エピソード01:神様
「蛍さん蛍さん。新居はどう?」
引っ越しも終わって新居にも慣れ始めてきた、そんなある日。
佐伯さんが電話でこんな事を聞いてきた。
「え?まあ、普通のワンルームですし、まあまあですかね……?」
「そっかそっか。腕ももうだいぶ治って来た?」
「そうですね。ギプスも取れましたし……完治にはもう少しかかるみたいですけどね」
「そっかあ。早く治るといいねえ」
……何か変だ。佐伯さんがこんなどうでもいい雑談のためだけに電話をかけてくる事はあまりない。
何か言いづらい事でもあるんだろうか?
「佐伯さん」
「ん?どうかした?」
「どうしたんですか?何か言いづらい事でもあるんですか?」
「えっ!?えーっと、いやー……バレるか、やっぱり」
どうやら本当に何か言いづらい事があるらしい。
「で、どうしたんです?」
「いやー、実は……依頼を頼みたいなー、なんて……」
「依頼はいつも受けてるじゃないですか」
「それが、今回はちょっと大変そうなのよ。一応他の人にも頼んではみたんだけど……皆怖がって断られちゃうのよねえ」
「そんなにですか……。どこなんです?」
「……神社」
「もしかして……神様系ですか?」
「それがわからないのよ……」
確かにこれは難しそうな案件だ。さすがに神様相手かも知れないとなると、他の人が断るのも頷ける。
ごく稀に神様が怒って災いを振りまく事はある。そういう時は神主やそれに準ずる人が儀式をして鎮めるのが普通だ。
もし今回がそのケースだとしたら、俺の出る幕ではないはずなんだけど……。
「神社なら、神主がいるんじゃないですか?」
「廃墟なのよ。今は管理する人間がいないの。ちなみに、よその神主にも頼んでみたんだけど、断られちゃった」
「廃墟の神社……そこに祀られていた神様が、放置された怒りで災いを振りまいている……そういう感じですか?」
「起こった出来事だけ見たらそんな感じになるわ」
「ちょっと待ってください」
佐伯さんに断りを入れ、スマホを一旦遠ざける。
「聞こえてた?皆はどう思う?やれそう?」
うちの子達は任せなさいとばかりに頷いている。
完全に理解しているかはわからないが、本人達が大丈夫と言ってるなら大丈夫なのかも知れない。
幽霊は神様の存在を知っている。これは以前俺がうちの子達に聞いた。
神様は存在するかと言う問いに、全員が頷いたのだ。
ただ、俺達が思っているような存在ではないらしいところまでは聞けたのだが、それより詳しい事は聞けなかった。
そんなうちの子達が大丈夫だと言うなら、信じてみよう。
「うちの子達に聞いたんですが、大丈夫そうです。自信ありそうな感じなんで、何か知ってるのかも知れませんね」
「ほんと!?たすかるー!現場はいつも通りメールで送るから、よろしく!」
電話を切って出かける準備をする。
すぐに現場の詳細が書かれたメールが届き、俺はタクシーで現場に向かいながら内容をチェックするのだった。
タクシーを降りると、目の前には廃墟。
元は神社だったであろうその廃墟を前に、俺は嫌な予感を感じていた。
「これは……ほんとに大丈夫なのか?もうすでにめっちゃ嫌な予感がするんだけど……?」
明らかに普通の空間ではない。敷地内には動物はおろか虫の気配すらない。
俺は恐る恐る敷地内に入って行く。鳥居をくぐり、建物の中へ。
この小さな神社は拝殿と本殿が一体になっているタイプだ。中は荒れ放題で、床もところどころ穴があいている。
本殿に入ってから耳鳴りがすごい。明らかに拒絶されている。
これ、本当に大丈夫なのか……?
うちの子達は落ち着いている。これも変だ。何でこんなに落ち着いてるんだ?
一通り本殿を調べてみたが、見た感じおかしい所はない。
一度外から見てみようとして振り向いて、
――世界が闇に呑まれた。
「なんだ!?」
右を見ても左を見ても何もない。
振り返っても何もない。
俺は焦って周囲を見回すが、どこをみても真っ暗だ。
これは……もしかして俺は神隠しにあったのか?
スマホを取り出してみてみるが、圏外だった。どうするか……。
「皆、落ち着いてる場合じゃないぞ?神隠しにあったかも知れない」
焦る俺をよそに、うちの子達は落ち着いた様子で首を横に振っている。
「皆なら、なんとかできる?」
俺の問いに、うちの子達は自信あり気に頷いている。大丈夫らしい。
「じゃあ、頼んで良いか?さっきから何も見えなくて息苦しいんだ。多分、精神的な物なんだろうけど」
俺が頼むと、うちの子達は一斉に俺から離れ、床に潜り込んで行き――
そしてすぐに戻って来た。……女性に見える何かを拘束しながら。
「それが、今回の元凶なのか?」
皆一様に頷いている。
「その人は、神様なのか?」
今度は首を回すように曖昧な反応をしている。
こういう時は『部分的にそう』と言うことだ。
「部分的には神様……ってことか」
これには頷いた。
「……とりあえず、皆に任せるから解決してくれ。今後こういう事が起きないようにしてくれればいいから」
何にせよ、俺はうちの子達に任せるだけだ。
うちの子達はすぐに行動を開始した。一斉にその女性に見える何かの中に入って行く。
「――ッ――ッ!」
女性は苦しそうに悶えている。やがて女性は膨らんでいき、
風船が破裂するように弾けて消滅した。
中から飛び出してきたうちの子達は、すぐに俺に絡みついてどうだ見たかと蠢いている。辺りの景色が元に戻り、嫌な気配も消えた。終わったか……。
佐伯さんに解決した事を伝えると、それはもう喜んでいたのだった。
後でうちの子達からイエスノーで聞き出したところによると、あの女性は神社に祀られていた神様ではあるが、本当の意味での神様とは違うらしい。信仰された事で無から誕生した神の一種なんだと教えてもらった。
弾けて消えてしまったが、元々存在しないものから生まれた存在のため、またすぐに同一存在として生まれなおすから問題ないんだそうだ。
俺は佐伯さんに神社を復興させてしっかり儀式を行うように伝え、今回の依頼を完了とした。
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