第七話
「蛍さん。大丈夫だった?なんかあちこちから連絡がきて、結構な騒ぎになってたわよ?」
依頼の完了を伝えるために佐伯さんに電話をすると、こんな事を言われた。
「(そりゃそうだよなあ……。あの時、現場周辺は世界が破綻しかけてたし。)」
超強力な呪詛を撒き散らしてくれたので、危うくあの辺りは文字通りの更地になるところだったのだ。その余波は当然かなりの広範囲に影響を与えたはずだ。
オカルト系に敏感な人は皆気付いて、そして慌てただろう。
「適当に誤魔化しはしたけど、今後はできるだけ手加減してもらってね?蛍さんに憑いてる霊が討伐対象になりかねないから」
「一応言い聞かせはしますけど……瞬間的に我を失いやすいので、確約はできないですよ?」
「まあ、最悪今回くらいまでなら誤魔化せるから、せめて実害だけは出さないように何とか抑えてちょうだい」
電話を切ると、うちの子達が俺のご機嫌を伺うように、ゆっくりと蠢きながら俺の体を撫で回し始めた。
やりすぎた事は理解しているのだろう。それで怒られないように、俺の機嫌を取ろうとしているのだ。
「まあ、今回は最後に俺の声を聞いてくれたからもういいよ。でも、次からはやりすぎないように。わかった?」
俺がそう言うと、うちの子達は皆一斉に首を縦に振った。
ほんとにわかってるんだろうか。……わかってないんだろうなあ。
元より幽霊は複雑な思考は苦手だ。
鍛えたとはいえ、今でも一つの思考に染まりやすい。
これからも、その都度俺がコントロールしていかないといけないだろう。
幸いな事に、俺のお願いは大体聞いてもらえるし。
ベッドに横になり、一人一人ハグしたり撫でたりしながらコミュニケーションをとっていく。
「ほんとは皆も怪異退治なんかしないで俺とまったりしたいんじゃないか?」
うちの子達は答えない。答えないのが答えなんだろう。
§
数日が過ぎ、依頼もなかったので俺はうちの子達とまったり過ごしていた。
うちの子達は何もない時に外出するのを嫌がるので、自然と自宅でまったりする事になるのだ。
午後になって佐伯さんから電話がきた。
「蛍さん。ちょっと大きな仕事の依頼が来てるんだけど、やってくれる?」
「大きな仕事?どんな仕事ですか?」
「今回の仕事は、除霊よ」
「除霊で大きな仕事ってことは……」
「そう。力を付けた悪霊の除霊をお願いしたいの」
怪異系の依頼を受けるようになって大きな仕事が来たと思ったら、幽霊関連とは……。
「元々俺は幽霊専門ですからね。受けますよその依頼」
「かなり強力な悪霊で、すでに霊能力者が何人かやられてるから、気を付けてね」
「任せてください」
電話を切ってしばらくすると、現場の詳細がメールで送られて来た。
悪霊化した幽霊はかなり強力だ。呪いを振りまき物理的なダメージを受ける攻撃もしてくる。もちろん鍛えに鍛えたうちの子達と比べたら弱いんだけど。
最近かなり稼いだので、今回も贅沢してタクシーで現場に向かう。
今回の現場は、とある民家。殺人事件があった現場だ。
家を管理している不動産屋には連絡してあるとメールには書かれていた。
鍵の場所は……あった。
玄関横の植木鉢の下に鍵が置いてあったので、それを使って中に入る。
家の中に入った瞬間、濃密な死の匂いが漂ってくる。……これはまた、玄関まで漂ってくるとは……。
俺は構わず家の奥に入って行き、事件があったリビングへ。
そこには、この世全てを呪っているかのような、怒れる悪霊が立っていた。
俺がリビングに入ると、すぐに悪霊が反応し、部屋がガタガタと音を立てて揺れる。
「皆。何があっても絶対に何もするなよ?」
うちの子達に先に伝えておく。うちの子達は心配そうに俺の体に絡みついて蠢いている。
「やあ。どうも。俺は逆木葉 蛍。君と話しに来たんだ」
「――――――ッ!」
悪霊は返事の代わりに俺に対して攻撃を仕掛けてきた。
「……ッ!……大丈夫。俺は敵じゃない。君を助けに来たんだ」
悪霊の力は強い。俺の腕の骨は簡単に折られてしまった。
うちの子達は、あらかじめ俺が言った事を守っている。心配そうに蠢くスピードは上がっているが、今のところ悪霊を攻撃する気配はない。
「君に起きた悲劇には同情しかできない。でも、死んだ後も縛られるのはあまりにも可哀そうだ。そのままにはしておく事はできない。……死んだ後は、生きていた頃の苦しみからは解放されるべきなんだ」
「――」
悪霊は答えない。だが、攻撃もしてこない。
「俺は、君が落ち着いて平穏に過ごせるようになるまでの居場所を提供してあげられる。全て忘れろとは言わない。だけど、これからは何に脅かされる事もなく、平穏にすごさないか?」
俺は悪霊に近付いて、折れていない方の手を差し出す。
「――」
悪霊は迷っている様子だ。
「俺に憑いてる子達が見えるだろう?その子達に聞いてみると良い。居心地はどうだ?って」
悪霊の返答をじっと待つ。そして、
――悪霊が俺の手を、取った。
俺の手を取った悪霊、もとい女の子は、確かめるように俺の体に絡みついて蠢き、そして自分が折った俺の腕を申し訳なさそうに撫でる。
……めっちゃ痛いから触らないでほしい。
新たに加わった女の子は、空いていた俺の左肩に落ち着くと、顔をこすりつけて甘えてきた。
この子はもう大丈夫だ。
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