第四話
「助かったわあ!危うく私の経歴に失敗が付くところだったわ。ありがとね蛍さん」
「変な能力持ってるタイプじゃなかったんで、うちの子からしたら簡単だったでしょうけどね」
「ほんと蛍さん良い子に憑かれてるわねぇ。一人わけてくれない?」
「そんな事言ってるとブチギレられますよ?ただでさえ、生きてる女性と関わるのは嫌がるんですから」
彼女達もうんうん頷いている。この子達は、生きてる人間にかなりコンプレックスを持っている。特に俺が女性と関わるのを嫌うため、佐伯さんの事も嫌っている。
仕事だから許してもらえてるだけで、一人わけてなんて本気で言ったら、佐伯さんは恐ろしい目にあうことだろう。
「あ、あはは……冗談よ、冗談!私にそんな気はないですからねー?」
スマホから漏れる佐伯さんの弁明を聞いて、そうだろうそうだろうと頷いている幽霊達。
「蛍さん、幽霊専門やめて、オカルト全般に鞍替えしない?その方が稼げるし、私も助かるんだけど」
「……うーん。俺の力じゃないですからねえ……。うちの子に頼りっきりになるのに、普段からそういう依頼を受けるのは気が引けるというか……」
「蛍さんに憑いてる子達も、蛍さんには稼いでもらって良い暮らししてほしいんじゃない?」
頷く幽霊一同。彼女達は俺の暮らしぶりにはかなり否定的だ。
ボロアパートに住んで、貧しい食事。彼女達はいつも不満そうだ。
たまに外食しようかと言うと、喜んでうんうん頷くのだ。
「……どっちにしろ即答はできないです。相談してからですね。決めるのは」
「まあ実際怪異は蛍さんに憑いてる子達が相手するんだし、それがいいわね。ただ、オカルト全般の依頼を引き受けてくれるなら報酬も上げられるから、そこもよく考えてね」
「わかりました。それじゃ」
佐伯さんとの電話を終え、俺はベッドに横になった。
一斉に群がってくる彼女達。一人一人撫でたりハグしたりしながら機嫌を取る。
「皆やっぱり俺にもう少しマシな生活してほしいのか?」
皆一斉にうんうん頷いている。
「また今日みたいな変なやつを退治してもらうようになるぞ?それが普通の生活になる。皆は平気なのか?」
これは未だにどうしてなのかはわかっていないが、幽霊達は生きていた頃より精神的に幼くなっている。これまで会った幽霊は全員そうだったので、もうそう言う物だと思ってるが。
なので、幽霊は何かを思ったらすぐ行動にでてしまう。
寂しくなったらすぐに構えと甘えてくるし、機嫌を損ねたらすぐに痛みを与えてくる。なので、多分怪異の事も『変な奴』としか捉えていないと思うのだ。
危険がある事をわかった上で、これからも怪異の相手をしてもいいと思っているのか確認しないといけないだろう。ただでさえ怪異の場合は頼りっきりになるんだから。
「ものすごく危ないやつも相手にしなきゃいけないかも知れないぞ?まあ、ほとんどは相手にならないだろうけど……」
これでもまだ皆自信満々に頷いている。
そんなに俺の生活を変えたいのか……。
「わかった。じゃあ、怪異の方も依頼を受けるようにするからな?めんどくさいとか言っても、断れないからな?」
最後の確認をする。彼女達は最後まで自身満々に頷いていた。
「よし。じゃあ、佐伯さんに言ってそっちの依頼も受けるって伝えるから。報酬も上がるって言ってたし、このボロアパートから引っ越して、もう少しまともなメシ食おうな」
彼女達はそうだそうだと頷いている。
さっき切ったばっかりだが、もう一度佐伯さんに電話をかける。
「はいはい。蛍さんどうしたの?」
「話し合いが終わったので、お伝えしようと思いまして……」
「もう終わったの?まあ結果はわかってるけど、聞かせてくれる?」
「受ける事に決まりました。皆かなり乗り気でして」
「イヨッシ!いやー助かるぅ!ほんと怪異系は人材不足で困ってるのよー。ほんと助かる!ありがとう蛍さん」
佐伯さんはほんとに嬉しそうにお礼を言ってきた。
電話を切ってため息をつく。
『幽霊専門よろず屋K』の看板はこうして『オカルト専門よろず屋K』に書き換えられた。
一般的には幽霊も怪異の一種と捉えられる事も多いが、俺は幽霊と怪異は別の物としてこれまで扱ってきた。
幽霊は、ごくごく一部を除いて無害だ。精々気を引こうとして触れるくらいで、鍛えていない幽霊は力も弱くて自我も薄い。
とても人間を脅かすような存在とは言えないケースが多い。
例外もいるけど、そう言うのはほんとに稀だ。
それに対して怪異は明確に脅威になる。人間に危害を加えるし、最悪殺されたり連れ去られたまま帰ってこなくなったりする。
当然退治するのにも危険が伴うし、退治しようとして失敗して逆に殺されるなんて事もある。だから怪異系に対応できる人はいつだって引く手数多なのだ。
「君ら強いから大丈夫だと信じてるけど、ちゃんと守ってくれよ?」
俺自身は怪異に対抗する手段を持っていないので、正直なところ結構怖い。
びびっている俺を励ますように、憑いてる子達は俺の体を一晩中撫で回していた。




