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Nothing  作者: 桐 暁
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とくいじゃない

登場人物

かなで

ゆう

れい

天翔たかと

「奏」


低い掠れたような声が聞こえて、振り向いた先には本を片手にした遊さん。

彼はこんなうだるような熱さにも関わらず、涼しげな澄ました顔をしている。


「何?遊さん」


彼は私の兄・天翔の親友で、いつも兄といるせいか、私のことを呼び捨てで呼ぶ。

そんな彼に私もセンパイをつけるには抵抗があり、さん付けにさせてもらっている上、多少のタメ口は多めに見てもらっている。


「これ。この前言ってた本」


彼は手に持っていた一冊のハードカバーを私の腕に載せる。

その題名を見て、以前彼から借りる約束をしていた小説だと気付いた。


「ありがとう。でも、天翔に渡してくれればよかったんだけど」


彼を見上げれば、銀縁の眼鏡の奥に光る冷たい瞳が私を捉える。


「アイツは授業終わり次第早々に部活に行った。俺もこれから、生徒会だから」


別に放課後に渡そうとしなければいいのでは、と思ったが口には出さない。

彼は忙しいから。

なんせ生徒会長。

だいたい私に関する用事なんて、放課後まで忘れていても仕方ない。


「忙しいのに、わざわざありがとう。それじゃ」


私は早々に遊さんから離れる。

無口無表情な彼と話すことは少ないし、何より私たち二人を見る目が痛い。

彼は生徒会長であることを抜いても目立つ人間なのだ。

成績は学年トップで、運動だってできる。

愛想はないが、何よりその整った美しい顔は女子によくモテる。

やたらと愛想を振り撒く運動しかできない野球馬鹿の天翔と我が校の女子の人気を二分していると言っても過言ではない。

そんな彼と私が一緒にいても文句を言われず、視線だけの批判を受けるのは、ひとえに天翔の妹であることと、私が入学当初に絡んできた不良三人を一人で病院送りにしたためだ。

それでも悪意ある視線を受けて心地好い訳ではないので、遊さんと関わる時には、『手短に』がモットーだ。




横で待たせていた友人の麗を促し、廊下を進む。

後ろから遊さんらしき視線を感じるが、もう振り向かない。

しばらくすれば去るだろう。

私は麗と共に角を曲がった。




「ねぇ、奏は真田センパイのことどう思ってるの?」


やたらと色気を持つ麗が形のいい指を顎に当てながら、聞いてきた。

あの後私たちは駅前のカフェに移動し、お互い好きなケーキと飲み物を楽しみながら、会話に耽っていた。


「どうって、別に」


麗は美人で女らしい。

ラブラブな彼氏がいるせいか、周囲の女子のように遊さんや天翔に恋愛的興味はないらしい。


「なぁに、その答え。好きなのか聞いてるの」


麗は私の回答に不満げに口を尖らす。

そんな仕種すら様になるのだから、男は簡単に落ちるだろう。


「好きかって………別に普通。ただあの人は得意じゃない」


人間誰しも苦手な相手がいるものだ。

私にとっては遊さんだ。

無口無表情な彼は、感情を読み取りにくい。

ストレートに言われないとわからない私には彼の少ない言葉や多少の表情の変化だけでは何を思っているのかわからない。

だから、あまり彼のことが得意ではない。


「ふうん……つまんないの」


この女は!

相変わらず人をだしに使うのが好きらしい。

私の近くに男の影があるととりあえず恋愛感情を問い質してくる。

短い付き合いではないので慣れっこだが、コイバナ好きは普通の女子と変わらない。


「つまらなくない。アンタは、人のことをネタにし過ぎ。たまには自分のことをネタにしろ」


私の答えに、麗は口に運びかけていたフォークを止めると、ニヤリと私を見上げた。


「な、何?」

「いいのぉ、私のこと話しても?奏じゃついてこれないような濃い話するわよ」


やたらと色気を含んだ物言いに思わず体を引いてしまう。


「やっぱいい!」


私の反応に麗はニコリと笑う。


「冗談よ。アンタのカワイイ赤面顔を拝んでもいいけど、ほとんどついてこれないだろうし。私と早良さわらは相変わらずラブラブよ」


だから、一緒に話せるように早く適当な男と付き合いなさい、というのが麗のいつもの仕上げ文句だ。

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