第一話
「それじゃ蛍さん、よろしくね」
「はい。それじゃ」
通話を切る。
俺の名は逆木葉 蛍。たった一人で『よろず屋K』を営んでいる。
よろず屋と言ってもかなり特殊な、『幽霊専門のよろず屋』だ。
今話していたのは自称霊能力者の佐伯さん。
俺の仕事は大体佐伯さんから回ってくる。
佐伯さんは霊能力者としては結構有名で、オカルト関係の依頼が引っ切り無しにくる。俺が自称と呼んだ事からわかるだろうが、佐伯さんはインチキ霊能者だ。
オカルトと関係ないものは自分が担当し、オカルトが関係してそうな依頼は、解決できる人間に回している。
それで大体解決しているので、今のところ佐伯さんの名声は地に落ちてはいない。
佐伯さんの最大の武器は、その人脈だ。
今回佐伯さんが回してくれたのは、アパートに幽霊が出るから除霊してくれと言うもの。
俺が住んでいるボロアパートから依頼主が住んでいるアパートまで電車で少しかかる。なるべく早くとの事だったが、今は深夜だ。
車の免許は持っていないので、明日の日中に行くとしよう。
翌日。
俺は1時間ほど電車に揺られ、今回の依頼主が住んでいるアパートに着いた。
アパートとは言っても、俺が住んでるボロアパートとは雲泥の差だ。
少し羨ましく思いながら、105号室のインターホンを鳴らす。
中からどたどたと音が聞こえてきて、玄関のドアが開けられた。
出てきた依頼主と思われる男性は、あまり寝ていないのか顔色が少し悪い。
「佐伯さんからの紹介で来ました。『よろず屋K』の逆木葉と申します」
依頼主と思われる男性は、不審そうな顔をしている。
「あの……佐伯さんは来ていただけないんですか?」
この人が依頼主本人らしい。
「佐伯さんはお忙しいので。こちらのご依頼は私でも対応できると思います。それでもどうしてもと言うことなら、私は帰りますが……」
「い、いえっ!疑ってるわけじゃないんです。ど、どうぞ……」
依頼主の男性はチェーンを外して俺を中に入れてくれた。
几帳面な性格なのか、部屋の中は綺麗に整頓されている。
「依頼内容は『幽霊が出て困っている。除霊してほしい』という事で合ってますか?」
「は、はい……。最近、夜寝ていると誰かに引っ張られるんです。寝る度に引っ張られるので、怖くて寝れなくて……」
「なるほど……姿は見ましたか?」
「いえ……で、でもっ!確かに誰かに引っ張られるんです!手の感触もしっかり感じます!ほんとなんです!」
俺に疑われていると思ったのか、依頼主は早口でまくし立てた。
「落ち着いてください。疑ってるわけじゃありません。それに、もう見えてるんで大丈夫ですよ」
「えっ!?」
依頼主が驚いている。
実はこの部屋に入ってすぐに原因はわかっていた。
依頼主の部屋の中に、20代くらいの女性が座っている。これが依頼主を引っ張った幽霊だろう。
幽霊は俺が部屋に入ってからずっとこっちを見ている。
「これから幽霊に呼びかけますので、途中で話しを遮ったりしないで、私が良いと言うまで黙って待っていてください」
俺がそう言うと、依頼主は何度も首を縦に振って、部屋の隅に移動した。
さあ、始めよう。
「さて、お姉さん。俺の声が聞こえるかな?」
幽霊は一度頷いた。
「この部屋の主を毎晩引っ張っていたって聞いたけど、何か伝えたいことでもあった?」
幽霊は首を横に振った。
「寂しくて構ってほしかった?気を引きたかった?」
幽霊は頷いた。特に強い想いがあるわけではないようだ。これなら簡単だ。
「じゃあ提案なんだけど、俺のところにこないか?見ての通り、俺の周りは賑やかでね。君がしばらく滞在する間は構ってあげられると思うけど」
幽霊は動かない。
「まだ居場所を決めたわけじゃないんだろう?俺なら君を受け入れてあげられる。触れる度に怖がられたりするのは、君だって嫌だろう?」
幽霊はゆっくりと頷いた。
俺は幽霊のお姉さんに手を伸ばす。
するとお姉さんは俺の手をとり、俺の体に絡みついた。
「……はい。終わりです。あなたを引っ張っていた女性は、私が引き取りました」
「え?もう、終わったんですか?話しただけで?」
「聞き分けのいい子で良かったですね。これでしばらくは大丈夫でしょう。ただ、憑かれやすい人と言うのはいるので、またもし何かあったら連絡してください」
「は、はい……ありがとう、ございました?」
依頼主はまだ実感がないようだ。まあ今夜寝た時にでも実感するだろう。
俺は依頼主から報酬の2万円を受け取り、アパートを出た。
今回俺に憑いた女性がもぞもぞしている。自分のポジションを探っているようだ。
まあ、10人以上憑いてるから、狭いのは我慢してほしい。
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