第五話
「早速なんだけど。蛍さん、一度会えない?」
怪異系の依頼も受けると伝えた次の日、佐伯さんが突然こんな事を電話で言ってきた。俺に憑いてる子達がざわめく。……やばい、ちょっと怒ってる。
「どうしたんですか?うちの子の事情はわかってると思うんですけど……」
「ええ。その上で、どうしても外や電話じゃ話せない仕事の話があるの」
「あー……。そういう事ですか。わかりました。どこにいけば?」
「前に一度来た事あると思うけど、私の事務所でいい?」
「わかりました。今日は午後からなら大丈夫ですけど、それでもいいですか?」
「ええ。今日はずっと事務所にいるからいつでも大丈夫。それじゃお願いね」
電話を切って、とりあえずうちの子達をなだめる。
「仕事の話なんだから仕方ないだろ?この仕事じゃ依頼主の都合で表で話せない事だってあるんだから」
うちの子達は、渋々頷いてくれた。本当に嫌そうにしているが、仕事だから仕方なく許してやるというのを隠しもしない。
「はあ……これから怪異の依頼が増えたら、こういう事も増えてくるから、慣れてくれよ?」
うちの子達は了承する代わりに、俺の体に絡みついて蠢いている。
嫌だけど。本当に嫌だけど、仕方なくどうしても耐えなければならない。そんな態度だ。葛藤している時によくやる動きなので、俺が生きている女性に会うのが本当に嫌で、それでも我慢しようとしているのが伝わってくる。
機嫌をとるために、今日はトレーニングを一旦休みにして、その時間をハグやスキンシップの時間に充てる事にした。
一人一人丁寧に構ってあげると、何とか機嫌も治ってくれたようだ。
昼御飯を食べて、そろそろ佐伯さんの所に向かう事にする。
佐伯さんの事務所は隣町にある。
昨日の報酬がすでに振り込まれていたので、贅沢をしてタクシーで向かう事にした。
佐伯さんは高級マンションの一室を自宅兼事務所として使っている。
前に一度訪れた事があるが、高そうな部屋だった。佐伯さんはTVにも何度か出た事があるみたいだし、相当稼いでるんだろう。
タクシーを降りて、マンションの入り口に向かう。
入り口で佐伯さんの部屋の番号を押してインターホンを鳴らすと、すぐに女性の声が聞こえてきた。マネージャーの鈴木さんだ。
鈴木さんは、日中佐伯さんの自宅兼事務所に通って佐伯さんの手伝いをしている。
名前を名乗ると、すぐにオートロックを解除してくれたので、中に入って行く。
さすが高級マンションと言うべきか、ここでもう一つ扉がある。
すぐ脇に窓口があるので、そこで身分証を見せなければならない。
身分証を見せると、受付の男性はどこかに電話をかけた。多分佐伯さんの部屋に確認してるんだろう。
確認が済んだのか、男性はすぐにボタンを操作して扉を開けてくれた。
身分証を返してもらい、会釈をして扉をくぐった。
運良く一階に降りていたエレベーターに乗り、佐伯さんの部屋がある8階のボタンを押す。
このマンションは10階建てだが、なんと最上階には一部屋しかない。その値段を聞いた時は驚いたものだ。さすがの佐伯さんもそこに手が届くほど稼いでいるわけではないらしく、8階の部屋に住んでいる。8階も2部屋しかないので相当だが。
8階でエレベーターを降りると、左右に玄関が二つある。二つしかない。
右の801号室が佐伯さんの自宅兼事務所だ。
部屋の前でもう一度インターホンを鳴らすと、すぐに玄関があけられて鈴木さんが出迎えてくれた。
「逆木葉さん。お久しぶりです。社長がお待ちですので、どうぞ」
鈴木さんに先導されて部屋に入って行く。相変わらずおしゃれな部屋だ。あまり派手さはないが、しっかりと空間をコーディネートしてある。
さりげなく絵画や小物が配置されていて、家具の位置も計算されているのを感じる。
……だと言うのに。
「蛍さん、待ってたわよー!ちょっと、また痩せたんじゃない?報酬振り込んだから、しっかり食べないとだめよ?」
そう言って現れたのは、佐伯さん。佐伯 浄里と言うのが佐伯さんのフルネームだ。
佐伯さんは部屋の良い雰囲気をぶち壊すかのように派手な格好をしている。
型の辺りで整えられた髪はアッシュグリーンに染められている。
一応スーツ姿ではあるが、どこで買ったのか、その色合いは非常にカラフルだ。
パッションピンクを基調に、色んな色で模様が描かれていて、正直見ていると目が痛くなる。そこに更にアクセサリーをじゃらじゃらと見に付けているので、落ち着いたお洒落な雰囲気の部屋に全く合っていない。
佐伯さんに促されるままソファに座る。
すぐに鈴木さんがお茶を持ってきてくれたので、一口飲む。
「早速だけど、依頼について話すわね。この話は絶対に外に漏らさないように気を付けて」
「わかりました」
「それと、ついでに今の内に言っておくわね。これから怪異を担当してもらうとなると、今回みたいに外に漏らせない案件が増えるから、そのつもりでいてね。まあ、蛍さんは一人だから大丈夫だと思うけど」
「うちの子達は漏らしようがないですし、俺もあんまり他人と接触しないですから、そこは大丈夫だと思います」
「オッケー。じゃあ本題に入るわよ?……今回の依頼主は警察なの」
警察……これはまた、いきなりでかい案件が来たな。
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