粉が二種類もあった
「ねえ、偽物ってなに?」
会話が一区切りついたからか、妹が疑問を口にする。どうやら偽物と言われたことが、気になっているらしい。
両親は視線を合わせ、口ごもる。リーンは説明するのが面倒らしい。
「後で両親に聞きなよ。僕が説明するのは野暮ってもんだしね。だけど」
素早く動くと、リコラの杖を回収するなり魔法を発動する。妹の顔が歪むが、杖を取られて悔しがっていると勘違いしているのか、両親は特に反応を示さない。
「これはもらっていくよ。これ、誰が作ったのかな。元カレからもらったモノじゃない?」
「そうだけれど、それが?」
「これまた、僕が説明する義理はないなあ」
なぜリーンが杖を奪ったのか、私にも分からない。単純に、妹への嫌がらせかな?
「あと、厨房から例の粉を持ってきて。素直に従わないなら、床をぶち破って取りに行くよ。一週間、無残な館で過ごすのと、大人しく従うの、どっちがいい?」
リーンが黒い。真っ黒だ。リーンもなかなか良い性格をしているからなあ。
渋々とチェールは部屋が出る。この間、室内は誰も口を開かない。リーンは鼻歌を奏でながら、杖を回しながら眺めている。
しばらくして二つの瓶を持って帰ってきた。瓶が二つあることに驚く。中に入っている粉の色が違うのは、どういう意味があるのだろう。成分が違う?
「へえ、二種類あったんだ」
「ええ、毎日交互に料理へ混ぜろと言われたわ。厨房の者も従っていたはずよ」
今はまだ使用人たちへの話が終わっていないので、確認は取れないが、この人の命令に逆らっていないだろう。
毎日交互に粉を混ぜるのって、単純に面倒そう。一見で毒には見えないだろうけれど、どう言われて粉を料理へ盛るようになったのだろう。よく分からない粉を混ぜるのは、料理人として怖くなかったのかな。彼らにプライドはないのかと、問いたい。
「じゃあ、僕はこれで帰るよ。また機会があれば会おう」
そしてリーンは自分が破った窓から、魔法で飛び去った。
帰ってくると、杖を机の上に放り、瓶は丁寧に置く。謎の粉という大きな収穫に、興奮してしまう。これは成分を詳しく調べなければ。これはクォンが担当になるのかな?
「レイン、気がついた? この杖、すごいよ」
「どういう意味?」
「魔石が自動で交換されるんだ」
珍しく目を輝かせ、鼻息も荒くする。よほど興奮したらしい。
そういえば、確かに私の魔力とはいえ、大技の爆発魔法を何度も連発していた。一つの魔石で、それくらいの魔力が溜まるのかな、そんなにレベルアップして魔力量が増えたのかなと不思議ではあったけれど、違っていたのか。
「魔石の魔力が切れたら、勝手に魔石が変わってるんだ。しかも気づきにくい、まさに一瞬の芸当。多分、魔法陣を使って、指定した場所に蓄えた魔石と交換しているんだろうな。これ、良いと思わない? 楽だし、戦闘中は困らない。解析したいから、奪ってきた」
そう言うと、親指を立てるリーン。
ごめん。ただ、嫌がらせで杖を奪ったと思ったよ。でもそんなことは隠し、ナイスと笑顔で返した。
ナンバー49に仲間がいると思われているのは、こういった道具や呪いの開発が関係している。これまで彼は幾つもの人生で、こういった分野をあまり研究していなかった。だからこちら方面に強い仲間がいると、所長たちは考えている。
「呪いを作った魔法使いと同じだと思う?」
「判断が難しいなあ。両方手を出す人はいるし。ナンバー49の仲間が何人なのかも分からない。でも、これだけの技術を持つなら、他のナンバー持ちの可能性も高くなったね。あるいは内通者が作ったか」
魔法道具の開発研究をする者は珍しくないから、仮にナンバー持ちでもそこから仲間を割り出すのは、一苦労しそう。でも、これだけの道具を開発できる人なら、絞れるかな。だけどなぜ、ナンバー49と行動を共にしているのだろう。
内通者もそうだ。なぜナンバー49へ協力している? 弱味を握られている? それとも、自主的に?
そもそもアパッタイは、どういう理念のもと、活動しているのだろう。そこが分かれば、また彼らに近づける気がする。ただの愉快犯であってほしくない。
「杖を奪っても、魔石を使って魔法を使うのは可能だけど、これであの妹ちゃん、魔力切れを経験するようになるね」
そう言うと、リーンは愉快だと笑う。
そうか。勝手に魔石が交換されていたら、魔力切れを起こさない。だから余計、優秀だと評価されていたのか。だって魔力が切れないほど、膨大な魔力を持っていると思われるから。でもこれからは、その評価が変わる。妹が耐えられるか分からないけれど、同情はしない。
「そういえば……。各国、優秀な魔法使いを囲みたいじゃない? でも、国が家に来た覚えがないのよ。外で接触されていたとしても、あの愛人のことだから自慢をするはずなのに、記憶がなくて。魔法使いの都へ迎えられると言われたって、自慢はしていたけれど、どういうことかな」
「言われてみると、妙だね。なんで国が動かないの?」
「それも精神魔法が絡んでいるとか?」
二人で頭を悩ませていた頃、私たちより早くそれに気がついていた所長は、パクトと会っていた。
◇◇◇◇◇
「なぜレイン様の妹に接触しなかったか? そうですね……。はい、普通なら天災に対応できるほど優秀な魔法使いであれば、国で囲むように動きます。それはどの国も同じでしょう。しかし私を始め、誰も接触していませんでした」
改めて問われると、妙な話だと、パクトも首を傾げる。
これ以上は言わないが、魔法使いの都へ力を集中させたくないのは、世界各国共通の認識である。だからどの国も優秀な魔法使いを見つけては、魔法使いの都より有利な条件を出し、国に留めようとしている。
「精神魔法で、レイン様の実家に近寄らないよう、操作されていた可能性はありますか?」
「あるな」
「優秀な天才魔法少女が現れた話は、情報として把握していました。私の部下も同様ですが、補足しますと、直属の部下は全員、精神魔法をかけられていました」
レインの実家へ下手に関わり、彼女の不遇を知られたくなかったからか。それとも呪いについて気がつかれたくなかったのか。
(両方の可能性があるか。レインさんにというより、あの家に興味を向けないようにしていたのか? それでもリコラの活躍については、話が広まっている。家に近寄らせたくなかっただけか? 魔石の量も異常だったからな。魔法使いなら、あの溜まった魔力に気がつき不審がられる可能性は、十分にある)
レインの件は主に、チェールの思惑が大きく働いているだろうが、全体像としてのアパッタイの考えが読めない。
「まだ捜査は途中ですが、これだけ多くの者に精神魔法がかけられた事件は、過去にありますか」
「ここまで大がかりな事件は、前例がない」
ここで秘す必要はないだろう。調べれば分かることなので明かす。
「ネッシュの夫も精神魔法をかけられていたそうだな。あの領、全体はどうだった」
「領主代理も、一部かけられていました」
ネッシュが回していた領を調べ、帰ってくるなりアクチノとの面会が待っており、パクトは休めていない。だがここまで大がかりな事件、放っておけない。多少の無理も必要だろう。理由が判明しない限り、この国はまだ混乱に巻きこまれる可能性があるから。
この国で魔法使いを管理している者として、とても無視できない。
だがその本心が読めないため、パクトもアクチノにとっては、容疑者の一人のままだ。




