新たな情報
二人は紙を手に取り顔を寄せ合い、じっと見つめる。
「私は見覚えないけれど、あなたはどう?」
「記憶にないな」
精神魔法は相手と接触する必要がある。デュモル本人ではなく、アパッタイの一味が叔母たちに接触したのかもしれない。それか、昔のことだから忘れているのかも。
「実はこの男こそ、お二人に精神魔法をかけた疑いがあります」
「そうでしたか。てっきり私、実はチェールが魔法使いで、禁止されている魔法を使ったのかと思っていました」
「チェールには、魔力がありません。魔石を利用すれば可能ですが」
叔母はチェールのことを信用していなかったのか。チェールが噛んでいるのは間違いないが、今は伏せておく。
「魔法使い、長髪……」
ラゴー叔父さんがあごに手を当て、首をひねりながら呟く。
「なにか引っかかることでも?」
「ああ、いえ。実は私、他国の出身者でして。この国へ旅行に来た時、妻に惚れまして。この辺りの詳細を今は割愛しますが、色々あり、こうして妻と結婚できました。つまり、実家は他国にあり、実家とは連絡を取っています。この男の近くに、少女はいませんか? 無表情な」
「いえ、そういう情報はありません」
「では、人違いかな」
「どういう意味でしょう」
デュモルに仲間がいることは間違いないが、何人、どんな人物なのかは分かっていない。だから少女の仲間がいても、不思議ではない。
「いえ、数年前、母国に変な兄妹が出たという話を思い出しまして。兄は長髪の魔法使い、妹は無表情な魔法使いだったそうです。二人は困りごとがあれば魔法で助けると、色んな金持ちの家を突然訪ねて来たそうです。もちろん素性不明な相手なので、依頼する者は少なかったそうですが」
当然である。そんないかにも怪しそうな二人の話なんて、簡単に信頼して飛びつく者は少ないだろう。
「我が家は特に困ったことが起きていないと伝え、お引き取りしてもらったそうです。ごねることはなかったそうですが、対応した兄が言うには、あの二人は本当に兄妹だったのか怪しかったと。家族といえば、どこか独特な空気が漂っています。二人の仲は悪くなかったようですが、家族のソレではなかったと。それを聞き、変な詐欺師に引っかからないよう、注意するように言いました」
「それは……。お兄様の主観ですよね?」
「はい。ですが、同じように感じた知人はいたらしく、あの二人は、本当に兄妹なのか怪しいと話題になったそうです。それもあり、余計、彼らに近寄る者はいなかったと聞いています」
お兄さんだけではなく、他の人も……。
怪しいといえば怪しいけれど、長髪の男の魔法使いなんて、世界中にいる。クォンだって長髪だし。
「突然現れた二人は、当然警戒されました。ただ中には面白がり、依頼した者もいたそうです。まさに道楽ですね。ところが、兄の性格が非常に良くなかったらしく……。偉そうで、上から目線で。二度と頼むかと、道楽者は怒ったそうです。そういう道楽者を怒らせるのは珍しいので、覚えています」
性格が悪い?
デュモルに関する報告に、そんな内容があったような……。でも、魔法が使えるから偉そうにする長髪の魔法使いは、デュモルだけではないし。これだけでは決め手に欠ける。仕方ない。
「その依頼をした道楽者を、お兄様から紹介してもらうことはできませんか? 又は、誰が依頼したのか教えてもらえるだけでも、構いません」
一応、確認は取るべきだろう。
もしそれがデュモルだったら、妹と名乗る少女は、彼の仲間のはず。
「分かりました。それでは兄に連絡を取りますので、少し席を外します」
改めて叔母様と向かい合う。
つい数日前に知った、今世の叔母という存在。これまでの人生で叔母が何人いたかなんて、もう覚えていない。数えきれないので、忘れた人も多い。この人に関する記憶も、いずれ埋もれてしまうのだろう。だけど、ネッシュとレインにとっては、唯一の叔母と姪だ。
「母について、教えてくれませんか? どんな人が母親だったのか、知りたくて」
「もちろん構いません。姉は、良く言えば真面目でしたが、父には逆らえない人でした。そういう風に躾けられたとも言えます。だから当主の座を譲られても、我が家では、父の意見がこそ、亡くなるまで最優先されました」
どうやら今世の祖父は、独りよがりだったみたいだな。
「姉は、イロープとは命じられたので結婚したので、恋愛感情は互いにありませんでした。浮気が発覚してから、夫婦関係を続けることで私に愚痴ることはありました。それでも自分は誰かと結婚し、子どもを産まなくてはならない。後継者を作ることが、当主としての責務だと、よく話していました」
