第二話
「そう。じゃあうまくいったんだ?」
「はい。ただ構ってほしかっただけみたいだったんで、呼びかけたらすぐでした」
「へー。私にもそういう力があれば良かったんだけどねえ……」
「そのおかげで俺は助かってるんですけどね……」
「またそれっぽい依頼きたら回すから、よろしくねー」
「はい。それじゃ」
佐伯さんとの通話を切る。
さっきの依頼の報告をしていたのだ。
俺に憑いたお姉さんは、とりあえず俺の右肩で落ち着いたようだ。
混みあっているので、落ち着くまでは皆ざわついてしまう。俺としては仲良くしてほしいのだが、何故か幽霊同士は仲が悪い。
あっちへいけこっちにくるなと押しやられて、新人はなんとか場所を確保する事になる。
新人が入ったことでざわついてしまったので、今日は他の子達も構ってあげてご機嫌を取らなければ。
自宅のボロアパートに着き、早速ベッドに横になる。
「ハグしてほしい人は?」
そう問いかけると、俺に憑いてる子達が一斉に反応する。
早い順とルールを決めてあるので、一番早かった子から順番にハグしていく。
「いてて!ちょっと待ってなって。全員やってあげるからさ」
横を向いて一人をハグをしていると、脇腹に痛みが。
寂しさがつのると、こうやってアピールしてくるのだ。
「早く私もハグして!」と言いたいのだ。
痛みを与えてアピールするのはやめてほしいと何度もお願いしているんだけど、彼女達は独占欲も強いので、いつまで経ってもやめてくれない。
寝ているとたまに背中をがりがりと引っ搔いたりして邪魔してくることもある。
わざわざ俺の顔の前に移動してキスをしてくる子もいて、ちょっと息苦しい。
全員のハグが終わったら、今度はトレーニングの時間だ。
「さあ。今回こそは何か当てような」
俺は自分に憑いた霊を育成している。
まずは基礎からだ。
紙に数字を書いていき、ペンを持つ。
「今回は誰がやる?」
――すりすり。
俺の胸の辺りに顔をこすりつけている子が立候補した。
「Aちゃんか。よし。じゃあいつも通り数字を選んでね」
Aちゃんは俺に憑いている霊の中では最古参だ。
独占欲が強い子で、イエスノーで色々聞いた限り、他の子を出し抜いてでも俺を手に入れたいかと聞いたら、堂々と力強く頷いていた。
名前がAちゃんなのは、最初に霊に憑かれた時、精神の異常かイマジナリーフレンドの類だと思って適当に名付けてしまったから。
後になって幽霊だとわかり、呼び名を変えるか聞いたのだが、馴染んでしまったせいか首を横に振られてしまった。
元々名付けのセンスがないこともあって、俺に憑いてる子は適当な名前の子が多い。
そんなAちゃんにこれから何をしてもらうのかと言うと、『こっくりさん』の要領で数字を決めてもらうトレーニングだ。幽霊達が決めた数字で数字選択式のくじを買うのが俺達の習慣になっている。
物理的にペンを動かし、選んだ数字でくじを買って間接的に現世に影響を与えさせる。そうして幽霊達の力と自我を鍛えている。
最初は幽霊達もあまり考えずに一番右の列の数字を選ぶだけだったりしたが、しばらくすると長考するようになり、バラバラの数字を選ぶようになる。
数字の場所にペンを動かすのも幽霊達にとってはきつい作業で、一口分の数字を選ぶ頃にはへとへとになってしまう。
初めて試した時は何か特別な力が働いて当たるかもなんて思ったりもしたが、これまで一度も当たったことはない。
まずは少しでも物理的な現象を起こせるように鍛え、同時に考えさせる事で自我を覚醒させる。そして幽霊が選んだ数字のくじを買う事で、間接的に現世に影響を与えさせる。
独自に考えてやっている基礎トレーニングだが、これがかなりの効果がある。
初期はぼーっとしている子が多かったが、今では常にまとわりつくように霊達が絡みつき、隙あらば構え構えと甘えてくるようになった。
Aちゃんの後にも何人かのトレーニングをして、休憩する。
最近は霊達も何かしら当てたいらしく、長考するのでかなり時間がかかるようになってしまった。
パソコンの画面で霊達と一緒に動画を見ているとスマホが鳴った。佐伯さんからだ。
「佐伯さん?どうしました?」
「蛍さんて、幽霊専門だったよね?」
「そうですけど……」
「実は、ちょっと依頼を回したいんだけど、幽霊じゃないんだよねぇ……」
「幽霊じゃない?それなら他のオカルト系の人に頼めばいいんじゃ?」
「実はもう頼んだんだけど失敗しちゃって……。蛍さんと言うより、蛍さんに憑いてる子に頼みたい案件なの」
佐伯さんは俺に憑いてる子達の事もある程度知っている。
俺が鍛えた結果、ちょっと野に放ってはいけないレベルに育ってしまった子達の事を。
「うちの子に頼むって事は……怪異系ですか?」
「ええ。元は学校の怪談だったんだけど、それが変異して怪異になっちゃったの」
「……そうなると、除霊とか言う問題じゃないですね。退治しないと」
「そうなのよ。結構強いみたいで、頼んだ人は失敗しちゃって病院送り。一応生きてはいるけどね。それで、蛍さんのところの子に頼めないかなって」
「……うーん。ちょっと待ってください」
スマホを一回遠ざけ、
「聞こえてた?やってくれる人ー?」
――なでなで。
やってくれるようだ。彼女達はこれが俺の収入になる事をちゃんとわかっている。なので、積極的に協力してくれるのだ。
「やってくれるみたいです」
「ほんと!?助かるぅー!現場は後でメールで送っとくから。よろしくね!」
通話を切ると、体中をまさぐられる。霊達はやる気のようだ。
やりすぎないように気を付けないとな……。




