アクチノの聞き取り調査
プライトは王妃と並んで座り、アクチノとの会話を再開した。
今日はいつ精神魔法をかけられたのか。また、犯人は誰なのか。その調査による聞き取りである。プライト自身もこの聞き取りから、謎の解明を望んでいるのだがが、アクチノが相手では緊張が解けない。
前回アクチノが訪れた際、念のためにと王妃、ルティンも鑑定した所、彼女もまた精神魔法をかけられていたと判明した。
「恥ずかしながら、私もレイン伯爵は病弱だから人前に出られない。だから調査は必要ないと、なんの違和感を抱いておりませんでした。魔法が解けた今、思い返せばイロープは名ばかりの名代。ネッシュは領からほとんど出ず……。明らかに異常なのに、なぜ放置していたのか……。陛下同様、精神魔法の恐ろしさを実感しています」
「精神魔法がなぜ禁止されているのか、その身で味わったのでよく分かり、恐怖するのは当然だ。だが、はっきりと言う。お前たち二人は、魔法を使える。つまり、精神魔法をかけた犯人、または仲間の可能性がある。お前たち二人がただの被害者であれば、犯人はお前たち二人に近い人物だ」
アクチノの言葉に、二人は顔を見合わせる。
お互い信頼しており、そんなはずはないと言うが、アクチノは疑いを晴らしてくれない。
もし魔法が使えなかったら、きっと無罪放免となっていただろう。疑いを晴らすのは、一筋縄ではいかないようだと、プライトは内心疲弊する。それでも逃げず、会話を続ける。
「分かりました。身の潔白を証明するのは、まず後回しで……。まずはこちらをご覧下さい。所長からお預かりした道具を使い、パクトが城内の者を中心に調査をしました。その結果、肩書きのある者ほど、精神魔法がかけられていました。こちらが現在判明している者の、一覧表です」
プライトから提示された資料に、ざっと目を通す。確かに名前の横に役職名が記されている者が多く、どれも各部署の責任者と呼んでも良い者ばかり。
予想以上の人数だ。レインに興味を向けないだけで、他は上手く回っていたので、今まで異変に気がつかなかったのだろう。レインの記憶が戻らなければ、大変なことになっていたかもしれない。
「退職した者は?」
「そちらについても、やはり同様の結果となっております。詳細は後方に」
完全に狙っている。どこからもレインの家について疑問の声が出ないよう、操作されていたと分かる。
「ネッシュ伯爵が最後に城へ来たのは?」
「正確な記録は現在、調査させております。ただ、レイン様へ当主の指輪をはめる儀式には、参加しています。姉を亡くした彼女へ声をかけたことを、覚えております」
ルティンの返しに、プライトも親族はほとんど参加していたはずだと加える。
「ご存知の通り、我が国の法では、直系が後を継ぐとあります。しかし赤子が当主となるのは珍しい話で、あの儀式の日については、私もある程度は覚えております」
「ネッシュは姉を亡くす前年、先々代伯爵夫妻……。つまり、両親を亡くしています。相次ぐ身内の不幸に、声をかけずにはいられませんでした」
儀式には公爵家など、上位貴族の当主も祝いに来る。そんな者たちにも魔法はかけられているようだ。しかも儀式の日、城内には大勢が勤務していた。一気に対象人物へ精神魔法をかけるには、恰好の日と言える。
(だが、新たに人事異動で責任者になった者にまで魔法はかけられている。全ての人事を把握できる人物は、限られてくる。この二人も例外ではない。しかしこの夫婦がアパッタイの仲間なら、理由はなんだ? 政治に関して、世界からの評価は悪くない。国内の犯罪率は平均的。アパッタイの仲間、もしくは協力者になる理由が浮かばない)
二人の話を聞きながら考えていると、巨大な魔力が猛スピードでこの国に向かってくるのを感じ取った。
(なんだ、これは……! リーンさんか? なぜ?)