私を妊娠したということは、とにかく後継者作りのため、母は色々と我慢したのだろう。
ペリアはこういう所では、辛い法律を作ったものだ。直系という縛りがなければ、もっと自由に生きられるだろうに。でもペリアの人たちは、これが普通になっていて、疑問を感じないから不思議だ。
「子どもに罪はないと言っていました。父が亡くなって、真の意味で当主になってからは、イロープを見極めると話していました。子どもが産まれたら、覚悟を持つのではないかと。イロープは、伯爵の伴侶として、覚悟が足りない人でしたから」
そうだよね。母が伯爵ということは、その伴侶だから、母になにかあった時に動かなくてはならない。そういう姿勢を見せずに暮らしていたのだろう。とっとと追い出し、再婚すれば良かったのに。
「レインが産まれることは、楽しみにしていました。よくお腹の貴女に話しかけ、歌を聞かせていました。姉は、歌が上手でしたから」
「へえ。録音とか、残っていないのですか?」
「残っていないはずです。特に録音する理由もありませんし。でも、私が知らないだけで、なにか残してあるのかもしれません」
肖像画は見せてもらったので、顔は知っている。美しい人だったが、叔母様と比べ、どこか気弱そうな感じがした。法律で定められていなければ、後継者は叔母様だったかもしれない。叔母様は母より、勝気そうな顔をしているし。
いや、見た目で人を判断しては駄目だとは分かっているよ? でも権力者は、見た目で舐められては駄目だから。
「そういえば、あの家の使用人を全員解雇すると聞きましたが……」
「当然でしょう。私の姪……。当時は当主であった伯爵本人が虐げられているのに、無視をした人たちですよ? 雇い続ける義理も、理由もありません。しかも中には私の祖父や父の時代から仕えていた者もいました。彼らにも精神魔法をかけられていたら、解雇しませんでした。残念なことです」
「え? そんなに長く勤めている人が?」
彼らは、伯爵家に忠誠を誓っていた訳ではないのか。ただ賃金を得る職場という考えだったのかな。
でも、使用人という職業はその立場から、雇用主から信頼されて就ける仕事。それを自ら手放すなんて……。いや、長く勤めて、後は隠居するから関わろうとしなかったとか? 面倒事から逃げたのかもしれない。
「イロープが虐げているから、良いと思った。そんな馬鹿な理屈が通用するはずがありません。私へ連絡することもできたのに、その痕跡もありません。勤めていた者たちは、当主であるレインを蔑ろにした。すでに退職済みの者には、給金の返還を求めます。つまり、訴訟です」
うわー、今頃返還要求されるとは思っていないだろうし、きつい。でもそれだけのことをしたと自覚してもらい、罪を償ってもらわなければね。
「伯爵家から追い出す者たちにも、返還を要求します。当然でしょう。役目を果たさない者に、なぜ伯爵家が搾取されなければならないのです」
「素直に応じる者は、少なそうですね。いつから無法地帯になったのやら」
「それは分かりません。少なくとも私が結婚する前は、そんな人たちではなかったと思うのですが……。考えられるのは、チェールの影響です」
悪い見本が目の前にいたか……。あの人が率先して、私を虐げていたからなあ。たった一滴の汚水が全体に広がり、全てを汚してしまったか。
父の再婚後に勤め出した者たちは、私のことを虐げて良い存在として認識していただろう。そういう人は、環境がそうなっていたから仕方ない気もするけれど、叔母様は許さないらしい。
この辺りは、私がとやかく言う権利はない。
私は叔母様と血縁関係があるとはいえ、もう魔法使いの都の住民で、ペリアの政治に口出しはできない。きっとこの訴訟は、王にも認められるだろう。
要は、使用人という職業に就いておきながら、主人に対して舐めた真似をしたら、どうなるか分かったか? という、見せしめにもなるし。他の実は使用人について問題を抱えている家に対しても、有効だろう。行き過ぎて、使用人を奴隷同然に扱う家が出ないかは心配だけれど。そこは、国王たちに期待するしかない。
「兄と連絡が取れました。その男の写真も見せ、確認しましたが、例の兄妹の兄で間違いないそうです。当時から老けたが、目が変わっていないと」
叔父様が戻ってくると、重要な情報を得られた。これは所長たちにも伝えなければと、興奮する。




