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よろず屋K(旧版)  作者: やしき丸
オムニバスエピソード

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エピソード02:マジウケル

「どもー!神月(かみつき) (あずさ)でーす!よろー!」


「……」


「ってか、なにその幽霊の数!ウケるー」


「……」


目の前の女子高生は俺を見て笑っている。ウケるらしい。うちの子達は今にも襲い掛かりそうな程威嚇してるけど。


今回、何故俺が女子高生と一緒にいるかと言うと、佐伯さんに頼まれたからだ。




遡る事三日前。佐伯さんから電話がかかってきて、こんなお願いをされた。


(けい)さん。ちょっと頼みたいことがあるんだけど……」


「なんです?」


「研修をお願いできないかな?」


「研修?なんのですか?」


「怪異退治の研修。実は、とある退魔師の家の子の実地研修先を探してほしいってお願いされてて……。蛍さんにお願いできないかなーって」


何かを教えるなんて無理だぞ?俺は基本うちの子達にお願いしてるだけだし。

それに……


「自分の家で教えたらいいんじゃないですか?」


自分の家の子の面倒は自分達で見た方がいいだろう。


「それが、外の世界を知らなければ井の中の蛙になってしまうからって。外部にお願いしたいらしいのよ」


「はあ……」


「何とかお願いできない?本来の報酬に加えて依頼主からも報酬が出るからおいしいわよ?怪異も大した事ないし」


報酬がおいしいのは良いけど、どうするかなあ……。


「何かを教えるのは無理なんで、ただ見てもらうだけになりますけど、それでもいいなら……」


「大丈夫。退魔の術は自分達で継承していくだろうし、こういう世界もあるんだって言うのを見せてくれるだけでいいわ」


それならまあいいか。



そんなわけで佐伯さんのお願いを了承し、そして待ち合わせ場所にやってきたのが、この女子高生(かみつきさん)というわけだ。


見た目は普通だ。髪を染めているわけでもない。むしろとても綺麗な黒髪だ。

薄く化粧をした顔は可愛らしく整っていて、学校ではさぞやモテるだろう。


だが、放たれる言葉がすごい。ウケるとヤバイが必ずついてくる。

最近の高校生は皆こうなのかと俺は戦慄したのだった。


神月さんを見たうちの子達は、それはもう怒り出してぐるぐると俺の周りを(うごめ)いているし、女子高生はそれを見てウケている。


「(大丈夫かなあ……)」


俺はかなり不安になりながらも、とりあえず依頼はこなそうと現場に向かうのだった。


「ってか、蛍さん。そんなに憑いてて苦しくないの?」


神月さんはずっとハイテンションで話しかけてくる。うちの子達が怒っているのであまり話しかけないで欲しい……。


「初めて見たよそんな大勢憑いてるの。マジウケるんだけど」


「……皆、落ち着け。これは仕事だ。今日だけなんだから、手を出したらだめだぞ」


今にも襲い掛かりそうな剣呑な雰囲気で蠢いているうちの子達をなだめる。


「へー。蛍さんの言う事はちゃんと聞くんだ?え?ちょっと待って。この数の幽霊を使役してるってこと?何それヤバ!マジウケるんだけど」


「神月さん。うちの子達は生きてる女性の事が嫌いだから、あんまり刺激しないでほしい」


「はーい!研修おもろ!これ見れただけでも研修来た甲斐あったわー。後はちゃちゃっと怪異退治して終わり!楽勝すぎー。マジウケる」


そんな神月さんを連れて現場に到着した。

今回の怪異は特に変な物ではない。蛇に憑依されて錯乱する人が続出している。なのでそれを退治してほしいと言う物だ。


今のところ現場周辺におかしな所はない。

怪異は突然姿を現すので油断はできないが。


「ねー蛍さん。まだー?飽きたんだけどー」


神月さんは早くも飽きたらしい。現場に出るのはこれが初めてらしいから仕方ないのかも知れないが、もうちょっと真面目にやってほしい……。


それから更に少し待ったが、異変は起きていない。

神月さんはすっかり飽きてスマホを弄っている。


「蛍さーん。帰っていい?全然でな――ッ!」


神月さんが言いかけた瞬間、物陰から何かが飛び出してきて神月さんの体に入って行った。


「な、何、これ……く、苦し……たす、け」


神月さんが苦しそうにもがいている。隙だらけだった神月さんに憑依するために入り込んだんだろう。


「あー……。神月さんに入っちゃったか。……皆、頼める?」


お願いするが、うちの子達は嫌そうにしている。

神月さんはうちの子達にすっかり嫌われてしまったらしい。


「嫌いなのはしょうがないけど、一応怪異を退治するのが依頼だからさ。お願いだから助けてあげてくれ」


うちの子達は本当に嫌そうに神月さんの体の中に手を突っ込んで一匹の蛇を取り出し……そして、躊躇なく引きちぎった。


「ゲホッゲホッ」


神月さんは苦しそうに咳き込んでいる。


「神月さん。怪異は退治したからもう大丈夫だよ」


やがてゆっくりと立ち上がった神月さんは、神妙な顔つきをしていた。


「何それ……。何それ何それ……。マジウケる……」


神月さんが壊れた。


「神月さん?」


「蛍さん!何今の!?マジヤバいんですけど!」


それから駅で別れるまで、神月さんはずっと興奮した様子で「マジヤバい」と「マジウケる」しか言わなくなってしまった。




後日佐伯さんから電話があって、神月さんはこれまでとは打って変わって真面目に修行に励むようになったそうだ。


うちの子達を見て『外の世界』を知った結果らしい。

親御さんにすごく感謝されたと佐伯さんは喜んでいた。

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