第六話
「依頼主は警察なの」
警察……いきなりでかい案件が来たな。
「と言っても、内密の依頼だから蛍さんが依頼主に会う必要はないわ」
「そうですね。むしろ下手に会ってる所を見られるのはまずい」
「その通り。蛍さんは直接現場に向かって、怪異を退治して帰ってくる。それだけでいいわ」
警察がオカルトの依頼を出してるなんて知られるわけにはいかない。実際に怪異が発生しているとしても、世間は許してくれないだろう。
「神奈川県の御霊川市玉川町の住宅街。これか今回の現場よ。神隠しが起こっていたらしくて、その捜索中に怪異に遭遇したみたいね」
「神隠し……」
「捜索中に怪異に遭遇した警察官は5人。いずれも重症を負って入院してる。遭遇したのは大きな目玉の化け物だったと全員が揃って証言してるわ」
「目玉の化け物……」
「何をされたかわからない内に大きな傷を負ったらしいから、何か能力を持ってるかも知れない。注意してね」
「わかりました」
神隠しの事もあるし、何かしらの能力があるのは確定と思っておいた方が良いだろう。うちの子達にも後で言い含めておかないと。
「報酬は、今回は100万円よ。その内私が仲介料で20万円もらうから、蛍さんの取り分は80万になるわ」
「80万!?」
「依頼主が大きいと、依頼料も跳ね上がるからおいしいのよねえ」
うちの子達が蠢いている。首を横に振ってアピールしている。
もっとよこせ、全部渡せとアピールしている。
「こら。仕事を紹介してもらうんだから、少し引かれるのは当たり前なの。ゴネるんじゃない」
うちの子達に向けて軽く叱ると、元のポジションに戻って俺の体を撫で始めた。
「さ、さすがに仲介料をもらうのは許してよぉ……。怒らないで、ね?」
佐伯さんはうちの子達を恐れているので半泣きになっている。
「大丈夫です。ちゃんと言っておきますから」
「お願いね?じゃあ、現場周辺の地図は送っておくから、頼んだわよ」
佐伯さんと鈴木さんに見送られて部屋を出て外に向かう。
現場まで結構かかるが、今から向かうと夕方過ぎには着けて、周辺を捜索していればすぐに夜になる。住宅街らしいので、夜の方が良いだろう。
電車に乗り込むと、まだ帰宅の時間には早いせいか結構空いていた。
向かいの席に座っている男性に、女性がからみついている。
女性はじっとこちらを凝視している。なるべく目を合わせないようにしてスルーする。憑かれている事に、男性は気付いていないようだ。
いきなり女性の霊をナンパするのも良くない。悪さをしているわけでもなし、ほっといていいだろう。
乗り換えも含めて1時間以上かけて着いた御霊川駅で降りる。
御霊川駅の周辺は栄えているようで、人も多く行き交っている。
送られて来た現場に到着した頃には夕方になっていた。早くも街灯が住宅街の道を照らしている。
「この辺りだな……」
現場の周辺をうろついてみて回るが、今の所異常は感じられない。
「いきなり襲われるかも知れないから、皆気を付けておいてね」
任せろと言わんばかりに頷く幽霊達。
しばらくうろついたが、何も起こらない。すでに辺りは暗くなっていて、住宅街なせいか人通りも少ない。
ふと、何か音が聞こえてきた。風が少し強くなってきた気がする。街灯が照らしているはずなのに。やけに暗く感じる。
ひゅるん、ひゅるん――
何かの音がする。
俺は何が来てもいいように身構えて、
見えない何かに斬りつけられた――!
「――っ!」
少し頬を斬られただけで、血もそんなに出ていない。深い傷ではないようで、すぐに行動不能になるものではない。
俺は集中して怪異を見極めようとして――
世界から、音が消えた。
誰も動かない。姿を見せた目玉の化け物も動かない。
まず、風が強くなった。台風かと勘違いしてしまいそうな強風が吹き荒れ、周りの住宅の窓が揺れて音を立てている。
更に空では急速に雲が集まり、ゴロゴロと雷が鳴り出した。街灯は点滅して今にも消えてしまいそうだ。
「――――――――ッ!」
聴覚では捉えられない呪いの叫びが響き渡り、世界が軋みをあげている。
「(まずい。まずいまずいまずいまずい)」
状況を察した俺は、頭を抱えた。
うちの子達が、ブチギレている。
明確に俺が攻撃され、それを防げずに俺が傷を負った。それでブチギレて力を解放しようとしている。世界を呪う破滅の呪詛がまき散らされている。
怪異はもういい。と言うかうちの子達によって今ちょうどひねり潰されたところだ。依頼は完了した。
そんなことより今は一刻も早くうちの子達を鎮めなければ。
怪異じゃなくうちの子達によって周辺が更地になってしまう。
今も異常は続いていて、うちの子達は世界を呪う呪詛をまき散ら続けている。
「(……俺の声が届くと良いんだけど)」
幽霊はたまに興奮状態になって、呼び掛けても声が届かなくなる場合がある。俺はその状態を『狂乱状態』と呼んでいる。今それになってしまうと、手の打ちようがなくなる。
「はあ。みんなやりすぎだぞー?余計な被害を出すようなら、ハグは一か月なしにするぞー?」
俺はあえていつも通りの口調で制止する。
俺の言葉を聞いたうちの子達は――。
世界に音が戻った。
風はやみ、雷雲は散り、街灯はしっかりと道を照らしている。
「ふう。ちゃんと聞いてくれたか。えらいぞ」
良かった。俺の声は届いた。俺が攻撃されて傷を負ったからだろうか。俺を気に掛ける心が踏みとどまらせたか。
依頼は達成したけど町は更地になりました、ではシャレにならないからな。
ギリギリ助かった……。
ここまでお読みいただきましてありがとうございます
もしよろしければ評価や感想をいただけますと大変励みになります
よろしくお願いします




