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Nothing  作者: 桐 暁
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うんがない

あれから、遊さんとはまともに顔を合わせていない。

天翔には謝るように言われたし、自分でも謝らなければとは思う。

だけど気まずいのもあるし、会おうとしなければ、1年と3年とでは、顔を会わす機会がないのもあって踏ん切りがつかない。


家に帰ってきて、自分の部屋でゴロゴロとしながら、溜息をつく。

もう4日だ。

謝るにしても今更な感もあって、余計謝りにくい心情だ。

ノックの音が響いて、私は返事をする。


「カナ姉、今いいか?」


弟の海音がドアからひょっこり顔を出した。


「なに?」


体を起こして、海音を迎えれば、海音は後ろ手にドアを閉めながら、部屋に入ってきた。


「いやー、ホラ、もうすぐツチ兄の誕生日だろ?」


どこかモジモジとしながら言う弟を胡乱げに見遣る。

昔の可愛いげがあって、私を見上げてた頃ならまだしも、既に私の身長も越した、見た目だけは成人男性な弟にやられると正直言って寒気がする。


「それが?もう何あげるか決まったじゃん」

「そ、そうなんだけど」

「早く言えよ」


決心したというように、バッと顔を上げた海音は、少し顔を赤らめて口を開いた。


「あのさ!遊サン連れて来いよ!」

「……は?」


思わず私はぽかんとしてしまった。

何で今その名前が出てくるんだ。


「母さん達には許可とったから、大丈夫!ツチ兄も珍しく遊サンのことは気に入ってるじゃん?だから、ツチ兄の誕生日、遊サン連れて来いよ!」


目を輝かせながら言う海音に、プチッと音がした。


「アンタ誰に向かって命令してんの?人にモノを頼む態度っていうものがあるでしょ!?だいたいなんで私が!」

「だってしょうがねーだろ!タカ兄が帰ってくんの遅くて、もうツチ兄いるから頼めねーんだもん!いいじゃん、カナ姉だって同じ高校なんだから!!」

「だから口の聞き方!」

「すみませんデシタ!お願いシマス!これでいいだろ!?」

「イヤ」

「ちょっ!せっかく人がちゃんと頼んでんのに!」


どこがちゃんとだ、と口には出さずに文句を言う。

今正にその人物について悩んでいるのに、何事もなかったように誘えるかっ!


「オレ頼んだからな!連れて来なかったら、カナ姉のこと恨むから!!」


それだけ言うと、海音は大きな音を立ててドアを出ていった。

いや、待て。

私は約束してない。

閉まった扉に伸ばしかけた手を下ろし、溜息をついた。

最近溜息が絶えない。

幸せが駆け足で逃げていってる気がする。

そういえば、海音は遊さんに憧れていたな、と今更ながらに思い出す。

遊さんは中学までは天翔と一緒にリトルリーグで活躍していた。

中学最後の試合で怪我をして、高校は野球を諦めたらしいが、天翔の応援に試合を見に行って、同じく野球をやっている海音は遊さんのプレイに感動したらしい。

しかも頭も良くて、何度か勉強を見たりしてもらっていた。

だから遊さんとは中学は違うが、その頃からうちに遊びに来ていたこともあって、うちの家族とは良好な関係だ。

私は野球をやっていないし、勉強も野球バカの天翔と海音ほど出来ない訳じゃない。

だから遊さんがうちに来ても、私は挨拶をして少し話す程度の仲だった。


海音のお願いはどうしようか。

別に無視をしてもいいのだが、せっかくだ。

この機会にこの間のことを謝って、つち兄の誕生日に誘おう。

仲直り……という程の仲があるのかはわからないけど、きっとそれが一番いい。




「って決意したのにねぇ」


左手を頬に当てて仕方ないという視線をくれる麗を私は恨みがましく見る。


「だ、だって」


結果は尽く惨敗だった。

謝ろうと決心したのが金曜日。

さっそく月曜の朝、三年の教室に向かったのだが、遊さんの姿は見当たらず、昼休みも放課後もいなかった。

帰ってきた天翔に聞くと、どうやら風邪を引いて明日も休むということらしい。

さすがに家まで押しかけるのは無理だし、第一家の場所を知らない。

三日目、回復したという話を聞いて、昼休み尋ねると、生徒会の仕事で教室にはいなかった。

放課後は、まだ完調したわけではないから早々に帰っていったらしく、会えなかった。

四日目、昼休みに行こうとしたら、先生に手伝いを頼まれて、時間が潰れ、放課後はHRが長引いたせいで、やっぱり会えなかった。

五日目、もう今日がラストチャンスだった。

今日がつち兄の誕生日。

夜にご馳走とケーキを食べて祝う予定だ。

なのに、昼休みに三年の教室に行くと、今度は遊さんが先生の用事でいなかった。

意気消沈して帰ってきた私に麗の言葉が突き刺さる。


「運が無いと言うか、巡り会わせが悪いと言うか」

「謝れないまま一週間以上経っちゃったよ。誘えてもいないし」

「海音くんに恨まれるわねー」


面白がる口調の麗を睨むが、全く効果はなく、ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべる。

それすら様になるなんて、ホント美人は厭味だ。


「アイツ地味な嫌がらせしてくるから凹むんだよな」

「まぁまだ放課後もあるしねぇ。頑張りなさい」


人事だと思ってと、言えば、人事だものと返ってきて黙り込む。

麗に口で勝てた試しがない。

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