書に記されていた名前を確認し、四人で頷く。
ナンバー160。
内通者、確定。
「この報告書も事実か怪しいものだ。調査同行者に話を聞く必要があるな」
「そうですね。そして彼らもまた、内通者の可能性があることを忘れないように」
◇◇◇◇◇
それは、叔母様と会う前日のこと。
『リーダーの名が知られました』
あの時、監視カメラから流れてきた音声つきの映像に、私とリーンは顔を見合わせた。
「リーダーって、デュモルのことだよね。デュモルについて、調べさせていた訳だし」
「あの男、リーダーって呼ばれてんの? それとも、そう呼べって自分で言ったのかな」
「リーン、そこは、どうでも良いんじゃない?」
律儀に返事をする私も私だが、ここではっきり言っておかないと、リーンは同じような話題を繰り返すことがある。自分が気になったことを、すぐ口に出す人だからなあ。
相手の声は聞こえないが、短いやり取りで通信を切ると、部屋を見渡し始めた。通信相手が、カメラの存在を指摘したのかもしれない。今さら慌てても遅いのに。
「基本的に都の魔法使いって、自分の部屋で研究に集中しているし。あまり人と会話することもないよね。部屋は密室だから、研究中だと言っても、本当か分かんないし。これまでも監視カメラをつけるか議論されたけど、こんなことならやっぱり、さっさとカメラ設置すれば良かったんだよ。それを所長がさあ、プライベートがどうのこうの言って、なかなか許可出してくれなくてさあ」
「確かに。さっさと監視しておけば解決していたのに。なんで反対していたの?」
「女性のため。あと、内通者が何人いるのか分からないから、下手に刺激したくなかったって」
所長は今世、男性の肉体で産まれたけれど、これまでずっと女性として過ごしていた。だから、着替えとか見られることに抵抗があるのだろう。そういうプライバシーを尊重するのは良いことだけど、慎重すぎた。あとはもしかしたら、仲間を信じたい思いが残っていて、踏み切れなかったのかな。
「で、対象者は?」
「そりゃあもちろん、対処済み。気がついているくせに」
リーンがまた悪い笑みを浮かべる。
まあ、ね。即魔法を発動し、部屋の出入りを封じたことには、気がついている。リーンがやらなかったら、私がやっていた。
それにしても、あっさり捕まえられたな。拍子抜けしてしまう。
「で、これ、誰?」
まだ全員の顔とナンバーが一致していないので、尋ねる。
「ナンバー160。今世で、やっとこの最上階に入ったヤツ。新入りが、舐めたマネをしてくれるよね。誰よ、こいつを最上階に入れる許可出したヤツ!」
調べると、前の人生で他の始まりの魔法使いの一人が、来世で最上階に入る許可を出していた。
「あいつかあ……」
リーンの諦めたような低い声に、私も肩を落とす。
許可を出した始まりの魔法使いは感情が豊かで、単純で、最も騙されやすい。多分、利用されたな……。
「なんか調べれば調べるほど、デュモルは前の人生から、今世について計画していたような気がする。解毒に使う植物にしてもそうだし。ナンバー160の前世は、ナンバー49と同じ時代だし」
「いつ、どの時代に生まれ変わるのかは、僕たちも分からないけど、運が味方したのかな。それとも僕たちに打ち明けていない、秘密の研究結果があるのかな」
「いつ生まれ変われるか調整できたら、便利そうよね」
現在、クォンは二種類の粉について調査している。所長は立場上、付きっきりで調査ができないので、私とリーンが調べを進めている。いざという時、二人なら所長に代わって権限を持つことができるし、動きやすいのは間違いないが、なんか色々と疲れてきた。
「ナンバー160が魔石調査に参加したことは、何度かあったのよね。調査する日をデュモルに伝えたのかな。私の当主交代の儀式の日は、どうだったんだろう」
「そっか、魔石の調査もしなきゃだね。他のことは一旦クォンに任せて、僕たちが調べようか」
リーンは今から行こうと、一人で即決する。
こうなったリーンの行動は早い。
すぐさま私の腕を引き、研究中のクォンに、出かけてくるので、しばらくよろしくと伝える。ついでに私の当主交代の儀式前後の魔石調査について、確認をお願いする。
「は? お出かけ? 二人そろって? 今の状況で? 馬鹿なんですか? 俺、今、粉の調査中だって知っているよね?」
眉間の間に刻まれたシワが、さらに深くなるクォンに、結界に使う魔石の調査だと言えば、理解してくれた。さすがに遊びに行かないよ……。
「一番私たちが異常ないか、分かると思うし。ダブルチェックは必須でしょう? だから二人で行くの」
「分かった。それなら、粉の調査を一時中断する。そうか、儀式前後の魔石調査参加者を調べなければならなかったな」
がしがしと頭をかくクォン。
