すきじゃない
奏のきょうだい
・長男:地人
・次男:天翔
・長女:奏
・三男:海音
となっています。
上から、社会人、高三、高一、中二です。
「遊さん、これ。ありがとう」
後日、私は直接遊さんに借りた本を返しに来ていた。
借りる時は人経由でも構わないが、さすがに返す時は直接でなければ失礼だ。
「ああ、もう読んだのか」
「うん、楽しかったよ」
私の言葉に微かに微笑む遊さん。
「それはよかった」
「じゃあ、ありがとう」
やはり私はそそくさと立ち去る。
遊さんと関わると共に、ここは三年生の教室。
一年の私にはあまり居心地がいいとはいえない。
「かな!」
「天翔!」
朝練が終わったのだろう兄の天翔が教室に現れた途端、私に抱き着いてきた。
「かな、おはよ!オレに会いに来てくれたの?」
確かに朝練に出るため、家を早く出る天翔と会うのは、昨日の夜振りだ。
しかし毎日顔を合わせている妹にこの態度はなんだろう。
シスコンにもほどがある。
「離れてよ。天翔に会いに来たわけじゃない」
「えぇ〜っ!?じゃあなんでかながうちの教室にいるんだよぉ」
口を尖らして文句を言う天翔に、教室にいた女子の先輩から黄色い歓声が上がる。
カワイイって、高三にもなる男の仕草として間違ってないか?
私はげんなりしながら、天翔から離れる。
「遊さんに借りてた本を返しに来ただけだ!」
「遊に?かなと遊ってそんな仲っ!?」
どんな仲だ。
本を貸し借りするなんて、ただの知り合い……友人だろう。
「天翔、そろそろ離してやれ。ショートに奏が遅れるぞ」
後ろからかかった声に振り向けば、遊さんがこちらを見ながら呆れた顔をしていた。
「うわ、ホントだ!」
時計を確認すれば既にSHRが始まるまであと十分に迫っていた。
「じゃあ私行くから!」
「あ、かな!待って。今日お昼いっしょに食べよ!」
「え!?なんで天翔と……」
走り出そうとした足を思わず止める。
「兄貴の誕生日、来週だろ?打ち合わせ!」
一番上の兄は既に働いているが、うちからは出ていない。
だから、家族の誕生日にはいつもきょうだいでサプライズをするが、家で話すことは出来ない。中学の時は弟である海音と話し合っていたが、今年は私と天翔が同じ学校だから、私たち二人が主催だ。
「そっか!わかった。どこ行けばいい?」
「中庭の噴水近くに集合で」
「オッケー、じゃあ私もう行くから!」
天翔と話していたら、本当にやばい時間になってしまった。
慌てて駆けて、なんとかギリギリSHRに間に合うことが出来た。
昼休み――
「私も行っていいの?」
私は、ちょっと困り気味に首を傾ける麗の腕を引っ張って中庭に向かう。
「むしろ来て!高校生にもなって兄貴と二人でお弁当☆なんて、笑えない」
よく考えたらそうなのだ。
朝は急いでたこともあって、深く考えずに返事したけど、妹の私から見てもシスコンの天翔と二人で昼飯なんて、ぞっとする。
「まぁ、奏がいいなら、私はいいけど。邪魔じゃないかしら」
「大丈夫!天翔も麗のことは妹みたいに思ってるし」
麗とは小学生の頃からずっと一緒だ。
うちによく遊びに来てたこともあって、麗はうちのきょうだいと仲がいい。
「たか君と話すのは久しぶりだわ」
天翔指定の場所に着いたけど、まだ天翔はいなかった。
私達は授業が少し早く終わったし、三年の教室よりも一年の教室の方が中庭に近い。
とりあえず、適当なベンチに座って、天翔を待った。
「ねぇ、奏。あれから真田センパイとはどうなのよ?」
またか。
私はうんざりとしながら、麗を見る。
「だーかーらー、何もないってば。今日も普通に本返しただけ!」
「ふうん。でも本貸し借りするくらい仲がいいのよねぇ」
今日はこの話ばかりだ。
天翔も麗もやたらと気にするが、本の貸し借りってそんな重要?
「別にともだちなら普通じゃん」
「友達ねぇ」
「何よ!?」
麗のうたぐり深い視線に少し苛立つ。
「だって私達は一年で、真田センパイは三年生よ。しかも面識があったとはいえ、まともに話したのは四月になってから。それでトモダチ?」
「わ、悪い!?」
「悪くはないけど、疑いたくなるわ〜。そこに他の気持ちが無いのか」麗のからかう口調と笑みにかっとなる。
「だから、遊さんのことは好きじゃない!苦手だっつってるだろ!!」
勢い立ち上がりながら叫んでしまった。
中庭にちらほらといた人の視線が気になるが、恥ずかしさで周りに気をする余裕がない。
その中で唯一視界に入る真正面の麗の顔が驚きで固まっていた。
少し青ざめてるのは気のせいか。
「奏…………センパイが」
麗の口から出た言葉にバッと後ろを振り向けば、気まずげに足を止めた天翔と、その横で表情の無い遊さんがいた。
「遊、さんっ!?」
声が掠れて裏返る。
まさか本人がいるなんて……。
遊さんは少しだけ口角を上げて、ふっと笑うと、こっちをもう一度見る。冷たい、鋭い視線に体が固まる。
「立ち聞きするつもりはなかったが、奏の気持ちはわかったよ。天翔の妹だからって関わり過ぎたみたいだな。それじゃあ」
ひらっと手を振って踵を返す遊さん。
「へぁっ!?遊、ちょっ、待て!」
固まったままだった天翔が、遊さんと私をキョロキョロと見比べる。
体を遊さんの方へ向きながら、天翔はキッと目線を強くして私を見る。
「奏、今日帰ったら説教!!兄貴のはまた明日なっ!」
それだけ言って天翔は遊さんを追い掛けて行った。
「奏、ごめん……」
麗の方を見れば、申し訳なさそうな顔。
いつも自信に溢れてる麗には似合わない。
「なに、が?」
「……泣きそうな顔してる」
そう言われて始めて気付く顔の強張り。
なんで、なにが、どうして。
泣きたい理由が自分でわからない。




