元カレ兼幼馴染でした
「も、元カレ? 男? お、お前、まさか、浮気……っ。逢引きしていたのか?」
いやいや、父よ。怒っているけれど、貴方、前妻が生きていた頃から浮気をしていたではありませんか。自分のことを棚上げし、なに怒っているのです。自分がされて嫌なことを、するんじゃありません。
「違うわよ! この人の前妻がまだ生きていた頃、別れて何年経っていたかしら。たまたま再会して。お互い近況を話している時に不倫しているって話したら、なんとかしてやろうかって言われて。じゃあ、なんとかなるなら、お願いしたの」
なんとかして? 軽い口調だけれど、不穏な内容になってきた。
まさか今世の実母は、アパッタイに……。ナンバー49に、殺されたのだろうか。出産は命がけ。そこを狙われた?
「子どもが産まれてから、礼を言うために会ったの。その時、魔力について話したら、面白い魔法の構想がある。お前の子が有利になるようにしてやるって言われて。断る理由がないからお願いして。でもまだ完成していないから、完成したら連絡するって。それから連絡があって、病気で寝こんでいたレインに会わせて、魔力を奪う呪いをかけてもらったのよ」
あ、まさかあの時? あの見舞いの時に微笑んだのは、リコラが魔法を使えるようになると喜んでの笑いだったの? それを、前世を思い出していない私は、優しくされたと勘違いしたの? うわー、なんか恥ずかしい。
「最近になって、また向こうから、レインの料理に粉を混ぜて様子を見てくれって、頼まれて」
え? その粉って、まさか毒じゃない? リーンも同じことを考えたのか、確認をする。
「その粉がなにか、聞かなかったの?」
「聞いていないわよ。どういう反応になるか知りたいから、実験に協力してくれって言われただけ。あいつのことだから、どうせ尋ねても教えてくれないし。そういう性格の男なのよ」
まさかの毒を盛られた理由、実験。しかも黒幕はナンバー49。うん、やっぱり魔力を奪う相手に毒を盛る理由って、あり得ないよね。きっと毒だと知っていたら、愛人も断ったはず。……断るよね? 自信がない……。
「へえ、元カレだから、よく性格を理解してるんだね。で、その元カレの名前は?」
愛人は口を何度も開閉するだけで、声が出てこない。もちろんリーンは魔法を使っていない。
さらに白目を向き、言葉にならない声を出し始める。
まさか、精神魔法?
ナンバー49について語れないように、魔法をかけられている? でも元カレとか、悪事については語った。この話せる、話せない差はなんだろう。精神魔法は、完璧ではない? でもそうなると、国王たちの様子に説明がつかない。
すぐにリーンは衝撃魔法を放ち、軽く愛人の頭を揺さぶる。途端に愛人の目が戻る。
その様子を伏せ、質問を変えるリーン。
「元カレとは、どこで出会った?」
「どこって……。小さい頃、家が近所だった、幼馴染ってやつよ」
なにもなかったように、普通に受け答えする。さすがに父と妹もその様子に不気味さを感じたのか、顔を青ざめる。
「幼馴染の延長で、一度交際したけれど上手くいかなくて、すぐに別れたわ。その後、旅に出たのよ」
「旅? 目的は? 行き先は?」
「聞いていないわよ。ただ、旅に出ると言ってきたから、あ、そう。気をつけてね、とは言ってやったけれど」
愛人、雑な返事だな……。でもそれが許される関係なのだろう。恋愛関係ではないが、相当親しいようだ。
「あいつ、魔法使いとしては優秀だから、大抵のことは魔法で全部やっていたし。心配する必要なかったから」
「元カレの家族は? 生きている?」
「全員亡くなっているわ」
リーンも考えこんでいる。偶然亡くなったのか、なにかあって、ナンバー49が手にかけたのか。でも、自分の家族を殺す? さすがにそれはないと思いたいけれど、いつの世も犯罪者の思考は、理解できないので、可能性は排除できない。
とりあえずクォンに連絡し、チェールの出身地を中心に調べるように伝える。
「さて、と。今までのやり取りから分かったけれど、あんた、精神魔法をかけられているよ。でも、解けかかっている。きっと元カレについて話せないようにされていたんだろうけれど、今は一部話せる状態になっているね。精神魔法、完全に解こうか?」
「はあ? あいつ、私に精神魔法をかけていたの? なんて奴よ! 本当あいつ、性格が悪いったらないんだから! さっさと解いてちょうだい!」
まさか自分が精神魔法をかけられ、操られていると思っていなかった愛人、大激怒。
うわー、人には精神魔法をかけながら、自分がされるのは嫌なんだ。ものすごく自分勝手で見苦しい。だけど、こういう人だと納得してしまうし、父とお似合いだとも思う。
「だって、相手は犯罪者だよ? そりゃあ、自分について知られたくなくて当然じゃない? 口封じなんて、当然だよ。生きているだけ感謝しなよ」
呆れたようにリーンは言うが、それでも愛人の怒りは治まらない。ずっと文句を言い続けている。さすがにリーンの目も、冷ややかなものになっていく。
精神魔法については、実際に愛人を相手にしているリーンだから気がついたのだろう。映像からは、判別できない。ただ様子から、そうだろうとは想像できた。
いつか映像越しでも、精神魔法がかかっているか判別できる魔法道具を作る必要、あるかもしれない。本当はそんな道具なんて、出番がない方が良いけれど。