「しょ、所長……。こ、この魔力は……。なにが……」
二人も感じたのか、あまりに大きな魔力に怯えを隠せない。おそらくこの国の魔法使いたちが一斉に、同じように恐怖を覚えていることだろう。普段はリーンも魔力は抑えているが、これはほとんど全開放していると言って良い。
到着したかと思うと、つい先刻、アクチノが張ったばかりの結界をあっさり壊す。
分かっていても、落ちこむ。
(あの屋敷には、転移で出入りできないように結界を張ったつもりでしたが、直接ぶち破るとは……。リーンさんらしい大胆さですが……。しかしリーンさんが乗りこんだとなると、なにか屋敷で起きた可能性が高い。こちらの話を早めに切り上げるか? いや、逆にここで二人を拘束しておくか。アパッタイの仲間なら、なにか反応があるはず)
そうなると、どう言い訳したものかと考えた結果、直接的な脅しの言葉になる。
「始まりの魔法使いが虐げられましたからね。レインの家族へ仕返しをしに、都の者が来ただけだ」
「……ああ……っ」
恐れていたことが起きた。これから国内で、どんな惨状が広がるのかと、プライトは顔を青くする。
「安心しろ。狙いはレインの家族だけで、この国をどうしようとする気はない」
そうは言われても、安心できる訳がない。何者か分からないが、怒って乗りこんできた者が、それだけで満足してくれるとは思えない。自分たちだって精神魔法にかけられていたとはいえ、礼軍されているレインを放置していたのだ。仕返しをされる可能性がある。
だがアクチノはそれ以上、この話題に触れようとしないので、二人は黙る道を選んだ。
「では話を変える。イロープ、チェールと親しかった者たちはいるか? よく屋敷に出入りしていたような」
二人はまたも顔を見合わせ、悩んでいる。
「特に親しい人はいないかと。パーティーなど参列しても、リコラがいかに素晴らしい魔法使いかを語ることが多く、正直、辟易している者が多かったかと」
「だが、リコラは優秀な魔法使いになれると話題なのだろう?」
「はい。水不足の地に雨を降らせたり、季節外れの花を咲かせたり、とにかく話題にはなっていました。優秀さは皆、認めていますが、あまりに母親の自慢も酷く……」
この辺りは女性特有の情報網があるのか、ルティンが詳しかった。
「お茶会の招待客の皆様も言っておられました。領で災害が起きた際、助けてもらったので感謝はしているものの、あまりに傲慢な態度で、教育はどうなっているのかと。お抱えとして迎えるには、避けたいとも」
どうやらレインの妹は、かなり性格に問題があるらしい。
レイン自身は妹と関わることがなかったので、妹がどんな性格なのか知らないと語っていたが、活躍するたびに、義母が自慢そうに語っていたそうだ。当時は純粋にすごいと思い、自分のことのように喜び、褒めていたそうだ。
(その力の源は、レインさんの魔力ですけれどね。あの力があれば、天災に対処はできるでしょう。しかしそれだけでは説明できないなにかが……。引っかかる)
その引っかかりの正体が分からないまま、さらにお茶会で、高額な料金を請求されたと話題にもなっていたと聞かされる。
ネッシュからの送金以外にも、そうやって金を得ていたのかと、アクチノは呆れる。
(無職になった今、娘の魔法が頼りになるだろう。だが、貴族からの依頼は無理だろうな。王から睨まれた人物に依頼する者はいないだろう。加えて高額を要求されるのが分かっているのなら。別の手段を選ぶだろう。どのみち、あの一家の未来は明るくないな)
今のところパクトを信頼している体で、道具を貸して調査をさせているが、この調査で嘘は吐かないだろう。なにしろ後から都の者たちが、精神魔法を解くからだ。
パクトももちろん、犯人の候補者である。
(彼は魔法使いの都に拒まれたので、都を恨んでいる可能性がある。それでアパッタイに協力している可能性が、十分あるからな。動機はこの二人より大きい)




