エピソード08:死神【劇場版風短編】
「何だろう……気味が悪いな」
最近、外に出ると何者かが俺の事を見張っている事に気が付いた。
声を掛けてくるわけでもない。ただじっとこちらを見ているだけ。堂々と道の真ん中に立っているので、隠れるつもりもなさそうだ。
「いっそこっちから声を掛けるか?」
独り言にうちの子達が反応した。首を横に振っている。『やめておけ』ということだろうか。
「そんなやばそうなやつなの?」
うちの子達が首を縦に振って肯定した。うちの子達がここまで言うのは相当なことだ。
どうやら俺はやばいやつに目を付けられたらしい。
「かと言って、このままにしておいていいものか」
うちの子達はうんうんと頷いている。ここで肯定?意図が読めない。
結局俺は皆を信じ、しばらく放っておいてみることにしたのだった。
それから三日後、動きがあった。俺を見ている男が前よりも近くで俺を見るようになった。
はっきりと顔も服装もわかる。老齢に差し掛かった男で、服装は上下ともジャージ。足にはスニーカーを履いている。近所の散歩でもしているような恰好だ。
男が感情が抜け落ちた表情でこちらをじっと見つめ、マンションのオートロックを抜けて中に入るまで、黙って俺の事を見ていた。
「近付いてきたな……放っておいていいのか?」
俺は不安になり、うちの子達にこのままでいいのかと聞いてみた。
うちの子達は頷いたが、少し自信なさげだ。こんな反応は本当に珍しい。いつもなら自信満々に任せろと蠢きながら頷くのに。
更に三日後、ついに男が声を掛けて来た。
「残り三日だ。お前は死ぬ」
男は無表情のまま、ただ淡々と俺の死を予言した。
うちの子達が男に襲いかかる。涼ちゃんが、Aちゃんが、ヴィヴィが、アイズが、普段は大人しいBちゃんまでもが男に絡みつき、身動きを封じてから体をバラバラに引き裂いた。
唐突に始まったスプラッタに俺が呆気にとられていると、逆再生のように男は元の姿に戻った。
「面白いものを飼っている。だが無駄だ。俺は死神。死の概念そのものだ。概念に死は存在しない」
そう言い残し、男は去っていった。
うちの子達は怒っている。怒っていはいるが、それは死神を名乗った男へというよりも、力及ばない自分達へ向けた怒りのように思えた。
「死神かあ。皆でもどうにもならないとなると、さすがに俺もダメなのかもなあ」
死ぬのは怖いが、俺は死の先を知っている。取り乱すほどではない。
うちの子達は否定も肯定もしないで、ただ俺の体の周りを蠢いているだけ。これは気遣いのパターンだな。
うちの子達はどんどん感情豊かになってきている。俺も皆の気持ちを汲み取るのがうまくなった。
もし俺が死んだら。この問いは何度もぶつけたが、皆の答えはいつも一緒だ。
『死んだ後もついていく』。それ以外ありえないとばかりに皆一斉に頷く。俺の傍はよほど居心地が良いらしい。
「明日だ。明日お前は死ぬ」
二日が経ち、男はついに明日が俺の最期だと予告した。うちの子達はまたしても男をバラバラに分解したが、すぐに元通りに再生して意味をなさなかった。
「明日だってさ。俺も皆の仲間入りかあ」
自分が死ぬときはもうちょっと何か強い気持ちでも湧いてくるかと思ったが、不思議と落ち着いている。多分うちの子達の存在があるからだろう。今も俺の周りをぐるぐると蠢いて、俺を励ますように撫でまわしている。
翌日。インターホンが鳴った。
カメラを見てみると、あの男だ。
「はい」
「そろそろだ。今から行くぞ」
放置しても無駄だろうと思って出てみると、男はついに俺の死が近いことを告げた。最後の抵抗としてオートロックは開けないでおいたが、多分無駄なんだろう。
少しすると今度は玄関のインターホンが鳴った。出なくても入って来るだろう。
俺は放置してコーヒーを飲みながら待った。
ガチャっと玄関が開く音がして、誰かが入って来る音がした。
(不法侵入……何でもありかよ)
やりたい放題の死神に内心呆れていると、ついに死神が俺の前に立った。
「時間だ。お前はこれから死ぬ」
男は腕につけた時計を確認し、どこから取り出したのか、大きな鎌を手に持った。
俺は諦めてその時を待ったが、うちの子達は違った。
俺に憑いている全ての子達が死神に襲い掛かった。涼ちゃんとAちゃんが男の鎌を押さえ、Bちゃん、Dちゃん、アイズ、ヴィヴィが男の体に絡みついて身動きを封じる。ゼータとジータ、うーちゃんとにぅまでもが男を攻撃している。普段俺の腰に抱き着いて動かないキューちゃんとエルーも死神の頭を押さえ、首をねじ切ろうと力を込めている。
皆が攻撃して死神をバラバラにする。再生。またバラバラにする。再生。延々と繰り返される光景を、俺は見ている事しかできない。
「皆……」
うちの子達は何度死神が再生しても諦めない。俺を死なせはしないという執念だけで、死の概念に立ち向かっている。
何度も繰り返すうちに、死神は鬱陶しくなったのか、勢いをつけて体を振った。うちの子達が振り払われてしまった。
しかしすぐさま皆は俺の前に陣取り、死神を警戒している。皆の執念がオーラのように立ち上って揺らめく。あまりにも強い執念が、空間をぐにゃりと歪ませている。
死神が腕時計を確認した。
「ふむ。時間が過ぎてしまったか……運が良かったな。そいつらに感謝しておけ」
そう言って死神は消えて行った。
「へ?」
あまりにも呆気ない終わりに、俺は間抜けな声をあげてしまった。
死神を警戒していた皆が、一斉に俺に飛び掛かって絡みつき、ものすごい勢いで俺の周りを蠢いている。
「うわっ!?ちょっと、待って皆!」
かつてないほどに高速で動くものだから、体を擦られてちょっと痛い。
それでも誰も勢いを緩めない。純粋な歓喜が伝わってくる。
「また守ってもらっちゃったなあ。……時間。そうか……皆、時間稼ぎしてくれてたんだな」
うちの子達は一斉に頷いた。勝てないとわかっていてなお、時間を稼ぐために必死に戦ってくれていたのだ。
「ありがとな。お礼に今日は、この後はずっと交代でハグしてあげるからな」
皆は一斉に頷き、俺の体に頬をこすり付けてくる。
死神の死の宣告を乗り越えたら、残りの寿命はどうなるんだろう。
そんな事を考えながら、皆に感謝のハグを送ったのだった。
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