正直調べることとか多すぎて、四人では足りないよね……。
「あとナンバー160が内通者だって分かったから、閉じこめてるよ。あいつだけは逃がさないでね。じゃあ行こうか、レイン」
「え? どういう意味だ?」
詳細を伝えず私の首根っこを掴むと、クォンを置いて魔法で飛び立つリーン。私は両手を合わせ、ごめんと彼に伝えながら叫ぶ。
「後できちんと説明するから~!」
こういう所が、クォンはリーンのことを嫌っている理由になんだよね。
説明で時間を無駄にするより、行動あるのみ。というのが、リーンなんだけれど、説明不足でよく周りが困る。だから大勢が苛ついたり、彼女を嫌ったりするのも仕方ない。本当は二人に仲良くしてほしいけれど、互いの性格もあるし、無理だろうな。
「もう、リーンったら。きちんとクォンには内通者について、説明すべきだよ。せめて移動しながら話そう?」
「じゃあレイン、お願い。僕は高速で移動するのに、集中するから」
さらに加速させ、音速や高速なんて目ではないと言う速さで、移動する。私は重圧等に耐えられるように空気を操作し、リーンに抱えられたまま、クォンに連絡を入れる。
「さっきはごめんね、クォン。移動しながら説明する。クォンが放ってくれた道具により、ナンバー160が誰かに連絡を取っていて、相手はアパッタイの可能性が高い。録画しているから、確認して。今はリーンが魔法で部屋を閉ざしているから、誰も突破できないけれど、絶対に逃さないようにね」
「分かった、確認をしておく。でも、リーンの魔法を破れる奴なんて、レインしかいないだろ」
リーン自身に思うことはあっても、彼女の力は認めていると分かる返事だった。
「はい、到着」
あっという間に、一つ目の場所についた。
一度通信を切り、二人で魔石の確認を行う。
「異常はなさそうね。魔石は正常に動いているし、魔法陣の書き換えも行われていない」
「室内にも異常はないね。仕掛けはなにもなさそう。じゃ、次に行こうか」
それから何か所も回り、移動中にクォンと話す時間が続いた。
結局、現在どこも異常はないという結果に終わった。ただ万が一を考え、リーンと二人で魔石の置かれた場所を結界で保護する。デュモルは場所を知っているし。対策はするべきでしょう。
「ただいま」
あっという間に地球を一周して都に帰る。魔石を置いている場所には、転移魔法を封じる結界が張られているので、こうして高速で移動するしかないけれど、今のリーンなら、あっという間に終わるから、楽だ。
昔は途中で魔力切れを起こすこともあり、魔石に頼った。私たち、成長したなあ。高速で移動して結界を張っても、まだ魔力が残っているなんて。だけど、もし……。
穴が閉じられる直前のことを思い出す。一際大きな穴。そこから姿を見せたのは……。
動悸が激しくなり、恐ろしい記憶がよみがえってくる。
「魔石はどうだった?」
クォンの問いかけに、我に返る。いけない、今は過去よりこの瞬間に集中しなければ。
「全て異常なし」
「うん、やったとすれば、チェック作業時に仕掛けていたんだろうね」
「二人がそう言うのなら、今は正常なのか」
こうやって無条件で信頼してくれるのも、嬉しいなあ。
「で? クォンは粉の調査、どうなってんの? どこまで進んだの?」
「詳細はまだだが、当然、粉の成分が違う。両方例の毒は入っていたが、これまでの毒とは違う。毒と薬は紙一重だから、粉が毒と決まった訳ではない」
「私だけで実験しても、正確なデータは取れないよね。他にも実験体にされている人、いるのかな?」
しかも交互に服用させる意味が分からない。
しばらく三人で議論していると、急にあることを思い出す。
「大事なこと、忘れていた!」
叫んで、両手を打ち鳴らす。リーンの魔法なら大丈夫だと思い、本当に忘れていた。すっぽり頭から抜けていたよ。
「ナンバー160は、どうしているの?」
「部屋から出られないことに気がつき、あがいている」
「ぷぷっ。僕の魔法をあんな奴が破れる訳、ないじゃん。無駄、無駄。無駄なあがき。ごくろうさま~」
リーンが吹き出す。この意見には同感。リーンの魔法に勝てるはずがない。リーンと対等にやり合えるのは、現時点では私だけ。
ナンバー160は誰の魔法がかけられているのか、分かっているのかな。テンパって分かっていない?
なんか優秀さを感じない。呪いや道具を作っているのは、彼ではないな。アパッタイは私たちの知識を凌駕する研究結果を出している。秘匿していたのか、それとも……。
なんだろう、嫌な予感がする。一体どんな人物がデュモルと一緒に行動しているの? 得体の知れない敵。これは初めて魔物が出現した時と同じくらい、怖い。下手をすれば、地球が滅びるような、そんな感じ。
一体私たちは今回、どんなモノを相手に戦っているのだろう。




