エピソード06:憑いてる男
「蛍さん。ちょっと蛍さんに聞きたいことがあるんだけど」
佐伯さんが聞きたい事?
「何です?」
「何て説明したらいいか……幽霊との接し方?コミュニケーションの取り方って言うのかな……そう言うのって、教えられる?」
「うーん……。どうでしょう。人に説明するのは難しいかも知れません。かなり独特な自覚はあるので」
「そうよねえ……」
いきなりどうしたんだろう。
遂に佐伯さんも霊能力者として目覚めたとか?
「何かあったんですか?」
「それがね……相談が来たのよ。幽霊に憑かれたって言う相談が」
「まあ……いつもの事じゃないですか?」
「そうなんだけど、その人がちょっと変わってて、もしかしたら亡くなった妻じゃないかって言って、コミュニケーションをとりたいって言ってるの」
「あー……。なるほど。そう言うわけですか」
やっと合点がいった。
確かにそう考えたならコミュニケーションをとりたいと思っても不思議じゃない。
「それで、蛍さんならなんとかなるんじゃって思ったんだけど……一度、会ってみてくれない?」
「いいですよ。実際に憑いてる霊をみれば亡くなった奥さんかどうかもわかりますし、コミュニケーションをとる方法も何とか教えられるかも知れませんし」
「ほんと!?助かるー!じゃあ、蛍さんの連絡先教えておくから、よろしくね!」
電話を切った俺はうちの子達を一人一人見ていく。
「君らと同じようなタイプかも知れないぞ?会うの楽しみじゃない?」
こう聞いてみたが、うちの子達は首を横に振った。
相変わらず幽霊同士は仲良くできないらしい。
葉佩さんという男性から連絡をもらい、近くの喫茶店で待ち合わせをすることに。
喫茶店に入ると、お客さんは一人しかいなかった。
「失礼。葉佩さんですか?」
俺がそのお客さんに声をかけると、
「あ、はい。葉佩です。逆木葉さんですか?」
合っていたようだ。
「よろず屋Kの逆木葉です。よろしくお願いします」
お互いに挨拶を済ませ、ひとまず事情を聴くことに。
「少し前から誰かに触られているような感じがして……最初は気のせいだと思ったんですけど、段々その感触がはっきりしてきまして。それで、これはもしかしたら亡くなった妻じゃないかって思ったんです。会いに来てくれたんじゃないかって……」
葉佩さんの説明は佐伯さんに聞いたのと同じだった。
葉佩さんの方を見ると、女性の霊が葉佩さんに寄り添っている。
「奥さんの特徴を教えてもらえますか?写真があれば一番良いんですが」
「はい。写真があります……っと、これです」
亡くなった葉佩さんの奥さんの写真を見る。
……違うな。別人だ。
「残念ですが、奥さんではないですね。別の女性です」
「……そうですか……」
葉佩さんは残念そうに俯いた。
葉佩さんに憑いている女性は心配そうに葉佩さんを撫でている。
『亡くなった家族が憑いて守ってくれる』みたいな事がよく言われるが、実際にはそういう事例はほとんどない。
霊は生前持っていた感情をほとんど失っている。
うちの子達の中に、生前野球が好きだった子が何人かいる。
好きなチームを聞き出して、じゃあ今のチームを見たいかと聞くと首を横に振って否定する。
興味がないと答えるのだ。
とある二部のサッカークラブのサポーターだったと言う子に聞いても今は興味がないと答える。
うちの子達が飽き性なのではない。
これまでこう言う質問をした全員が同じように答えている。
生前の家族の元にいく霊と言うのはほとんどいないだろう。
霊が向かうのは、『波長が合う相手』の元だ。
そう言ったことを葉佩さんに説明した後で、コミュニケーションの取り方について教えることにした。
うまくいくかはわからないが、現時点で幽霊を拒絶する感情を持っていないなら、うまくやっていけるかも知れない。
「まず、質問は全てイエスノーで答えてもらうようにすると良いでしょう。顔を体にくっつけてもらって……そうです。その状態でイエスノーで答えられる質問をしていって、少しずつその子の事を知りましょう」
葉佩さんは俺が教えた事を忠実に守って実践している。
葉佩さんに憑いている霊も、構ってもらえて嬉しそうだ。
「葉佩さんはまだ霊を見る事ができないので、イエスノーだったり撫でてもらったりしてリアクションをもらいましょう。逆に、葉佩さんもご自分の事を積極的に聞かせてあげると良いと思います」
霊は基本的に素直だ。
こちらがお願いした事は、極力やってくれようとする。
だから『これをやってほしい』、『これはやっちゃだめ』としっかりと伝える事が大事だ。
ペットの躾にも似ているが、感覚はほとんど一緒だと思う。
精神が幼いのもあって、うちの子達もたまにペットのように感じるし。
葉佩さんはすぐにコツを掴んだようで、俺を放って二人の世界に入ってしまった。
「……こほん。だいぶコツを掴めたようですね。これからはそうやってお互いを知ってうまくやっていってください」
「すいません……楽しくてつい……」
「いえ。気持ちはわかります。私も同じでしたから」
葉佩さんと別れ、家に帰ってきた。
「もしかしたら……いつか、世界中の皆が同じように霊とコミュニケーションとれるようになるのかも知れないなあ……」
うちの子達はそんな事には興味なさそうに、俺にまとわりついて蠢いていた。
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