ナンバー49は
……どうしよう。リーンが生き生きと、笑っている。愛人をぶっ潰す理由ができ、嬉しいのだろう。
男の確保へ向かうと言い、飛び出したけれど、きっと暴れたいという理由もあったはず。なぜなら、そういう人だから。分かっているけれど、今、そういう状況ではないよねと言いたい。本当、変わっていないんだから。
それでも気持ちを切り替える。
「さっきの映像、録画されているよね。至急、確認して! 顔認識で、一致する人物がいないかの調査を!」
リーンの動きから目を離さず、クォンに向かって叫ぶ。
「今回は魔法を使った犯罪者ということで、ナンバー持ち全員へ仕事を振って! クォンは現場を指揮! 誰か怪しい動きをしないかを見張ること! ダブルチェックじゃ甘い! 三人以上で同じ情報を確認させて!」
「分かった、任せてくれ」
所長が不在の今、始まりの魔法使いの私たちに、ここを動かす権限がある。
所長に連絡を入れたいが、今は王と話している最中。リーンが動いたことで異変に気がついただろうけれど、きっと何食わぬ顔をしてやり取りをしているだろう。
「所長、ごめん。勝手をして。でも、精神魔法を使う魔法使いを野放しにできない。顔が分かった以上、ここで情報を得る」
それに、所長なら私たちの行動を許してくれるだろう。アパッタイへの手がかりをここで失う訳にはいかないから。
顔を知った直後の今なら、内通者が情報源に操作はできない。いや、待って。もしも日頃から情報を操作していたら? でもその場合、誰がどのデータを触ったのか分かる。それはそれで内通者を知る手がかりになるので、それをもとに、内通者の調査ができる。
どちらにしろ、今が勝負。リーンが、どんな手を使ってでも男の情報を聞き出すだろうけれど、情報は一つでも多くあった方が良い。
「魔法使いの都の者は、魔法で相手を攻撃することはないと誤解している人がたまにいるけれど……。自分が襲われたら、そりゃあ、魔法を使って反撃するよね。あと、魔法使いだからって、魔法にだけ頼っているんじゃないんだよ、僕は」
リーンが魔法で、薙刀のようなモノを出す。刃は逆さで人は切れないが、腹にぶちこまれたら、かなりの衝撃を受ける。下手をすれば骨は折れ、内臓は破裂する。リーン愛用の武器だ。
薙刀を振り、刃が愛人の顔をかする。
切られはしていないが、熱が走り、頬に赤い線ができた。愛人も傷ついたと分かったのか、目だけを動かす。驚き、体を動かせないらしい。
「どうした。一体、なんの音だ?」
そこへ飛びこんで来たのは、父と妹。
「こ、これは、一体……?」
愛人がなにかを伝えようとするが、なにも聞こえない。父はうろたえる。
「どうした、お前。なにを言っているんだ? なにも聞こえないぞ」
まだ幼い妹は父に比べ、威勢が良い。子どもだから、ただの恐れ知らずの可能性もあるけれど。
「ママになにしたの、長袖女!」
魔法の杖を取り出し、杖の先をリーンへ向ける。
うーん、リーンに対して魔石一つで対抗する気かな。私から見れば、負け戦だけれど、この子は実力差が分からないのだろうな。というか、本来魔力を持っていないから、そもそも力量が分からないか。
というか、長袖女って……。私のことはガイコツと呼ぶし、この子、なんか妙なあだ名をつける癖でもあるのだろうか。
「あーもー、窓が壊れているし! ガイコツの部屋なんてどうでも良いけど、この長袖女がやったんでしょ? 家に入りこむなんて、あんた、泥棒? そんな奴は、これでもくらえ!」
泥棒云々も突っ込みたいが、爆発魔法を放つって、正気? 室内でその魔法を放つの? 相手がリーンじゃなかったら、この館が大破しますよ? ついでに自分も巻き添えを食らう可能性があると分かっている? 爆発魔法を放つだけで、防御魔法を展開しようとしないし。妹がアホの子で、頭が痛くなってくる。
リーンは慌てることなく片手をかざし、ぎゅっと手を握る。それだけで爆発魔法を消した。
「え? え? えええ?」
まさか爆発が起きないと思っていなかったのか、魔法の杖を何度も振る妹。同じ魔法を放つが、どれも爆発しない。まあ、リーンが魔石を上回る魔力で消し去っているからなあ。そもそも爆発魔法には、こういう対応できる魔法があることを、知らないのかもしれない。
「なんで? なんで上手くいかないの? なんで爆発しないの?」
焦った妹に、リーンは告げる。
「爆発する前に、僕が魔法で防いでいるからだよ。爆発を縮小させ、消しているだけ。説明は楽だけど、これができる魔法使いは少ないからね。君、レインの妹だよね? 偽物が、僕に勝てると本気で思ってる?」
「偽物? なにそ」
最後まで言わせることなくリーンは動き、薙刀の先をリコラの喉元に突き当てる。両親は驚き、叫ぶ。
「魔法に頼ってばかりだと、いざ魔力が切れた時、困るよ。自分より強い魔法使い相手でもね。君、魔力切れを経験したことある? 僕はそれで死にかけたこと、何度もあるよ。だから体術も取得したんだ」
初めの人生。まだ魔法に慣れていなかった頃、魔力切れを起こして死にかけるのは、珍しくなかった。中にはそれで命を落とした仲間もいる。
異界からの穴が閉じた段階で生き残った魔法使いは、たったの九人。この九人が始まりの魔法使いと呼ばれ、この魔法使いの都を作った。戦いの中で命を落とした仲間たちを、私たちはナンバー0と呼んでいる。
彼らの中には前世の記憶を思い出し、私たちに接触してくる人もいた。互いに生まれ変わった姿とはいえ、再会を喜び、抱き合った。そこで改めて私たちの仲間になり、ナンバーを取得した者もいる。クォンがその一人だ。
どういう理屈なのか不明だが、始まりの魔法使いと呼ばれないからか、ナンバー0は生まれ変わる回数が、私たちより少ない。でもそれ以外は変わらないので、通常の人より産まれた時から、魔法使いとしてレベルが高い。
そんなクォンが弟子にしたのが、今の所長。所長が自分を含めた四人は、内通者でないと言い切るのは、こういう事情もある。
クォンは一応、第二世代の魔法使い扱いとなっている。今さら始まりの魔法使いの一人として扱われたくないと、本人が望んだからだ。
「愛人ちゃん……。いや、チェール。あの男について語る気になった? 語らないと、本気で僕、この子を傷つけるよ? それとも自分の娘より、あの男を優先させる?」
「あの男?」
父は混乱している。体術を身につけていないのか、リーンに挑もうともせず、ただうろたえて、視線をあっちこっちへと動かし続けるだけ。
チェールは逡巡し、やがて頷いた。それでもリーンはリコラから離れない。
この人にも母性あったのかと、ぼんやり思う。胸に穴が開いたみたい。愛してもらいたかった頃の自分が虚しくなり、泣いているようだ。
「じゃあ、あの男について教えてもらおうか。まず、あんた、あの男の仲間?」
指を鳴らし、リーンは魔法を解除する。途端、愛人の声が聞こえる。
「仲間? 違うわよ。あいつは、元カレ」
ん? 今、なんて言った?
リーンも予想外だったらしく、目を丸くし、父は口をあんぐりと開ける。妹は怪訝な顔で、ついてこられないらくし、首を傾げるだけ。薙刀の刃が向けられているのに、豪胆だな。怖いもの知らずと言うより、こういう性格かもしれない。




