エピソード07:対談
「蛍さん。突然なんだけど、今日って空いてる?」
「どうしたんですか急に?依頼ですか?」
佐伯さんが電話でこんな事を言い出した。いつものことだけど、いつもとはちょっと違う雰囲気を感じる。
「依頼じゃないんだけど、ちょっと会ってほしい人がいるのよ」
「会ってほしい人?どんな人ですか?」
「蛍さんにちょっと似てる人って感じかな。幽霊じゃないんだけど」
「へえ。それはまた珍しい人ですね」
「最近知り合ったんだけど、蛍さんと対談してみてほしいと思ったの。どう?」
対談かあ。と言っても、俺達みたいなのの対談は動画になったりするわけじゃない。意見や知識の交換がほとんどだ。
ただ、俺に似ているという人には興味がある。
「わかりました。どこに行けばいいですか?」
「私の事務所でお願い。向こうにも伝えておくから、今日この後すぐってことで」
「わかりました。それじゃあ」
電話を切り、うちの子達の様子を見る。
特に変わった様子はない。落ち着いた様子で俺にすりすりしている。
「あんまり興味はない感じかな?俺に似てるらしいけど」
言ってみるが、やはり興味はないようだ。
◇◇◇
佐伯さんの自宅兼事務所に到着すると、相手はもう到着していた。
「お待たせしてすいません。よろず屋Kをやってます逆木葉と申します」
「どうも。妖精収集家の橘です」
妖精収集家?
「二人とも。話し合いはそこのソファでやりましょう。私は口を挟まないから、好きに話し合ってちょうだい」
佐伯さんに促されてソファに座る。マネージャーの鈴木さんがお茶を淹れてくれたので、それに口を付ける。
「逆木葉さんは、妖精をご存じですか?」
さっそく橘さんが聞いてきた。
「童話なんかで出てくるようなファンタジーなものですか?」
「いえ。あれは架空の妄想の産物で、実際は空っぽの容器みたいなものなんです」
「空っぽの容器……」
「人形と言っても良いかも知れません。目で見る事のできない人形。私はそれに人格を植え付けて傍においているんです」
橘さんを見るが、何も憑いていないようにみえる。
「始まりは偶然でした。私はたまたま妖精に人格を植え付けてしまった。私の願望がそうさせたんです」
「……」
「人格を植え付けられた妖精は、幽霊のように振舞います。力はありません。ただ傍にいるだけの見えない存在です」
「それって触れることはできるんですか?」
「触ると何かがある感覚はわかります。触れられると結構熱いですよ」
「へえ」
「それで、私は最初の妖精にお願いをしたんです。こういう属性の妖精を追加していってくれ、と」
「ふむ」
「最初の妖精は私の要望通りの人格を妖精に植え付けていき、今では私の周りには10人を超える妖精が侍るようになりました」
「それはまたすごい数ですね……」
「人格を植え付けられた妖精は、最初はひどく幼かった。しかし、話しかけ、構ってやり、色んな音楽や動画を見せて行くうちに精神的に成長しました」
「成長……」
「最初の内は『何もしたくない。何も起こらなくていい』と言っていた妖精たちは、今では『暇だ。退屈だ』と。そこまで人間に近い精神を持つに至ったのです」
「教育したわけですか」
「成長した事ではっきりと意志を伝えるようになった妖精たちに、私はかねてからの疑問をぶつけました。『君たちの人格はどこからきているのか』と」
「確かにそれはそうですね。返答はありましたか?」
「ええ。どうやら、元々人間だった意識体。つまり幽霊になる前の意識体を妖精の器に入れたらしいんですね。ですから、人格は完全に架空のものではなく、元々は誰かのものだった。記憶も一部引き継いでいるようなので、それで人間に近い振る舞いをするようになったらしいんです」
「意識体を……でも、それは……」
「元は違う人間だった人格を妖精に移し替える。私も最初は人道的にどうかと思いましたが、本人達は気にした様子もない。私のところに来てよかったと言っている。なので、あまり罪悪感を持たないようにしています」
「橘さんは妖精たち生みの親。そのせいで肯定的になっているのでは?」
「その可能性はあります。ただ、それでも私にできることは、私の元にきた子達をかわいがることだけなんです。戻す方法もありませんし」
「それもそうですね。ところで橘さん。私も妖精に触れることはできますか?」
「私に触れていれば可能です。やってみますか?」
妖精に触れる機会なんて滅多にない。これは是非触れてみたい。
「お願いします」
俺は指示に従って橘さんの腕を掴んだ。
「行きますよ?……エリー。ちょっとこの人の腕を撫でてあげて」
橘さんが呼びかけると、俺の腕を何かが撫でた。
「話しかけてみてもいいですか?」
「どうぞ」
「エリーさん。俺は逆木葉って言うんだ。橘さんと一緒にいて幸せかい?幸せだったら円を描くように撫でてくれ」
俺の腕を撫でる手は円を描いている。
「ありがとうございました。見えないだけで、ほんとに幽霊と似てますね」
「そうでしょう。ただ、物理的な力はどれだけ教育しても上がらないようです。ペットか子供のようなものですね」
「物騒な力がありすぎるとたまに困ることもありますし、それでいいのでしょう。末永く幸せに暮らせることを祈ってます」
「はい!ここまでね。蛍さんどうだった?」
「珍しい体験ができて良かったです。たまにはいいですね。知らない事を知るというのも」
「そうでしょう。橘さんも今日はありがとう。何か困ったことがあったら連絡してちょうだい」
「わかりました。まあ私は妖精に気に入られたくらいで他に特別なことは何もありませんので、これからも何もないでしょう」
橘さんはそう言って佐伯さんの事務所を後にした。
「世の中には色んな人がいるなあ」
うちの子達がさっきから怒っている。妖精とは言え、他の女の子に触れられたのが気に入らないようだ。
「妖精に嫉妬するなよ……」
俺は呆れながら、うちの子達の機嫌を取ったのだった。




