エピソード04:口裂け女
「蛍さん。お願いしたい事があるの」
「なんですか改まって」
「別に何もないわよ。今回頼みたいのは、都市伝説系。しかも有名なやつ」
なんだか改まった言い方だったが、特に意味はないらしい。
それにしても都市伝説系……。しかも有名なやつかあ。
「有名なやつだと、結構強力な怪異になってそうですね」
「そうなの。元々の知名度に加えて最近の噂もあわさって、これまでに3人病院送りにされてるわ」
「佐伯さんが依頼した相手ってことはプロですよね?どんな都市伝説なんですか?」
「口裂け女」
「おお……。ほんとに有名なやつですね」
「蛍さんのとこの子達の強さなら大丈夫だと思うけど、一応気を付けてね?」
「わかりました。早速動きます」
口裂け女か……。
都市伝説系は基本的に知名度に比例して強力になる。
加えて直近の噂も加わっている。これは強力になってそうだな……。
「まあ君たちなら大丈夫だろうけどな」
俺がそう言うと、うちの子達はそうだそうだと力強く頷いたのだった。
タクシーで現場に向かい、早速周辺の調査を開始する。
口裂け女は細い道路に出やすい傾向にある。今回の現場も住宅街だ。
しばらく歩き回ったが、特に変わりはなかった。
腹が減ったのでコンビニでご飯を買い、近くにあった公園のベンチに座って食べる。
「中々でないな……。そういや皆って、怪異が出る前にここにいるってわかるの?」
そういえばこれは聞いてなかったと思い、うちの子達に聞いてみた。
幽霊はいればすぐ見えるけど、怪異は突然現れて襲ってくるので、出現するまで俺には見えない。
うちの子達は首を回して曖昧な返答をしてきた。『部分的にそう』というサインだ。
「ものによる。それか、わかる時もある。って感じか」
これには頷いた。うーん。やっぱり幽霊と怪異は違うよな。
ご飯を食べ終わり、ゴミを持ったまま調査を再開する。
現場周辺をうろつき、念のために少し外れた道も歩くが、変化はなし。
調査を開始して結構な時間が経ち、辺りは夕暮れに染まって来た。
『逢魔が時』。『大禍刻』とも書く。
怪異に一番遭遇しやすいとされる時間帯だ。
魔に逢う時、大きな災いの時間。どっちも不吉な言葉だ。
「そろそろ出そうな時間帯だな。皆気を引き締めていこう」
そんな風にうちの子達に声をかけた、まさにその時。
前方の電柱の陰に独りの女性が立っているのが見えた。
長い髪。ベージュのトレンチコート。マスクをしている。
「(あれっぽいな……)」
俺は慎重にその女性の方に向かって歩いていく。
女性はじっとこちらを見たまま動かない。
やがて、女性のすぐ近くを通り過ぎようとして、
「ねえ。ワタシ、キレイ?」
女性が声をかけて来た。
「(きた!)」
(恐らく)口裂け女は俺に向かってお決まりのセリフを吐いた。
さて、どう答えるか。
「ねえ。ワタシ、キレイ?」
口裂け女はもう一度同じセリフを吐いた。
一応推定口裂け女の顔をみる。
「あれ……?結構美人じゃないか?」
しまった。思わず思った事が口に出てしまった。
……いや、実際美人だったんだから許してほしい。
「これでも?」
口裂け女がマスクを外す。すると、晒された口は大きく裂けていた。
「……思ってたよりはキレイかも」
またしても口を滑らせてしまった。
うちの子達は他の女を褒めたせいで激怒している。
俺の周りをぐるぐる回りながら、体のあちこちに痛みを与えてくる。
「痛い!痛いって!今はそんな事してる場合じゃないだろ!ごめんって!」
口裂け女は予想外の返答で少しの間フリーズしている。
そういやそんなパターンもあったな。
しかし口裂け女はフリーズから復帰すると、ハサミを取り出して襲い掛かって来た。速い――!
うちの子達がすかさずハサミを弾く。
だが、口裂け女はそのまま俺に掴みかかり、俺は押し倒されてしまった。
口裂け女の爪が、俺の肌に食い込み、ほんの少し出血してしまった。
――瞬間。世界が呪われた。
「やばっ」
俺が傷を負ったせいで、うちの子達のガチギレモードが発動してしまった。
このままではまずい。
以前は俺の声が届いたから大丈夫だったが、今回も届くだろうか……?
さっきまで晴れていたはずの空は雷雲に覆われ、風が強く吹き始めた。
俺はまだ口裂け女に組み敷かれてして、身動きがとれない。
「皆、落ち着いてこいつをなんとかしてくれ」
俺が声をかけると、うちの子達はガチギレモードのまま頷いた。
うちの子達は口裂け女を取り囲み、あっさりと俺から引きはがす。
そしてそのまま空間を引き裂いてどこかへと連れ去ってしまった。
「なんだ……?どこ行った?おーい、皆ー?」
声をかけても返答はない。
その代わり、断続的に何かが衝突するような衝撃が伝わってくる。
空気がビリビリと震え、大きな音が聞こえてくる。
もしかしてどこか別の空間に連れ去って、口裂け女を集団でボコボコにしてるのか?
少しの間それが続き、うちの子達が戻って来た。
口裂け女はいない。
「口裂け女は?もう退治した?」
うちの子達はうんうんと頷いた。解決したならいいが。
空を覆っていた雲は晴れ、風もやんでいる。
ガチギレモードもおさまったみたいだな。
その後、家に帰るまで俺はうちの子達が与えてくる痛みに耐えなければならなかった。『軽率に他の女性を褒めるのはやめよう』そう心に誓ったのだった。
あとでうちの子達に聞いたら、口裂け女を連れて入った空間は別次元の空間らしい。
幽霊はその次元と3次元世界を行き来できるんだとか。
幽霊が壁をすり抜けたりするのは、別次元と3次元を行き来できるからなんだと教えてくれた。
イエスノーでここまで聞き出せた。
俺はそろそろ質問のプロを名乗ってもいいと思う。
うちの子達はガチギレモードでも実害を出さないように《《配慮》》してくれた。
成長したなあ……。
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