まさか、この男……
実父たちを貴族界から追放すると、あちらの国、ペリアールへ行った所長から報告が届いた。
精神魔法から解放され、なぜこの異常な状態を放置していたのか、精神魔法の恐ろしさを知った。これは後世に伝えると、国王は語ったらしく……。
「うーん、ただの無能な王様じゃなかったかぁ」
リーンは残念そうな声を漏らす。無能だった場合、喜々として乗りこんで糾弾するつもりだったに違いない。
今日は所長、国王へ聞き取りを行うためにペリアールへ行っている。そのついでに魔法道具を私の生家に放ち、休憩時間の合間に所長が連絡を取ってきてくれた。
「精神魔法の恐ろしさが語り継がれるのは、悪くないことです。さて、レインさんの生家、城にも監視用の魔法道具を放ちましたが、レインさんの生家は問題がありまして……」
「ああ、魔石でしょう? 私の魔力が溜まりすぎて、なにか魔法を使っても、判別しにくいよね。私の魔力に隠れちゃって」
「そうなのです。訪問して分かりましたが、魔石を溜めすぎです。これでは道具になにか異変が起きてもおかしくなく、なにかを見落とす可能性があります。十分、注視して下さい」
城には劣るけれど、それなりに大きな屋敷なので、あらゆる場所を精査するには、相当の道具を送ることになった。だけど私の魔力が館を充満していて、誤作動を起こす可能性がある。昔で例えると、強い太陽フレアや電子パルスによる、電子機器の不調、そんな感じだ。所長の言う通り、私の魔力が漏れるほど、魔石を溜めすぎ。魔法を使えないから、そういうのが分からないのだろうけれど、困るなあ。
所長との通信を終え、とりあえず送られてくる生家の映像を三人で、リアルタイムで確認する。
「あ、使用人部屋でなんか動きがあるみたい。音声を流してくれる?」
どうやら館の主の変更について、使用人へ伝達している最中のようだ。城から使いの者が来たらしい。
「皆様に関しては魔法使いの都から、なんら魔法をかけられた形跡はないと言われています。つまり、自主的に虐げられている当主を放置していたということです。誰からも、しかるべき機関へ報告された形跡もありません。そのような者たちを雇い続ける気はないと、ネッシュ伯爵はおっしゃっています」
叔母様、ナイスです。
そうなんだよね。この人たち、当主であり、まだ子どもの私への虐待を知らんぷりしていたんだもの。そりゃあ解雇されて当然でしょうよ。今さら後悔しても遅いの。逆になんで悲劇の人みたいに嘆いているの? そもそもこのまま私が成長して、当主として自覚が芽生えたら、どうするつもりだったの? 私が許して雇い続けてくれると、どうして思える?
とりあえず今度、叔母様へ会いに行こう。今世の母親がどんな人だったのか、気になるし。それに、いつアパッタイから精神魔法をかけられたのか、聞き取りを行う必要があるしね。
「これが愛人ちゃん?」
リーンが一人の女性を指す。
「そう」
「なんで地下に行ってんの?」
「さあ? ワイン室があるから、やけ酒でも、くらうつもりじゃないの?」
「うわー、やってほしい」
けらけらとリーンは笑う。
「だって、貴族界から追放ってことは、お先真っ暗だよね。しかも自慢の娘は、張りぼて。溜めた魔石を使い終われば、一巻の終わり。そりゃあ、やけ酒しちゃうよね」
「でも、私の魔力の魔石よ? 簡単には使い終えないわよ」
「まあねえ。どれだけ飲むか知りたいし、酔っぱらってなにか言うかもだし、僕、愛人ちゃんを観察する」
どこか楽しんでいる様子を見せるリーンを、クォンは冷たい目で見ている。だけど、リーンがこういう人だって、クォンだって分かっているでしょう? そう視線で伝えれば、諦めて別の部屋を観察すると言う。
私は実父を担当することにした。丁度、妹のリコラをなだめている所だった。
「なんで引っ越すの? どこへ引っ越すの?」
「なんで……。お前の姉のせいで仕方ないんだ」
はあ? なに言っているの、コイツ。反省していないの? 嘘の説明をするんじゃないわよ。つい、苛ついてしまう。
「あのガイコツにはなんの力もないって、言っていたじゃない! なんでガイコツのせいなの?」
え? 妹よ。ガイコツとは、私のこと? この子、私のことをそう呼んでいたんだ、へー。いや、確かに癒せすぎだけど。ふーん。
ほとんど交流がなかったから知らなかったけれど、あの両親の子として、残念な子に育っている。この性格だと、魔法使いとしても成功は難しいのでは?
だって、依頼してもこんな傲慢、我がままな態度を取られては、客は嫌がるよ。無職になったし、相場より高い報酬を要求しそうだし、顧客を得るのは厳しいだろう。根本をどうにかしなければならない。
さて、父は私のせいだと言ったものの、どう説明すれば良いのか困っている。
「その……。王様に会ったらしくてね」
嘘の上乗せ! ちょっと、父! 本当、こいつ、一発殴っても良い? いい加減にしてよね!
「ガイコツは家から出たことないじゃない! 王様が家に来たの? それなら、あたしも会いたい! 王様に会わせて! 会わせてよ、パパ!」
話がずれ始めた。まあ、子どもに説明するのは難しいというか……。単純に、自分たちが王様を怒らせたと伝える勇気がないのだろう。親の威厳を失うし。
「きっと王様は、すごい魔法使いになれるあたしに会いに来たはずだもん! なんでガイコツに横取りされるの? 魔法を使えない、ガイコツのくせに!」
地団太踏んでいるけれど、横取りしているのは、そちらです。この会話、聞いていると頭が痛くなってくる。本当、前世の記憶がよみがえり、逃げて正解だったと思っていると……。
「ん? ねえ、レイン。愛人ちゃん、愛人がいる?」
なんかリーンが妙なことを言ってきた。
「なんて? 意味が分からないんだけど?」
「愛人ちゃん、地下室で男と密会してる」
「え?」
クォンも駆け寄り、三人で映像を見る。
映像が送られている鏡には、確かに愛人と長髪の男が話している。でも、甘い雰囲気ではない。見るからに、愛人は苛ついているし。それに……。
「先生?」
男に、見覚えがある。
男の人なのに、腰の辺りまで伸びた長い髪の毛の持ち主。男の人でも、こんな髪型をするんだと、熱にうなされながら思い、鮮明に覚えている。
この時、なぜかいつも体調を悪くして寝こんでも無視するのに、愛人が見舞いに来た。そして私に、優しく微笑んでくれた。
前世の記憶を思い出す前は、もう一度、あの時のように笑ってほしいと大切にしていた記憶。あの時、特別な医者だと紹介されたが、あれ以来、一度も見かけたことがない男。家の主治医ではなかった? 研修医とか? 医者だと信じていたけれど、この人は、誰? 本当はなんの先生なの?
そもそも、診察された? 手をかざされ、なにか呪文を唱えられただけ。それで終わったと言ったから、てっきり治療してもらえたと思ったけれど、回復まで時間がかかった。診察でも、治療でもなかった? じゃあ一体、なんの呪文だったの?
「先生って?」
説明しようとすると、男の視線が真っすぐ向けられる。驚き、慌てたような顔をした直後、映像が切れた。
「え? なんで? 不具合? 今ここで? いや、これ、壊されたよね。隠蔽魔法かけていたのに、この男、道具に気がついた? 気がついたよね?」
これを皮切りに、館へ送った魔法道具が地下から上の階に向かって、次々壊されていく。
「まさか……。こいつが、ナンバー49……?」
自然と言葉が漏れた。




